第7話 魔力操作
トロールと戦ってから10日、今日はルーナさんとエリーさんは、ダンジョン深層にモンスター狩りに出掛けている。僕はと言うと、エリーさんの教えで魔力操作の基本修行をしているのだ。
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トロール戦の翌日、1階層にて━━
「アステル、今日から我もお主を鍛えてやる事にしたのじゃ」
「ええ!? 急にどうしたんですか?」
「昨日、お主が寝ておる間にルーナと話したのじゃ。実戦も大事じゃがそれだけでは精神がもたんからのう」
「精神ですか?」
「そうじゃ、肉体の傷は魔法で治せるが、ああ何度も死ぬ目に会うておったら心が壊れるのじゃ。恐らくルーナはそれで強くなったのであろうが、お主は凡人……いやそれ以下じゃからのう、同じにはならぬのじゃ」
「ぼ、凡人以下……」
酷すぎるなんて事を言うんだこの人は……
「一々落ち込むでない、才能の壁など努力でぶち壊せば良いのじゃ。ルーナと肩を並べたいのであろ?」
「……ですね、頑張ります」
「まあ、今のままでは天地がひっくり返ってもどうにもならんがのう」
「……エリーさんは上げたいんですか? 落としたいんですか? そう言うのは良いから続きをどうぞ」
「いや、すまぬ、お主が一喜一憂するのが面白くてのう、それでじゃ。お主は先ず魔力操作を覚えるのじゃ」
「魔力操作ですか?」
「うむ、それだけで今の数倍は強くなれるのじゃ」
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そう言われて練習し初めたのは良いんだけど、地味にキツい、この今やってる指先に魔力を集める訓練、ちょっと集中を切らすと霧散するから気が抜けない、しかもこの周りにモンスターが居る状況でやると指先だけに集中してたらやられるし……
周りにはゴブリンやオークがうろうろしている。攻撃も仕掛けてくるから気が抜けないし、倒さないと、どんどん集まってくる。
右手に風切りを持ちモンスターを倒し、左手人差し指に魔力を集める訓練を続ける。
難しいけど、戦いながら魔力操作を使えなければ意味が無いのだ。
「ああー! また消えた、お前ら邪魔なんだよ!」
「何をイラついておるのじゃ、そんな基本中の基本が出来ないのは、お主の集中力が散漫だからじゃ」
僕がゴブリンに八つ当たりしていると、ルーナさんとエリーさんが戻って来た。
「あれ? 二人とももう戻って来たんですか?」
僕はゴブリンの群れから離れルーナさん達のところに移動する。ルーナさん達が居るとゴブリンも寄って来ないので安心だ。
「…ん、ただい…ま」
「お帰りなさいルーナさん」
ルーナさんの顔を見てるとイライラなんて何処へやら、和むなぁ。
「なんじゃ、我には言わんのか?」
「ああ、エリーさんもお帰りなさい」
「全くお主はルーナと我への態度が違いすぎやせぬか? まあ良いのじゃが」
腰に手を当て少しむくれるエリーさんが、ちょっとだけ可愛く見える。
「いえっ、すいません。そんなつもりは無いんですけど……」
少し気まずい空気に耐えられず、僕はエリーさんから目を逸らした。ルーナさんが心なしか嬉しそうにしているのは何故だろう?
「進行状況はどんなものじゃ?」
「はい、ゴブリンやオークは二、三匹相手ならなんとか保てるんですけど数が増えると消えちゃいます」
「ふむ、少しは成長した様じゃな、まあルーナは1日で完全にマスターしたがのう」
ルーナさんと一緒にしないでよ。ルーナさんは無意識下で出来てたんだから、それに元々の才能が違い過ぎるんだから……
「才能とか思っとらんか? そんな事考えておってはいつまて経ってもルーナには追い付けぬぞ?」
「うっ……そ、そんな事はぁ……思ってないですよぉ……」
何で解ったんだ? 僕の考えてる事……
「お主は本当に解りやすいのう」
「大丈夫、アステル…は、いつも一生懸命、直ぐに出来る…よ」
「はい、ありがとうございます。頑張ります」
ルーナさんに励まされて、何だかちょっと嬉しい。
この後、実戦と魔力操作の訓練を交互にやりながら、この基本練習を繰り返し、30日がたった。
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今日は実戦で魔力操作を利用する為、5階層に来ていた。
ルーナさんに助けられて以来久しぶりの5階層だな、1階層と景色はあんまり違わない、モンスターさえ居なきゃ昼寝するのに良さそうな所だ。
「今日からは魔力操作を使って実戦をするのじゃ」
「はい、エリーさんどう使うのか解りません」
「お主は何のために今日まで魔力を自由に操る訓練をしたと思っておるのじゃ、これまでやった基本をやれば良いのじゃ」
「…ん、アステル大丈…夫、今日はあれとや…る」
ルーナさんが数m先に見えるモンスターを指差した
「ルーナさん……あれってホブゴブリンですよね?」
「…ん」
やっぱりそうか、まあトロールやゴブリンジェネラルに比べたら可愛いもんだよね……大丈夫、死なないはずだ。
「が、頑張ります」
「アステル、ちゃんとこれまでの訓練を思い出してやるんじゃぞ?」
「はい!」
僕はホブゴブリンに集中し風切りを抜く。
えーと、先ずは足に魔力を集中させて、踏み込む!
地面を蹴るとこれまでと、は比べ物にならない早さで一気にホブゴブリンとの距離が詰まる。
「うわっ! なんだこの早さ!」
自分の早さに驚いて集中が途切れ、足に集中させていた魔力が霧散してしまった。
「こりゃっ! 集中せぬか! 攻撃が来るのじゃ!」
ホブゴブリンが拳を振り下ろしてきた。
ええーと、こういう時は全身に満遍なく魔力を纏わせて、受ける!
風切りの腹に腕を当て側面を盾変わりにしてホブゴブリンの拳を受け止めると、アレンと遊びで格闘ごっこをしていた時の、アレンのパンチ程度にしか衝撃を感じなかった。
あれ? 本当にこいつホブゴブリンなのか? それともこれが魔力操作の効果なのか?
何となく魔力操作の効果を実感してきた、じゃあ今度は腕と足に魔力を多目に集めて
「うそぉ!? なに? この威力」
僕が風切りを振りきると、ホブゴブリンの腕がまるで細い木の枝でも切る様に簡単に切り落とせた。
少し戸惑ったけどこれならいける。
信じられない事に、ほんの数手の攻防でホブゴブリンを倒す事が出来た。
「まずまずじゃのう、どうじゃ? 戦ってみた感想は?」
「信じられないです。まるで自分じゃないみたいだ」
「アステル頑張っ…た。自信持って良い…よ」
「はい、ありがとうございます。もっと修行していつかルーナさんを守れる様になりますね」
「…ん、期待して…る」
「ははは、何とも無謀な話じゃな」
「良いじゃないですか、目標なんですから」
まったく、この人はいつも一言多いよな……
「いやすまぬ、バカにした訳では無いのだ。何とも壮大な目標だったのでな。そうじゃな、やってみねば結果は出せぬ、その気持ち忘れるでないぞ」
「はい!」
「…ん、じゃあ明日か…ら、もっと修行厳しくす…る」
「えっ?」
今より厳しい修行……死ぬかも知れない……
「そうじゃな、お主がルーナを守れる実力をつけるなら、死ぬか強くなるか位の特訓をせねばのう」
どうしてだろう? 微笑むエリーさんが怖い……
「うっ、それはぁ……ちょっとぉ……」
「ははは、案ずるでない、どんなに酷い傷を負っても我が治してやるからのう。悪くても精神が壊れて廃人になるだけじゃ。死にはせぬ、はははははは」
いや、廃人になったらダメだよ……死んでんのとあんまり変わらないよね? 笑い事じゃないからー!




