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第6話 心地好いバカ

 今日もダンジョン1階層で食材採取クエストを(こな)した僕は、ギルドを後にし家路についた。


 最近僕が食材鑑定スキル持ちだと情報が広まり指名でクエストを受ける事が多くなったのだ。指名クエストは普通に受けるより報酬が多くなるのは良いのだけど、指名が後を経たないから忙しくて目が回りそうだ。


 家に近付くに連れ、なんだかそわそわした男の人の姿が目に突き始める。


 何かあったのかな? あれ? 家の周りをうろうろしている男の人が居るぞ? それも1人や2人じゃない、家で何かあったのか?


 僕は足早に家に帰った。


「ただいまー、外で人がうろうろしてるけど何かあった?」


 家に入り勢いよくリビングの扉を開けると、ルーナさんが帰って来ていた。


「あ、ルーナさんお帰りなさい」


「…ん、ただい…ま、アステルもお帰…り」


「ただいま。あれ? その人は?」


 ルーナさんに挨拶を済ませ、食卓を囲む家族の方を見ると、黒髪の綺麗な女の人が座っていた。


「仲間…になったエリーだ…よ」


「エリアス・アッシャス・シャマイセレーネ・メテオールコスモじゃ」


「エシアッシャマイセレー? すいません長くて覚えられません」


「エリーで良いのじゃ」


「じゃあ失礼して、エリーさんが仲間になったって言うのは?」


 ルーナさんはイルムの町での事を僕に話してくれた。


「へぇー、ドラゴンなんですか? そう言えば角がありますね。それで外でうろうろしている人達は何ですか?」


 ルーナさん達の話によると、イルムの町で町の上空までエリーさんに乗って行ったら町がパニックになったので、少し離れた所で降りて歩いて家に帰ると、道中すれ違った人々の注目を浴びて、声を掛けられはしなかったものの離れた場所から見られながら付いてこられた、と言うことだ。


 それで家の外がああいう状態に……そんなに気になるなら声掛ければ良いのに、まあ歩く度に声掛けられたらうっとうしいだろうから、良かったのかも……


「それで何処か泊まる宛はあるんですか?」


「その話何だけれど、ルーナちゃんが最初に使ってた部屋を使ってもらおうと思うの」


 ルーナさんが使ってた部屋。実を言うとルーナさんがこの家に来た時は空いていた部屋をルーナさんに使ってもらっていたのだが、毎晩僕の部屋で寝るのでいっその事、共同で僕の部屋を使え、ということになったのだ。


「そうだね。丁度空いてるしルーナさんが連れてきたなら何の心配もないしね」


「ありがと…う」


「気にしなくて良いのよ。沢山居た方が楽しいのだから」


「でも、食費が掛かるから沢山稼…ぐ」


「大丈夫ですよ。僕も最近結構稼げる様になりましたから、食費の心配はいらないです」


「なんじゃ、金の心配か? 案ずるでない、ほれ」


 エリーさんが手を翳すと、収納魔法を使った気配はないのに突然、何も無い所から人の頭程の大きさの金塊が現れた。


「今何処から出したの?」


「出したのではない。今作ったのじゃ、この程度の物ならいくらでも作り出せるぞ」


「エリーちゃんそれは受け取れません。しまって下さいね」


「何故じゃ? 必要なのであろう?」


「あのね、金塊を作り出せるその能力はとても凄いと思うの。だけど何の苦労もせずに財を手にすると人間は自堕落になってしまうの。だからちゃんと仕事をして稼いだお金で生活をしなきゃダメなのよ」


「ほう、人間にしては殊勝な心掛けじゃのう、郷に入っては郷に従えと言うしのう。よし、我もルーナと共に冒険者と言うのをやるのじゃ。己の食い扶持くらいは稼いでみせるぞ」


「…ん、じゃあ明日から一緒に行…く」


 この日は僕が取ってきた食材を使い、ささやかなもてなし料理を作った。

 エリーさんはこの料理がかなり気に入った様で、上機嫌に食事をしていた。ドラゴンの食欲凄いな……ルーナさんも負けてないけど……



 ━━翌日エリーさんを連れて僕達はギルドにやって来た。


「おはようございます。聞きましたよルーナさんドラゴンを従魔にしたんですって?」


 ギルド職員の人達がルーナさんを中心に集まる。


「違…う仲間」


「エリアス・アッシャス・シャマイセレーネ・メテオールコスモじゃ。今日から世話になる、宜しくなのじゃ」


 エリーさんがフルネームで自己紹介すると、職員さんは誰も覚えられなかった。だよねー長いよねー


 早速登録申請を済ませ測定室に移動する。エリーさんの測定のついでに、僕とルーナも更新をした。


アステル

筋力122

瞬発力126

魔力199

生命力175

スキル

賢者の卵、調理師A、食材鑑定A、剣術D、回復魔法D、収納魔法D、回避術D


ルーナ

筋力1500

瞬発力1500

魔力1500

生命力1500

スキル

スキルドレイン、金剛力、金剛体、剛拳、剛脚、俊足、斧術S、短剣術S、体術S、観察眼S、自然治癒S、毒耐性A、麻痺耐性S、病耐性S、菌耐性S 、収納魔法A 、威圧、ー、ー、ー、ー、ー


エリー

筋力1500

瞬発力1500

魔力1500

生命力1500

スキル

全属性耐性S、威圧、体術S、火魔法S、風魔法S、土魔法S、雷魔法S、水魔法S、回復魔法S、自然治癒S、毒無効、麻痺無効、病無効、菌無効 、ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー



 流石と言うべきなんだろうか……異常過ぎる。なんだ全属性耐性に状態異常の無効って……この人に勝ったルーナさんていったい……僕のレアスキル食材鑑定が霞む……いや、最早見えない



「あれ? ルーナさんスキル1つ増えてますね」


「ど…れ?」


「この威圧ってスキルです。エリーさんにもありますね」


「本当ですね。たぶんスキルドレインの効果じゃないですか?」


「ええ! これってそういうスキルだったんですか?」


 スキルドレイン。数千万人に1人と言われる、超特級スキルで戦闘中、ごく稀に相手のスキルを覚える事が出来る。強敵で有れば有るほど覚える確率は高いと言われていて、歴史上所持していた者は数人のみ。現在は世界中でルーナ以外持っている者は居ない。


「それよりもエリーさんが凄いですよ。流石はドラゴンと言うべきか、ステータス全て測定上限越えてますし、超特級スキルだらけですし、実力が計り知れないです」


 測定員さんが感嘆の声を上げている。


「数値などに興味はないのじゃ。これで手続きは終わりかの? ならばとっととダンジョンに向かうのじゃ」


 エリーさんは自信のステータスには全く興味を示さず、さっさとダンジョンに向い歩いて行く。


 今回はクエストは受けずダンジョン探索することにした。



「ふむ、これがダンジョン……さして興味もなかったからのう、入ったのは初めてなのじゃ。楽しめそうな相手は居るのか?」


「ここは第1階層なんでエリーさんの相手になるモンスターは居ないですよ」


「なら我の相手になる者が居るところまで行くのじゃ」


「いや、それだと僕が付いて行けないですよ」


「大丈…夫、今日はエリーも居るか…ら」


 ホントに? 本気だよなぁ……断る選択肢はないよな、たぶんとんでもないの相手にやらされるんだろうな……ははは……


「はぁ……頑張ります」


「…ん」


 僕達は僕が初めてダンジョンに入った時に落ちた谷に向かった


「エリーお願…い」


「ここを降りれば良いのじゃな」


 エリーさんは背に翼を出し、ルーナさんはエリーさんの右腕に抱えられ━━


「とうした? 小僧、お主1人では降りられぬのだろう?」


「いや、その……」


 その抱え方じゃ胸が当たりそうで……とは言えないしどうしよう?


「早くせぬか」


 エリーさんは左腕で僕を強引に抱き寄せる。


「あ、あの……え、エリーさん……胸が……」


 や、柔らかい感触が……ダメだ別の事を考えないと……


「なんじゃそんな事を気にしておったのか、難儀な奴じゃのう」


「アステルのエッ…チ」


 エリーさんは谷へと飛び降り、翼を広げ僕達に負担が掛からないように緩やかに降りて行った。



 飛び降りて暫くすると、32階層の僕とルーナさんが出会った湖に出た。普通に歩いたらルーナさんと一緒でも7日かかるのに、あっと言う間だったな。


「ふむ、先程の場所よりは強い者が居りそうじゃのう」


「今日はここで、修…行する」


「怖いよぉ怖いよぉ」


 怖がる僕をあまり気にする様子もなく、エリーさんはどんどん奥へ進み、次々モンスターを倒していく。


 ルーナさんは僕に危害が及ばない様に、様子を見ながら戦ってくれてるみたいだ。


 うわぁ……32階層のモンスターが全く相手になって無い、ホントに人なのか? ああ、1人はドラゴンだった。まるで災害みたいだな……


「エリー、そろそろ終わ…り」


「ふむ、軽い運動にはちょうど良いのう」


 二人は辺りのモンスターを粗方片付け僕の所へ戻って来た


「アステル修…行」


 ルーナさんが残した一匹のモンスターを指差す。


「……見間違いじゃなければ、あれってトロールですよね?」


「…ん、武器壊したから大丈…夫」


「そういう問題では……」


 トロール。体長4mほどの丸々太った巨人型モンスター。動きはそれほど早く無いが力は凄まじく丸太の様な棍棒を武器にしている。今回はルーナが武器を壊しているが素手でもアステルの実力では下手に受けると致命傷になりかねない。


「小僧、案ずるでない、腕がもげようが足がもげようが死なぬ限り我が治してやるのじゃ、安心してやるが良い」



 いやいやいや、なんて事言うんだこの人は……治してもらえてももげるのはダメだよ? 無茶苦茶言うよな……


「はは……ありがとう……ございます……仕方ない、頑張ります! うおりやーー!!」


「とわー! たりゃー! うきゃー!」


 僕は必死にトロールの攻撃を避け、斬りつける。


 切れ味の良い風切りだが、今の僕の剣技では薄皮一枚切り裂くので精一杯。


「ふむ、何ともみっともない戦い方じゃのう、才能の欠片も感じられん、ルーナは何故あれと組んでおるのじゃ?」


「アステルは、あまり強くな…いけど、一生懸命…それに私から離れて行かな…い」


 ルーナは真っ直ぐアステルを見つめエリーに語る。これまでに仲間になりたい、弟子にしてくれと寄ってきた人は居た。しかしどの人もルーナの無表情さとぎこちない話し方を嫌がり、厳しい修行や激しい戦闘に付いて来れず逃げ出す者ばかりだった。最近ではクエストに誘われても、必要な素材が集まればそれっきり近寄っても来ない者ばかり、ルーナはずっと寂しかった。アステルを助けた時も仲間になるとは約束してはいたものの、ギルドに送り届けたらまた離れていくのだろうと思っていた。しかしアステルは離れない、厳しい試練を与えても必死に応えようとしてくれる、それだけではなく自分を喜ばせようと毎日笑顔で接してくれる。


「アステルと居る…とこの辺がほわほわす…る」


 そう言ってルーナは胸の辺りに手を当てた。


「そうか、離れて行かぬか……」


 エリーもルーナの気持ちは理解出来る。これまで出会ってきた者達はエリーに危害を加えようとする者、利用しようとする者、恐れる者ばかりだった、アステルを初めその家族は誰1人どれにも該当しない、財を与えようとしても受け取ろうともしない。


「そうじゃな、教育なのか天性なのか……ふふ、バカな奴よのう……じゃが心地好いバカじゃ」


 エリーは静かに微笑む。



 ちくしょう! 聞こえてんだよ、才能が無くて悪かったな! 誰が離れるか! 最初は只の憧れだったよ……でもさ、寂しそうだったんだ、悲しそうだったんだ、些細な事に喜んでくれたんだ、一緒に居たいと思ったんだ、足手まといなんて自分が一番解ってんだよ! だから強くなるんだ!


「うあぁぁーー!!」


 アステルは一歩また一歩とトロールの懐に深く踏み込む━━



ーーーーーーーーーーーーーーー



 あれ? 何だろう…体がふわふわする、目の前が真っ暗で力が入らないや、でも何だか気持ちいいな……


「アステル、目が覚め…た?」


 だんだん意識がはっきりしてきて、うっすら目を開けると目の前にルーナさんの顔が見える。


「あれ? ルーナさんどうしたんですか? なんで僕寝てるんですか?」


 目を覚ますと、仰向けに寝かされルーナさんの膝枕に頭を乗せていた。


「ああ、すいません」


「もう少し休…む」


 僕は体を起こそうとしたけど、ルーナさんに肩を押さえられ寝かされた。


「トロールの攻撃をまともに受けたのじゃ。治療はしたのじゃが、多少ダメージは残っておろう? 今はルーナに甘えておくのじゃ」


「ははっ、全然記憶にないや、ルーナさんすいません頑張って強くなりますから、もう少し待ってて下さいね」


 優しく僕の頭を撫でるルーナさん、僕にはルーナさんが優しく微笑んでいるように見えた。

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