第5話 漆黒の竜族
今回はルーナのお話です
アステルが1人グランセルダンジョン1階層で修行をしている頃、ルーナはグランセルから北へ7日程の場所にある、標高500m程の霊峰エルド山の麓にあるイルムと言う小さな町に来ていた。
小さな町ではあるが、エルド山はこの辺り一帯を守る神が宿っていると信じられており、参拝に来る者で絶えない町なのだ。
ここに来た理由はエルド山の頂上に住み着いたドラゴンの討伐、又は撃退の依頼があったからだ。
ドラゴンと呼ばれるモンスターは、グランセルダンジョンの30階層より深い階層に居るモンスターに匹敵するものから、それを遥かに凌ぐ強さのものまで存在し、かなり危険な依頼と言える。
イルムのギルドにやって来たルーナは真っ直ぐ受付に向かう。
「お久しぶりですルーナさん、急な依頼を受けて頂きありがとうございます」
受付職員の言葉に無言で頷くルーナ。
「早速依頼の話なのですが、ドラゴンはこの街の裏手にあるエルド山の頂上に住み着いた様で、私どもも手を出せずに困っているのです。他にも何人か冒険者に集まってもらっているので一緒に向かって頂けますか?」
ギルド職員に紹介されたのは銀ランクの冒険者が五人、どの冒険者もこれからドラゴンを相手にする恐怖で震え青ざめている。
「一人で良…い」
ルーナはその状態を見て足手まといになっても役には立たないと判断し共闘を断る。
「ですが……」
それでも一人でと言うのは危険が大きいと、連れていくよう進めるギルド職員。
「守りながら…だと危な…い、一人の方が良…い」
「そうですか……お役に立てなくて申し訳ありません、お願いします。無理はしないで下さいね」
ギルド職員は申し訳なさそうに詫びを入れ、集まっていた銀ランク冒険者達を解散させ、冒険者達は安堵の表情を浮かべギルドを後にした。
「じゃあ、行ってく…る」
「お気を付けて」
ギルド職員はルーナに深々と頭を下げ見送った。
ルーナは足早にエルド山に向かい頂上を目指す。
ドラゴンが居る所為か辺りにモンスターの気配はなく、嵐の前の静けさの様に緊張した空気が流れる。
鳥や虫の鳴き声も聞こえず、風が草木を揺らす音だけが聞こえる中、数時間程山道を歩いて山頂付近に差し掛かった時━━
ドラゴン寝て…る?
全長25m程の全身を漆黒の輝く鱗に被われたドラゴンを発見し、様子を伺うルーナ。
ドラゴンはルーナの気配に気が付き目を開けた。
「なんじゃ、人の子が我に何か用か?」
「しゃべっ…た」
「我が言葉を話すのが不思議か? お主も話しておるではないか」
「モンスター…は、しゃべらな…い」
「上位種である我をモンスター扱いとは人間とはなんとも愚かじゃのう。で、何の用じゃ?」
「ここに居る…と皆迷惑、どこかに行…く、じゃないなら倒…す」
「お主が我をか?」
ルーナは無言で頷く。
「ははははははっ! 面白い事を言う童じゃのう。……ふむ、見たところそれなりにはやるようじゃ。良かろう、お主が我を倒せたなら言うことを聞いてやろう、なんなら従者にでもなってやっても良いぞ」
そう言いながら体を起こし大きく翼を広げるドラゴン、ルーナは大斧を取り出し両手で構えた。
「さあ、かかってくるのじゃ!」
ドラゴンの言葉を皮切りに戦闘が開始された。
ルーナがドラゴンの懐に飛び込み、大斧を振ると激しい打撃音が辺りに木霊する。
「硬…い」
「うぬぅ、やるではないか」
硬い鱗に守られ外傷は無いものの体の芯に衝撃が伝わる。
ドラゴンは尻尾を叩き付けルーナを攻撃するが、ルーナは斧でそれを弾き返し飛び込んで蹴りを打つ。
ドラゴンは蹴りを放たれた部位に力を込め、ルーナを弾き飛ばす。
「はははは、面白い、面白いぞ! お主の様な剛の者は久しぶりじゃ、はははははは!」
互いに一歩も譲らず攻防は三日三晩続いた。
木々は倒れ、大地は裂け、山の形は変わり、延々と轟音がイルムの町まで響く。
三度目の夜が明け日が昇り始めた頃、互いに肩で息をし全身傷だらけで見つめ合い━━
「この辺りで止めにせぬか?」
「どこか行ってくれ…る?」
「そうじゃな敗けを認めよう。お主名はなんと言う?」
「ルーナだ…よ」
「ルーナか良い名だ……ルーナよ、先刻の約定通り我はルーナの従者になるのじゃ」
「従…者?」
「そうじゃ、簡単に言えばルーナの子分になると言うことじゃ」
「いらな…い」
「なんじゃと!? 人の身で竜族を従えれるのだぞ? こんな良い話を蹴ると言うのか!?」
「子分は、いらな…い、仲間なら良い…よ」
「……仲間か……はははは! 欲のない奴じゃ、良かろう我は今からルーナの仲間じゃ」
「宜し…く、名前教え…て」
「エリアス・アッシャス・シャマイセレーネ・メテオールコスモじゃ」
「長…い」
「長いかのう? そうじゃな、エリーとでも呼ぶが良い」
「…ん、宜し…くエリー」
「宜しくじゃ、ルーナ」
会話をしている間にみるみる傷が完治していく二人、戦闘の痕など無かったかの様に綺麗な身体になった。
「じゃあ、町に報告に行…く」
ルーナが踵を返し山を降りようとすると━━
「ルーナ、我の背に乗るが良い、そこに見える町で良いのじゃろ?」
そう言いながらエリーは身を低く伏せた。
「…ん」
ルーナがエリーの背に乗ると、エリーはふわりと体を浮かせイルムの町まで一気に降下する。
移動の圧力は感じず、何かに守られる様な心地好い風が頬を撫でる。
ものの数秒でイルムの上空に移動したエリー
戦闘の轟音で眠れぬ夜を過ごし山を見つめ祈りを捧げていた町の人々。
「うわぁー! ドラゴンが攻めてきた!」
「きゃー!」
「助けてー!」
突如上空に現れたエリーを見て人々がパニックを起こす。
そんな事は全く気にせずエリーはイルムの町の正門前に降り立った。
その圧力に腰を抜かし呆然とする守衛達。エリーの背からルーナが飛び降りると━━
「はへ?」
目の前に現れたルーナを見て、守衛がおかしな声を上げ呆然としている。
「報告してく…る。待って…て」
「我も行くぞ」
「入れな…い」
「案ずるでない」
エリーはそう言うとみるみる縮み人の姿に変身した。
艶のある長い黒髪、整った顔立ち、背は高くスタイルの良い角の生えた絶世の美女が現れ守衛達が釘付けになる。
「ぶふぁっ!」「ぶるぁっ!」
守衛達は鼻血を吹き出し何とも幸せそうな顔で気絶した。それもその筈、人の姿になったエリーは服を着てなかったのだ。
「エリー…裸」
「なんじゃ? おかしいかのう? ずっとそうじゃったろう?」
「服着…る」
「なんとも難儀なものよのう。ルーナが着ている様な物で良いのじゃな?」
ルーナは無言で頷く。
エリーは指がスナップさせると、ルーナが着ている服と同じものがエリーの体を被う。
「これなら問題なかろう?」
エリーはクルリとその場で一回転しルーナに見せた。
「…ん、行く…よ」
町に入りギルドに向かっていると、物々しい集団がルーナ達の方へ向かって来た。先頭に居るのはギルドの職員の様だ。
「る、ルーナさん? ……ドラゴンが、ドラゴンは?」
少しパニックを起こしているギルド職員。
「ここに居…る」
ルーナがエリーの方に目線を向ける。
「はい? どこに?」
「ここじゃ、お主目が見えぬのか?」
エリーが胸に手を当て自分がそうだと伝える。
「いやいやいや貴女、人間ですよね?」
ギルド職員が不思議そうな顔をする。
「エリーは山に居…たドラゴ…ン」
「またまたぁ、ルーナさんまで」
笑いながら全く信じようとしないギルド職員。
「全く難儀な奴らじゃのう、これならどうじゃ?」
エリーは再びドラゴンに姿を変えた。体の一部が近くの家に当たり壁の一部が崩れる。
「エリーダ…メ、家が壊れ…る」
「ああ、すまぬ気にも止めておらなんだ」
直ぐに人の姿に戻すエリー。
「じゃが、これで理解出来たかのう?」
突然の出来事にギルド職員を始め周りに居た武装集団も目を見開き硬直した。
「え、ええー!! ルーナさん? え? な? どうしてドラゴンさんがここに?」
目の前で起きた事が整理出来ず混乱するギルド職員。
「…ん、仲間になっ…た」
「はぁ……」
思考が追い付かず気の抜けた返事をするギルド職員。ルーナは呆けているギルド職員達を置いてギルドに報告に行くため歩き出し、十戒の如く人が避け道が開く。
ギルドに報告をすると同じ様にエリーがドラゴンである事を信じてくれない受付職員。先程のギルド職員が我に帰り戻ってきて説明し、何とか依頼達成を認められた。
町の外に出てエリーがドラゴンに姿を変えルーナが背に乗る。
見送りに来ていた先程の受付職員やギルド職員が呆然とする中、エリーはふわりと空高く舞い上がり、あっという間にグランセルの方向へと消えて行った。
その後ルーナに新たな2つ名が付いた。
【ドラゴンライダー、竜を従えし者、漆黒の竜騎士】




