第62話 ゴブリン調査隊
話の途中でアステル視点から三人称視点に変わります。
シルビア様との訓練を終え、急激な魔力消費の反動(虚脱症)で動けなくなり、シルビア様の肩に担がれ、騎士団施設のシルビア様の職務室に運ばれた。
移動途中、ルーナさんも運ばれる僕に気が付き合流した。
「着替えてくるからここで少し待っていてくれ」
部屋に入ると僕はソファーに寝かされ、シルビア様は部屋から出ていく。
「アステル、話し合いどうだっ…た?」
「うん、上手くいったよ。前向きに検討してくれるって言ってた。ルーナはどうだった? 騎士団に誘われたんだよね?」
「…ん、断った…よ。私は冒険者が向いてる…から」
「そっか、良かったよ。これからも一緒に冒険できるね」
「…ん」
僕は体を起こし、ソファーに腰を掛けルーナさんの方を見て笑いかけ、ルーナさんもそんな僕の顔を見て嬉しそうにしている。
そんな会話をしていると、シルビア様が着替えを終えて部屋に戻ってきた。
微かに花石鹸の香りがする。どうやら湯浴みもしてきたようだ。
「アステル殿、もう起き上がっても大丈夫なのか?」
「はい、問題ないです。まだ訓練に戻れるほどじゃないですけど、大分回復しましたから」
「そうか、なら良かった」
「ところで、シルビア様」
「なんだ?」
「そのアステル殿って呼び方なんですけど、何と無くむず痒いんで、呼び捨てで呼んでもらっても良いですか?」
「…ん、私も殿はいらない」
「……ふっ、ははははっ、そうか、それは悪かった。なら呼び捨てで呼ばせてもらうとする。私にも様を付けて呼ぶ必要はないぞ」
僕達がそう言うとシルビア様はキョトンとした顔をして突然笑いだした。
「え? さすがに騎士団副団長を敬称無しで呼ぶのは問題あるんじゃ?」
「気にするな、君達は騎士団員ではないのだ。それに、どうせもう直ぐ私も退役だしな」
会話をしながら僕達にお茶を出してくれていたシルビア様がソファーに座り、お茶を一口飲んで少し寂しげに窓の外を見つめている。
「退役? どうしてですか? まだお若いのに」
「騎士団……と言うか、この国の決まりでな、女は子をなさねばならぬという理由で、22才を迎えると騎士団には在籍出来なくなるのだ。私も年が明ければ直ぐに22になる、ここに居られるのも後、数十日だ」
「そんな決まりがあるんですね。勿体無い……」
「そんな顔をするな、初めから解った上で騎士になったのだ。悔いは無い」
僕が残念そうな顔をしていると、シルビア様が優しく笑顔を見せる。
「ところで、シルビア様は、何で騎士になろうと思ったんですか?」
「大した理由ではない。私の家は領地も持たない貧乏貴族でな、父の繋がりの貴族に成人と同時に嫁がされる計画があると知って、それが嫌で騎士を目指して騎士学院に入ったのだ。騎士になれば結婚も回避できるからな」
「へえー、そんな理由があったんですね。やっぱりあまり若い内での結婚は嫌だったんですか?」
「いや、結婚する事自体は嫌ではなかったのだがな、相手が嫌だったのだ。その当時、私が嫁ぐ予定だったのは、私より30も年上の団子みたいな体型の奴でな、1度だけ会った事があるのだが、その時に見せたイヤらしい笑い方が気持ち悪くてな、逃げるために必死に体を鍛えたものだ」
話しているシルビア様の表情が、女の人がそんな表情見せちゃダメでしょってくらいに嫌そうな表情になっている……
「しかも第4婦人だぞ? あんなのに嫁ぐだけでも気持ち悪いのに……ああっ! あの下卑た顔を思い出すだけで身の毛がよだつ」
シルビア様は体を震わせる両腕で自身を抱きしめる様に寒そうにしている。
……騎士団員から雌オーガより恐ろしいと言われるシルビア様がここまで身を震わせる相手……1度見てみたい気もするな……
「その方との結婚は無くなったんですよね?」
「ああ、騎士になるのは家にとっても名誉な事だからな、なりたいと言えば父も反対はしなかった。相手の男も騎士を目指すような気性の者は好みではないのだろう、直ぐに話は無くなった」
「じゃあ、退役後は別の人と結婚の話が来たりするんですか?」
「いや、腹筋が6つに割れているような可愛いげの無い女は、お気に召さないのだろう。見合い話の1つも来てはいないぞ」
「へえー、腹筋が6つに割れるくらい冒険者では普通なんですけどね。ねえ、ルーナ」
「…ん、私も割れてる…よ。見る…?」
ルーナさんが服を捲し上げてお腹を出す。
「見せなくても良いから……」
「いや…ん」
僕はその服の裾を持ち下げてお腹を隠してあげた。
「いやん」じゃないよ……自分で見せたくせに……
「はははっ、君達は楽しそうで良いな。退役後は冒険者になるのも良いかもな」
「…ん、冒険者、楽しい…よ」
「それは良いですね。シルビア様は強いですし向いてると思います。でも、家には戻らなくても良いんですか?」
「ああ、戻れとも言われていないし、戻る気もない。今さら女性らしく振る舞うのもなんだしな」
「…ん、なら、グランセルに来ると良い…よ。私達もいる…から」
「ああ、その時はそうさせてもらう」
……本気なのか冗談なのかは、今一つ解らないけど、本当にシルビア様が冒険者になったら、たまには一緒にクエストが出来たら良いな。
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━━アステル達がそんな会話をしていた丁度その頃、アタランテの町から西へ30km程にある小さな村の一角で冒険者らしきグループが食事を取っている。
「今回のクエストはゴブリン調査だが、ホブ以下だけなら俺達だけで討伐する。ジェネラル以上が居ると予想されたら村の人達を避難させながらアタランテに報告だ。絶対に勝手に動くなよ」
「「「「「「はい!」」」」」」
グループの中心になっているのは、片手直剣と盾を装備したチャラそうな男性、大剣を背負う大男、大剣を背負う目付きのキツい女性、ボウガンを持つ華奢な魔法士の女性、真っ白な狼と、人間の大人サイズの雀を連れた4人+2匹パーティーの冒険者だ。
その冒険者パーティーの他には、どこか初々しさを感じる4人組のパーティーが2組、緊張した面持ちで目の前の食事をゆっくり噛みしめながら食べている。
「まあ、ジェネラルくらいなら俺達だけでも何とかなりそうだけどな」
「はあ……あんたバカなの? ダンジョンゴブリンと違って外のゴブリンは面倒なのよ?」
「サトス、ゴブリンの真価は上位種に指示されることで発揮されるんだ。油断するな」
「解ってるよ。そう目くじら立てんなって」
大剣の女性はサトスの言葉にため息をつき、呆れながらジト目で睨む。それに同意するように、大剣の大男が真剣な面持ちで注意し、サトスはやれやれだぜと言いたげに手を広げ首を振って、みなまで言うなと返事をしていた。
ゴブリンは弱い、素早さは人間族より多少は素早いものの、単体なら人間族の大人であれば労することなく倒せるだろう。グランセルダンジョンで遭遇するゴブリンは、階層ごとに種類が違い、上位種と共に現れる事はない。数も1度に遭遇するのは最弱のゴブリンで5~20まで、上位種になるほどその数は少なくなる。
しかし、ダンジョンの外で遭遇するゴブリンは大抵の場合上位種と共に現れ、その数はホブ一匹に対し凡そ50~100、ジェネラルが居る場合はその10倍と言われる。
その上、ゴブリンは上位種になるほど戦闘能力だけでなく知能も高くなり、ジェネラルクラスになると戦術を使って攻めて来たりもする。
通常のゴブリンには普通魔法を使う個体は存在しないが、ロードやキングになると魔法も使える様になり、その軍とも呼べる数と合わせ対処が難しくなるのだ。
「いい? 新人の皆、特に女の子は絶対に捕まっちゃダメよ。男は捕まったら殺されるだけで済むけど、女の子は捕まったら死ぬまでゴブリンの子を産まされるからね」
魔法士の女性は新人の冒険者パーティーの女性達に真剣な目を向けて注意を促す。
ゴブリンの何が1番恐ろしいか、それはその性欲と繁殖力だ。ゴブリンにも雌は存在する。しかし、その数は全ゴブリンの1割程度。当然、全雄ゴブリンが番にはなれない。
ならばどうするか、他種族に産ませるのだ。ゴブリンは相手が同じゴブリンでなくとも繁殖が可能だ。人形の哺乳類なら人間だろうとエルフだろうと獣人だろうと関係ない。例えオーガだろうと子を産ませることが可能だ。しかし現実的にオーガを相手にするのは被害の方が大きい、1番狙われやすいのは能力の劣る人間族の女性なのだ。
しかも、ゴブリンを身籠る期間は人間の赤子を身籠る期間より遥かに短く、1回凡そ30日ほど。子が生まれる度に直ぐに次の子を身籠らされ、人間族なら1年ももたず衰弱死する。そうして数を増やしたゴブリンは次々と他種族を襲い、放っておけば甚大な被害をもたらす事になる。
「嫌ぁー! 私ゴブリンの子なんて生みたくない!」
「気を付けていれば大丈夫よ。注意する事は3つ、油断しない事、単独行動しない事、上位種を見付けたら待避して私達に任せる事。解った?」
「「「「「「はい!!」」」」」」
今日1番の良い返事が帰って来た。
━━食事を終えたサトスの一行は複数のゴブリンが確認されたという小さな山を囲む深い森に向かって出発した。
久しぶりにサトス達の登場。この4人、実は結構僕(作者)のお気に入りキャラなのです。




