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第61話 シルビア・ラヴァンガ

 さて、と、用事も終わったし、親方の所に寄ってルーナさんの所にでも行こうかな。


 神殿を後にした僕は一昨日親方に調整を頼んだ装備を受け取りに先ずは工房へ足を運ぶ。


 昨日は筋肉痛が酷すぎて体を動かせなかったから運動がてら工房までは軽く走って向かった。


 工房に着き、親方の所に案内されて作業場に入ると、親方とドイルさん、それともう一人、女の人が話をしていた。


 女の人は身長は僕と同じぐらい、年齢は僕より少し上くらいかな? 髪は僕の髪より明るい茶色、目は綺麗な青色の瞳、スラッと細身の体型のエリーさんとは違ったタイプの美人さんだ。


「こんにちは。親方、装備の調整は出来てますか?」


「おうアステル、出来てるぞ。もう体調は良いのか? すまなかったな無理させちまって」


 僕が挨拶すると親方は返事をした後、僕に一昨日の試合の件について申し訳なさそうに詫びを入れてきた。


「少し筋肉痛が残ってますけど体調は問題ないですよ。ああ、あの試合ぐらいの修行は日常茶飯事だから気にしないで下さい」


「ほう、あれほどの実践訓練を日常的にやっているのか、うちの連中にも見習わせたいものだな」


 僕が親方に笑って返事をすると、そこに居た女の人が感心したように口元を緩ませ僕に話し掛けてきた。


「えっと、あの? ……どちら様ですか?」


 僕が尋ねると女性から驚きの答えが返ってきた。


「挨拶が遅れてすまない。私はウォルタナ正騎士、防衛騎士団副団長のシルビア・ラヴァンガという者だ」


「ええっ!? 副団長さん? 失礼しました」


 王都所属の正騎士団員は見習いも合わせて全部で約10万人、半数以上は領地内の各町で治安維持や防衛、国境警備等でウォルタナには居ない。訓練場に居たのはほとんど正騎士見習いの人らしい。


 正騎士団は魔法士主体の魔法騎士団が2団、回復術士主体の衛生騎士団が1団、重装騎士主体の防衛騎士団が1団、騎馬歩兵隊の前衛騎士団が3団有り、各団にそれぞれ団長とそれをサポートする副団長がいて、その上に正騎士団全体を纏める正騎士団長のダルクス様がいるのだ。


 その中で女性の団員は1割にも満たず、その殆どは魔法騎士団か、衛生騎士団に所属しているらしい。


 昨日訓練場を見学に行った時に団長さんや副団長さん(魔法士、回復術士を除く)が順番にルーナさんと一騎討ちの勝負をしていた。全4戦、その中で1番善戦していたのが、この防衛騎士副団長さんだ。


 ルーナさんとエリーさんの戦闘を見た後に一騎討ちを申し込んでいたのにも驚いたけど、この人の強さにもかなり驚かされた。大盾を上手く使いルーナさんの攻撃をいなして隙をついてスピアで攻撃。この人の防御を崩すのにルーナさんが結構手こずってた。


 まさか女性だったとは思わなかった……


「昨日、ルーナさんと試合してるの見ました。あの強い人がこんなに綺麗な女性だとは思いませんでした」


「にゃっ!? ば、馬鹿者、そんな唐突に……き、綺麗だとかっ」


 おや? どうやら容姿を誉められるのにあまり慣れていないみたいだ。顔を真っ赤にして目を泳がせているのがちょっと可愛い。


「シルビア様って本当に強いですよね。エリーさん以外でルーナさんとあんなに戦える人、初めて見ましたよ」


「防戦一方だったがな。アステル殿も中々のものだったぞ?」


「え? 本当に? ありがとうございます」


 強さを誉められるのは慣れているのか今度は冷静に(ちょっと誇らしげに)返事をして、僕を誉めてくれた。


 お世辞だとしても誉められるのは正直嬉しいな。


「あの時、初めて神剣の力を解放させたのだろう? 有り余る力に振り回されていたのが見ていて解ったぞ。それであれだけ戦えていたのだ、ちゃんと制御出来るようになれば更に善戦出来るようになるだろう」


 そういえば、同じ事をルーナさんとエリーさんにも言われたっけ。


「同じ事を仲間にも言われました。正直、皆さんには神剣使いの実力があんなものかと、がっかりされてるんだと思ってました。お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいです」


「世辞ではない。一部、未熟者達が不甲斐ないと口にして居たのは耳にしている。が、私を含め他の副団長や団長、それに隊長クラスの者は皆、逸材だと評価していたぞ」


 本当に? うわー、滅茶苦茶嬉しい。普段は才能の欠片も無いとか凡人以下だとかしか言われないのに(主にエリーさんにだけど)


 逸材、僕が逸材……


「アステル……泣くか笑うかどちらかにしろ、気味が悪い」


 僕が感激に浸っていると、少し引き気味に親方が注意してきた。折角の感動が台無しだよ……


「すいません、あまり誉められなれてないから嬉しくてつい……あはは」


「どうだ? もう体調は良いのだろう? この後時間があるなら私が少々指南してやるが?」


「良いんですか? 宜しくお願いします」


 僕は頭を下げ、ご厚意に甘えることにした。親方から調整が終わった新装備を受け取り身に付け、シルビア様と訓練場へ向かった。



 ━━訓練場に到着すると、ルーナさんが木剣を手に数百人まとめて相手に戦闘訓練をしていた。素早い動きで相手を撹乱し、隙をついて頭部に一撃。兜の上からでもかなり効いているようで、打たれた相手はその場に膝を付いて倒れる。


 ルーナさんは僕に気付いたようで、攻撃の合間に1度だけ僕に向かって手を振ってきた。僕もそれに手を振り返す。


 滅茶苦茶余裕だな……流石はルーナさんだ。


「……昨日も思ったが、ルーナ殿は本当に人なのか? あの人数相手に一方的に攻撃を与えているぞ」


「あはは、本当に凄いですよね。しかも真剣相手に木剣であれですからね」


 僕が目標とする人は僕が強くなるほどに近づくどころか更に遠くに感じる……相手の実力が解るのも強さの内とはいうけれど、先は長そうだな……


「私は装備を着けてくるからここで待っていてくれ」


「はい」


 シルビア様は騎士団の施設に入って行き。僕は待っている間に体を温めておくことにした。



 ━━僕が、神剣片手に体を動かしていると、若い男性達が声を掛けてきた。装備からすると騎士団の団員だろう、人数は6人、全員僕より身長が高く少し見上げないと目が合わない。


「おお、貧弱神剣使い君じゃないか」


「こんなところで何やってるんだ?」


 男性達は少し小バカにしたような口調で僕に尋ねる。


「こんにちは、シルビア様が御指南下さるというので待ってるところです」


「なっ! 本気か? お前」


「悪い事は言わん、止めておけ」


 男性達の表情が明らかに歪み、真剣に止めようとしてきた。


「え? え? どういう事ですか?」


「あの人の訓練は厳しいんだ。俺達でも付いていけないくらいに、お前みたいに体力のない奴には無理だ」


 失礼な、一昨日のあれは体力じゃなくて魔力が無くなっただけだよ。


「大丈夫ですよ。皆さんが思ってるほど体力が無いわけじゃないですから」


「あの体たらくでよく言うぜ。いいかよく聞け、これは親切心でいってるんだ。シルビア様は兎に角厳しい、異常と言っていいほどだ。あのお方に比べればまだ雌オーガの方が優し━━」


 あっ……不味いな……


「あの……」


「なんだ?」


「後ろに……」


「ひっ!」


 僕が男性に後ろを見るように促し、振り返った男性が、全身鎧のお方に気が付き、息を吸い込みながら悲鳴を上げる。


「白昼堂々上官の陰口とは良い度胸だ」


「か、陰口など、とんでもありません! 自分はシルビア副団長殿の素晴らしさを彼に説明していたであります!」


 僕に色々と吹き込んでいた男性を始め、その場にいた団員6人が直立不動でシルビア様に向き直り、目を泳がせている。


「ほう、私の素晴らしさとは?」


「はい、シルビア副団長殿は厳しくとも深い愛情を持って我々を鍛えてくれていると、だから厳しくとも音を上げるなと激励していたであります」


 ふむ、激励には聞こえなかったけど……


「そうかそうか、ならば貴様達も一緒に鍛えてやろう」


「い、い、い、いえっ! 自分達ごときにシルビア副団長殿の御指導は勿体無いであります。自分達は通常訓練に戻るであります」


「何か言ったか? もう一度言ってみろ」


 騎士団員さん達が逃げようと返事をした瞬間、シルビア様が手に持っていた訓練用スピアを地面に突き刺し騎士団員さん達を見回す。


「はい! ご厚意に大変感激しているであります。御指導、宜しくお願いします!」


 兜で顔は見えないが、兜の奥から見えるシルビア様の鋭い視線の迫力に圧倒され逃げ場を失った騎士団員さん達も一緒にシルビア様の御指南を受ける事になった。



「さて、実戦で教えてやるから全員まとめて掛かって来い」


「え? 良いんですか? 7対1になりますよ?」


「問題ない、気は抜くなよ? 私の使うのは訓練用スピア。とは言っても、まともに受ければ打撲程度では済まん。まあ、骨折しようが腕が千切れようが回復術士が治してくれる。安心しろ」


 この人、言ってる事がエリーさんと似ている。騎士団員さん達が敬遠しようとした理由が解るな……


 こちらの戦力は、ガードナー型が1人、ファイター型が3人、魔法士が2人と僕……さてどうやって戦おうか……


「ちくしょう! もうヤケだ。皆、やるぞ!」


「「「「「おう!」」」」」


 あ、まだお互いの能力を把握してないのに……


 騎士団員さん達はガードナーを先頭に、3列に隊列を組、シルビア様の前に構えた。


 6人の戦闘能力や技能が解らないので、僕は6人を把握出来る位置からサポートしながら様子を見ることにする。


 ガードナーを先頭にジリジリと距離を詰め、後半歩でガードナーの攻撃範囲に入ろうとしたその時、シルビア様の体がブレた様に見え、ガードナーが後方に飛ばされる。


 その後ろに居たファイター2人を巻き込み3人が倒れた。


「何処を見ている?」


 倒れた3人に気を取られ固まっていた残りのファイターの前にいつの間にかシルビア様が距離を詰めていた。


 危ない!


 僕は、咄嗟に攻撃されそうなファイターとシルビア様の間に土魔法で壁を作る。


 突然現れた土の壁に驚き、シルビア様の足が一瞬止まる。


 僕はシルビア様の側面に移動し、氷魔法で3本の氷の矢を作り出しシルビア様に向かって放った。


 それを横目でチラリと確認したシルビア様が盾を此方に向け矢を受けると同時に土の壁にスピアを突き立て壁の後ろに居たファイターに攻撃を仕掛ける。


 が、彼はもうそこには居なかった。


「中々面白い魔法の使い方をするな。起動句も動作も無しに魔法を使う奴は初めて見たぞ」


「うちのパーティーはこれが基本です。読み難いでしょ?」


 僕がシルビア様と会話している間に皆が体制を立て直した。


「「ファイアボール」」


 魔法士2人が左右から同時にファイアボールを放ち、それをシルビア様が1つをスピアで迎撃し、もう1つを盾で受ける。


「隙有り!」


 そこへガードナーが一気に距離を詰めシールドバッシュを放つ、シルビア様はそれに対して盾を構え直し同じくシールドバッシュで迎え撃った。


 ガードナーが体勢を崩すが今度はその場に踏みとどまり、シルビア様の盾を抑え込む。


「「「すりゃー!!」」」


 そこへファイターの3人が左右と後方から同時に攻撃を仕掛けた。


「甘い!!」


 シルビア様はその場で独楽の様に回転し盾とスピアで4人を弾き飛ばした。


 一瞬、隙が出来たのを見逃さず、僕はシルビア様の懐に飛び込み、神剣ヴァーリを突き出す。


 それを読んでいたのか、シルビア様は体を捻り神剣を避けると、そのまま肘を僕の顔面向けて叩き付けようとするが、僕はそれを盾で受け、後方に飛び退いた。


「アステル殿、今のは中々良かったぞ。他の6人! 特に前衛4人、貴様らはバカか!? 攻撃のタイミングをいちいち相手に教えてどうする! 隙を見付けたなら無言で攻撃しろ!」


 僕も同じ事をルーナさんやエリーさんに言われた事がある。背後から攻撃しようと、掛け声出してたら気付かれるから戦闘中はなるべく声や音をたてない、これは基本だと。


 魔法も同じだ。動作や起動句で相手に読まれては対応を取られやすいから、なるだけ自然な動きの中で発動させるのがエリーさん流だ。


 まあ、魔法屋で買った魔法は動作と起動句無しじゃ発動出来ないんだけどね。



 ━━その後約1時間、シルビア様の助言を受けながら戦闘は続く。


 騎士団員さん達6人は疲労の所為か、ダメージの所為か、伏して立ち上がれなくなった。


 僕はそこまでではないけど、結構息が上がっている。


「立たんか貴様ら! 限界を向かえてからが本当の訓練だ!」


 この人凄過ぎる……7人を相手にして息をきらせるどころか、まともに受けた攻撃もない……何度か惜しい攻撃はあったけど、あと一歩というところでいなされてしまう……あの重装備でなんであんなに動けるんだろう?


「立たんか! 軟弱者ども!」


 檄を飛ばされるが、騎士団員さん達はもう立ち上がる気力も失せたようだ。


「まったく情けない、見習いとは言え正騎士ともあろう者がこの程度で音を上げるとは……」


 ふーむ、この人達は見習い騎士だったのか……なるほど、だから僕より体力が無いのか……


「さて、アステル殿。この者達はもう動けぬよだが、アステル殿はまだやれるか?」


「はい、大丈夫です」


 此方に向き直り尋ねてきたシルビア様に僕は身構えながら答えた。


「よし、ならば神剣を解放させて掛かってくると良い」


「え? まだ制御が効かないから直ぐに倒れちゃいますよ?」


「だから訓練するのだろう? 実戦で使えなければ意味がない。さあ、やるぞ」


 シルビア様が盾を前に構えた。


「力を貸してくれヴァーリ」


 僕がそう言葉にすると、神剣ヴァーリが淡い輝きを放ち始め、力の循環が始まる。


 僕に力が流れ込み、それを送り返し、どんどん力が増幅され全身に力が漲ってきた。


 一拍、僕はシルビア様の前に踏み込み神剣を打ち下ろす。


 シルビア様は盾で受け流し、そのままシールドバッシュを仕掛けてきた。


 僕は後方に飛び退き、シルビア様の左に移動今度は横凪ぎに振り抜く。


 シルビア様は盾で神剣を下から突き上げるように力の方向を変え、スピアを突き出す。


 僕はなんとか盾でスピアを受け止めたが、勢いは止まらず後方に飛ばされ地面を転がった。


「動きが大きすぎる。なるべく予備動作は少なくしろ。それと攻撃が素直すぎる、虚実を上手く使い分けろ」


「はい!」


 シルビア様の教え通り、フェイントを混ぜながら攻撃を仕掛けるが、どうやらわざとらし過ぎたらしく、フェイントを仕掛けようとする度にバレて攻撃を喰らってしまう。


 飛ぶ斬撃を使わなかった分、一昨日よりは数十秒ほど長く魔力がもったのだけれど、やっぱり倒れてしまった僕。


 ここで、シルビア様の今日の御指南は終了。動けなくなった僕は、シルビア様の肩に担がれ騎士団施設のシルビア様の仕事部屋に運ばれた。

 竜族、エルフ、獣人と同じぐらいファンタジーには女騎士が必要だと僕(作者)は思うのです。

 正騎士を登場させると決めた時からいつ出そうかと思っていた女騎士キャラをやっと出せました。


 シルビアさんに「くっ、殺せ!」と、言わせる予定は無いですが……(笑)

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