第63話 サトスパーティーの機転
三人称視点になります。
村を出発したサトス一行は、西へと馬を走らせる。向かっているのは、滞在していた村から更に西へ30kmほどの場所にある標高150mほどの小さな山の梺に広がる半径2kmほどの深い森。
この森付近でゴブリンを見掛けたという情報がアタランテの町の冒険者ギルドに寄せられ、その規模がどの程度なのかを確認するためだ。
「よし、今日はそこの丘で1泊するぞ、明日の明け方に森に向かう。キャンプの用意をしてくれ」
目的の森まで残り10kmほどの場所で馬を止めたサトスが小高い丘を指差し全員に指示を出した。
「あの、先輩? なんでこんなに早くからキャンプ張るんですか? もう少しで森に着くんだし調査が終わってからでも良いんじゃないですか?」
新人冒険者の1人かサトスに疑問を投げ掛ける。
現在の時刻はまだ16時、日も高く普通ならまだキャンプを張る時間ではないのだ。
「お前、ゴブリン狩りは初めてか? よく覚えとけ、ゴブリンってのは夜目が利く、それに小柄ですばしっこく森や洞窟みたいな障害物が多い場所での戦闘を得意としてるんだ。今から森に行って暗くなり始めて調査するのは危険が多い」
「そうだったんですね。勉強になりました」
「おう、解らない事があったら何でも聞け」
「ぷぷー、サトスが何でも聞けだって、無知なクセにー」
得意気に胸を張るサトスに対し近くで聞いていたカレンがからかう様に口を押さえながら突っ込む。
「くっ、誰が無知だ、誰が。脳筋のお前より、よっぽど博識だっての」
「あ? 誰が脳筋ですって? 脳天から真っ二つにするわよ」
「り、理不尽だーー!」
反論したサトスに対しカレンは背負っていた大剣に手を伸ばし睨みを効かせる。
サトスは焦りながら素早くカレンから距離をとる。
「お前ら遊んでないで手伝え」
「サトスは魔除けの結界設置、カレンはこっち手伝って」
「へいへい」「はーい」
ダナンとメインに注意され、しらっと作業を始めるサトスとカレン、そんな光景が面白かったのか、これまで少し緊張気味だった新人冒険者達の肩から力が抜けた。
テントを張り終え、食事の用意が終わったところで、部屋魔法からホワイトファングのユキとキックスパロウのチュン助を呼び出すカレンとメイン。
「ご飯が済んだら警戒お願いねユキ」
カレンがユキの頭を撫でながらそう言うと、ユキは静かにその場に座りカレンの目を見つめる。
「チュン助もお願いね、怪しい気配を感じたら直ぐに教えてね」
「チュチュン」
メインに嘴を撫でられたチュン助は大きく胸を張り元気に返事をした。
「前から思ってたんですけど、お2人は獣魔士スキル持ちなんですか?」
「違うわ。獣魔士スキルが無くても1匹くらいならギルドで契約出来るわよ」
「私達も最近知ったんだけど、ギルドの地下にモンスターショップっていうのがあってね。私とカレンはグランセルギルドでこの子達と契約したの」
「へぇー、始めてしりました。スキルなしで獣魔契約しても危険は無いんですか?」
「そうね。自分より強いモンスターと契約してると契約破棄されて襲われる危険性があるって言ってたわ。でもね、子供の頃からちゃんと愛情をもって接してればそんな事にはならないわ。モンスターにも意志があるから酷く扱ってるとある日突然後ろからガブりなんて事になるかもね」
「この子達は大丈夫よ。私達はもう家族みたいなものだから、ねーチュン助」
「チュン」
メインの言葉にチュン助は返事をしながらそっと身を寄せ、メインはそのふわふわなチュン助の体に抱き付いて顔をグリグリ押し付ける。
「私達だってそうなんだから、ね、ユキ」
カレンがそう言うとユキはチラッとカレンの顔を見てフイッと顔を背ける。
「違うみたいだな」
「バカ言ってんじゃないわよ。ユキはちょっと天の邪鬼なだけなの、思念でちゃんと愛情は伝わってくるんだから」
サトスの言葉にカレンが目くじらを立てて反論する。そんなやり取りを見て新人冒険者達はクエストの緊張から完全に解放されリラックスしたようだ。
食事を終えたサトス一行は早めの休息にはいる。
3パーティーが交代で警戒に当たり、先ずは新人冒険者、続いてサトスパーティー、最後にもう1つの新人冒険者の順だ。
索敵能力に優れたモンスター2匹はユキが第1パーティー、チュン助が第3パーティーと警戒に当たる。
━━夜も更け、スッカリ暗くなり、辺りからは焚き木の燃える音や草木が風に揺れる音だけが響く。
「もう少しでサトス先輩達と交代の時間だな」
「やっと寝れる、何事も無くて良かったな」
「そうね。それにユキちゃんが一緒だと何と無く安心して夜の番も出来るね。私も獣魔契約しようかしら?」
「はははっ、お前は面倒くさがりだからきっと世話をサボって後ろからガブりってやられるぞ」
「そ、そんな事無いもん」
「「「「ははははっ!」」」」
新人冒険者パーティーが楽しそうに、そんな会話をしていると、ユキがスッと立ち上がり匂いを確かめる様に鼻を上げる。ユキの索敵範囲は凡そ半径2km。
「グルルルルッ」
ゆっくり近付いてくる悪意を感じ取り唸り声を上げるユキ。それをを見て新人冒険者パーティーに緊張が走る。
「ウオオォーーーーン!」
ユキの遠吠えを聞いてサトスパーティーの4人が素早くテントから飛び出し武器を手にする。
「状況確認!」
「西方からモンスターの気配が複数。ユキが感じた気配は300以上よ」
「300以上? ゴブリンの可能性が高いな」
「予定地点までまだ距離があるのに感付かれた?」
「まだ距離は離れてるみたい」
「おい! 新人達、寝てる奴ら起こせ。直ぐに撤退する」
感知された数から考えて、最悪ゴブリンジェネラルが居る。そう察したサトスは素早く撤退を決定する。
ずっと余裕を見せていた先輩パーティーの緊張を感じ取り、新人達は真剣な表情になり素早く指示に従う。熟睡していた新人冒険者達を起こし撤退の準備を始めた。
「テントはいい、置いていく」
全員が目を覚まし、装備を整えると、テントを置いて来た道に向けて馬を走らせようとした時。
「待って、おかしい。東からもモンスターの気配を感じるってユキが言ってる。数は少ないけど西から来てる奴らより強い個体が居るみたい」
「北と南からも来てるみたいよ。チュン助が言ってるわ」
「チッ、囲もうってか? ……幸い東は平原続きだ。囲まれる前に東を突破するぞ。もしジェネラルが居たら俺達が相手する。新人達はその間、雑魚が寄って来ないように相手してくれ。ユキとチュン助はその場にホブが居たら始末してくれ」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
サトス一行は東へ向けて馬を走らせた。
先頭をサトスとカレン、最後尾をダナンとメイン、左右にユキとチュン助が新人冒険者達を守る様に囲う。
「サトス、少し南にずらして進むわよ」
「了解」
メインがユキから思念を受け、ユキの探知でモンスターが居ない場所に馬を走らせる。が、敵もそれに合わせて近付いてくる。
「向こうもこっちの位置を把握してるみたい、先回りしようとしてるわ」
「向こうにも索敵能力の高い奴が居るって事か……後ろはどうだ?」
「そっちは大丈夫。さっきより距離が離れてきてるみたいだから進行方向の敵にだけ気を付けておけば大丈夫よ」
東側以外のモンスターは機動力が低いらしく、追い付かれる心配は無さそうだ。
ユキの探知をカレンがサトスに伝えながら迫るモンスターを回避して抜けようと馬を走らせるが、軌道修正する度に先で待つモンスターはそちらへ先回りしようと移動する。
「仕方ない、なるだけ戦闘は避けたかったが……やるぞ!」
距離が縮まりやり過ごせないと判断し、覚悟を決め、サトスが全員を静止させたその時。
サトス達の目の前に天を貫く勢いで火柱が上がった。
「なっ!?」
「魔……法?」
覚悟を決めて馬を止めなければ恐らく直撃していたであろうその火魔法。
炎の明かりで100mほど前方に待ち構えるモンスターの姿がはっきりと見えた。
そこに居たのはサーベルウルフに跨がる数十匹のゴブリン。ワイルドベアと呼ばれる全長5m程の熊モンスターに跨がる数匹のホブゴブリンとそれより大きなゴブリン、恐らくゴブリンジェネラルだろう。
そして最後尾には、ワイルドベアが引く天幕の無い丸太を組み合わせたような御輿に乗った、獣の毛皮で作られたローブを纏い異様な形の杖を持った大きなゴブリン。
「ゴブリンロードか……」
サトスパーティーは苦虫を噛み潰したように顔を歪め、新人冒険者パーティーは絶望に気持ちを沈ませた。
追い詰めた事で余裕を見せるゴブリン達はイヤらしい笑みを浮かべ、女冒険者を見付けると下卑た笑い声を漏らす。
サトスは大きく深呼吸をすると、パーティーメンバーに目配せをする。
「ユキ!!」
カレンが大声でユキに呼び掛け思念で行動指示を出す。
「オオォォォーーーーー!!!」
それを受けたユキは狼系モンスター固有スキル恐怖の咆哮を放った。
恐怖の咆哮。咆哮に悪意を込めて放ち敵に恐怖心を与え一瞬動きを止めるスキル。
ホブゴブリン以下のゴブリン達がスキルの影響で体を強張らせ、その隙にサトス、ダナン、カレンが収納魔法からありったけの水袋を取り出し魔力を込めて水を操りゴブリン達の頭上に放り投げた。
ゴブリン達に雨の如く水が降りかかる。
「メイン!」
「轟け! サンダーブラスト!!」
サトスの合図でメインが手を前に翳し、雷の中級魔法サンダーブラストを唱えた。
大蛇の如くうねりながら激しい光を放つ雷がゴブリン達の中心付近に落ち、水を伝って全ゴブリンに広がる。
「走れ!!」
完全に油断していたゴブリン達の意表をついての連携攻撃が見事にハマりゴブリンとサーベルウルフが地に伏し、ホブ以上のゴブリン達の動きも止まる。
サトスの掛け声と共にカレンとメインを先頭に新人冒険者達がゴブリン達の横を馬に鞭を打って全速力で駆け抜けた。
「ダナン!!」
「おう!!」
カレン達が走り出すと同時にサトスがダナンに声を掛けるとダナンは背負っていた大剣をゴブリンロードの方へ全力で投げ飛ばし、御輿に直撃。
御輿は崩れ去り、サトスとダナンもカレン達の後を追う。
振り返ることなく必死に馬を走らせるサトス達。
━━30分程馬を走らせ続けたサトス達
「カレン! 奴らはどうだ?」
「大丈夫、追って来てないみたい」
「た、助かった……」
カレンがユキに思念で索敵を指示し、ゴブリン達が追ってきていない事を確認したサトス一行は馬の速度を緩め安堵の表情を浮かべる。
「絶対に死んだと思ったぜ。お前らが作戦に気付いてくれて良かったよ」
「あの状況ならあれしかないから当然よ」
「中級魔法覚えといて良かったわ」
「俺の大剣は無くなったがな……」
「被害がそれだけで済んで良かったわ」
「「「「「「「はははは……」」」」」」」
奇跡的に助かり、渇いた笑い声を出すサトス一行。新人冒険者達は泣いていたらしく、顔中涙と鼻水で凄いことになっていた。
「カレンとメインは女の子達を連れてこのままアタランテに戻ってギルドに報告してくれ」
「「了解」」
「男どもは俺達と途中に寄った村に行って全員避難させるぞ」
「「「「「はい!」」」」」
サトス達は2手に別れ、次の行動に移った。




