第50話 雨降って地固まる?
デブリスの件が片付いて12日が過ぎ、僕達がいつものようにギルドに入り受付に行くと、受付嬢さんに「ギルド長室がお呼びですので、ギルド長室へ行って下さい」と言われた。
「失礼します」
「おう、チームルーナよく来たな」
直ぐにギルド長室へ直行し、僕達がドアを開けるとギルベルト様が満面の笑みで迎えてくれた。
僕達のパーティー名いつの間にチームルーナになったんだ? まあ、それは良いや。
話を聞いてみると、先日のデブリスの組織討伐? クエストの特別報酬兼、町の警備不備のお詫びで、僕達5人とうちの家族、それとデイジー一家と一緒に拐われたエルフ族を、ギルベルト様がグランセル領の温泉地、ユノハの町のグランセル家所有の宿に招待してくれると言うことだった。
日取りはこちらの都合に合わせてくれるという事で、その日の夜にデイジー達エルフ族も呼んで家族会議が始まった。
「━━と、言う事なんだけどどうだろう?」
「僕達は遠慮させてもらうよ。このグランセルの町には馴染んできたんだけど、他の町はまだちょっとね」
オーキッドさんが口を開き、他のエルフ族の人達もそれに同意する。
まあ、それもそうだよね。先日あんな事もあったし、他の町は警戒するか……グランセルではあの日以来、特に商人組合の人達が完璧に警備してくれてるから安心出来るんだろうけど。
ちなみに何故商人組合が警備にあたってくれてるかと言うと、エルフ族の人達がグランセルで買い物するためのゼルを稼ぐために町で売った魔法薬が、人間族が作る物よりはるかに効果が高く、高値で取引されているからだ。商人達からすればエルフ族は来なくなられては困る相手になっているのだ。
「母さんはどう? 休み取れるかな?」
「うーん、最近結構休んでるから解らないわね。とりあえず店長さんに聞いてみるわ」
「こちらの都合に合わせてくれるから、直ぐ取らなくても大丈夫だからね、休める日を教えてくれたらギルベルト様に伝えるよ」
「解ったわ、相談してみる」
そんな訳で、母さんの都合がつき次第出発と言う事になった。デイジー達が来られないのは残念だけれど、アイリスとアレンは初めての温泉旅行にテンション上がりまくりだった。
翌日、母さんが店長さんに相談したところ、母さんの感覚では多く休みを取ってるつもりだったのだけど、普通の人に比べると休んでいない方だったらしく、いつでも大丈夫だという事だった。
そういえばアレンの件が片付いてから1日も休んでなかったよな……
結局、直ぐに休むのも気が引けるという事で、8日後に出発で決定した。
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出発の日の朝、ギルベルト様と町の中央広場で待ち合わせて出発の予定なのだけど、約束の時間が過ぎてもギルベルト様が来ない。
「来ませんね」
「…ん、寝過ごし…た?」
「急ぐわけでもないし、ゆっくり待ちましょう」
「あっ、あっちから凄い勢いで走ってくる人が居ますよ」
アリシアさんが指差す方を見てみると、何かから逃げるように走ってくるギルベルト様の姿が……
「すまん! 待たせたな、直ぐに出発しよう。さあ、早く」
息を切らせながら僕達を急かすギルベルト様。
何だか様子がおかしいな?
「どうしたんですか? 何かありました?」
「いや、何でもない気にするな。さあ、エリー早くドラゴンに変身してくれ」
「父上ー!!」「ギルベルト様!」
「まずい! もう追い付いて来やがった」
ギルベルト様が走って来た方角から複数の男女が走って来た。
「父上! 仕事を放ってどこへ行くおつもりですか?」
「ギルベルト様、逃がしませんよ?」
「し、仕事はお前達に任せる。俺は今日から休暇だ」
先頭を走って来た渋い感じの30才前後の男前の人(息子さんだろう)と、その人より少し年上に見える美人な女性が厳しい表情でギルベルト様に迫り、その後を付いてきた人達がギルベルト様を左右から囲もうとしている。
「休暇は先日取ったところでしょう! ユノハへの付き添いはフォーランに任せて仕事に戻って下さい」
「嫌だ! こんな時じゃないと、ドラゴンに乗る機会なんてないんだ。ワシは行くぞ!」
「子供みたいな事言わないで下さい! お前達捕まえろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
し、仕事抜け出して来たのか……って言うか今回の目的ってエリーさんの背に乗りたかっただけ?
抵抗はしていたけど、あっさりと捕まり連行されるギルベルト様。
「お見苦しい所をお見せしました。冒険者ルーナ一行と、シュトラール一家の方々ですね。私はグランセル家長男、エリシオと申します」
「これはご丁寧なご挨拶痛み入ります。僕はアステルと申します。僕達にそんな丁寧な話し方をしなくて良いと思うのですが? と、言うかあまり丁寧に話されるとどういう風に返して良いのか戸惑います」
うわぁー! ひょっとして失礼な事言っちゃったかな?
「はははっ、それは失礼した。騒がせてすまなかったな、父は連れて帰るが旅の付き添いは弟にやらせる。気を使う必要はないから遠慮なくこき使ってくれ」
「グランセル家三男のフォーランと言います。今日から3日間宜しくお願いします」
「これはご丁寧にありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします」
挨拶してきたのは僕と同じくらいか、少し年下くらいの朱色の髪の凛々しい少年だ。
「宿とは話がついているから楽しんで来ると良い。フォーラン頼んだぞ?」
「はい、兄上」
朝からかなりゴタついたけど、ギルベルト様の代わりにフォーラン様が一緒に来ることになり、僕達はグランセルの南西部、海が見える温泉地ユノハに向かって出発だ。
「うわぁー! お、落ちる!」
「大丈夫ですよフォーラン様。エリーさんの風魔法で落ちないように守ってくれてますから」
エリーさんが飛び始めて直ぐにフォーラン様が怯えてふさぎ込んでしまった。
「し、しかし、こんな速度で……」
「大丈夫だよフォーラン兄ちゃん。全然風も来ないでしょ? ほら」
怯えるフォーラン様にアレンが笑顔で話し掛け、立ち上がって手を広げている。
こらこら、フォーラン兄ちゃんって……
「大丈夫だから景色を楽しんで」
「せっかくの空の旅なんだから楽しまなくちゃ損だよ」
「…ん、怖くない…よ」
フェリシアさん、アリシアさん、ルーナさんもフォーラン様に声を掛け落ち着かせる。
おーい、みんな言葉使い……気を使ってる僕が馬鹿みたいじゃないか……
みんなに声を掛けられ恐る恐る顔を上げてゆっくり景色を見渡すフォーラン様。少し落ち着きを取り戻したのか、流れる景色を見て少しずつ表情が和らいできた。
「凄い……驚くほど爽快な景色だ。父上が乗りたがってた気持ちが解りました」
「ふふ、それは良かったのう。ならばもう少し速度を上げるのじゃ」
すっかり落ち着きを取り戻したフォーラン様は速度が上がっても流れる景色を楽しんで、小さな子供の様に楽しそうにはしゃいでいる。
皆が気を使わず気さくに話し掛けるのが良かったのか、すっかり打ち解けたようだ。
うーん、どうやら敬語で話し掛けるのも良し悪しなんだな……まあ、僕は僕だ。
温泉と海産物の町ユノハの数百m手前から歩き、グランセル家が所有する温泉宿に到着した僕達。
流石はグランセル家の温泉宿だ。この町で1番大きな宿らしく、敷地面積は4000平方メートル、宿は木造2階建てで、一般宿とは別にグランセル家専用の別館が在る。
僕達が宿泊させてもらうのは別館で、造りは一般宿よりもはるかに豪華、部屋数は20あり、専用の大浴場とは別に各部屋に海の見える露天風呂が付いている。
普段はグランセル家と仲の良い貴族の方々を招待して宿泊させているらしいけど、今日から2泊3日は僕達だけの貸し切りになっているらしい。
この大きさを僕達だけで貸し切り……本当に良いのかな?
「ようこそお越し下さいました。フォーラン様、御一行様、今日から3日間御ゆっくりお寛ぎ下さい」
フォーラン様に案内されて付いた別館の入り口に30人ほどの執事さん、メイドさんが深々と頭を下げて僕達を迎えてくれた。
流石に僕以外のメンバーも少し恐縮しているようだ……ルーナさんとエリーさん以外は……
部屋は2人部屋が5つと僕達の家の倍くらいの広さのリビングが付いた10人泊まれる特別室を借り、部屋割りは僕とアレ……ルーナさん、エリーさんとアイリス、母さんとアレン、フェリシアさんとアリシアさんになった。
フォーラン様は僕達の隣の部家に1人で宿泊。
「フォーラン兄ちゃん、1人で寂しくない?」
「大丈夫だよアレン、食事は一緒に取らせてもらうから家族でゆっくりすると良いよ」
「うん、でも嫌じゃなかったらお出掛けも一緒に行こうね」
「ああ、いつでも誘ってくれ」
アレンはすっかりフォーラン様と仲良くなったみたいだ。フォーラン様もアレンに誘われて嬉しそうにしている。
これから夜21時までは自由時間、昼食は町に食べに出る事になる。
夜は皆で食事だからそれまでは皆、興味のある場所へ別行動という話になり、僕はルーナさん、エリーさんと行動。母さん、アレン、アイリス、フォーラン様が一緒、フェリシアさん、アリシアさんが一緒に行動する事になった。
町には食事処、遊戯場、カジノとちょっとした海水浴場が在るらしい。あと色街も在るらしいが用事はない。
色街……サトスさんが居たら喜んで行きそうだよな……
「何処へ行きます?」
「ご飯食べた…い」
「そうじゃな、せっかくじゃから海鮮を堪能したいのう」
「そう思って、宿の執事さん達からお勧めの食事処聞いてますからそこに行って見ましょう」
「…ん、流石アステル」
「本当にお主はマメじゃのう」
僕が執事さん達から聞いた店は、調理師さんの腕は超一流なのに値段は庶民向けでお手頃な所らしく、母さん達やフェリシアさん達にもメモを渡して教えてある。
早速そこへ向かう。店は大通りから外れた隠れた場所にあり、観光客はあまり訪れないようだ。
中に入ると、僕達以外の全員が既に居た。
「あはは、バラけた意味無かったね。一緒に来れば良かったよ」
「せっかく教えてもらったから来なきゃって思って……」
「ふふ、じゃあ一緒に食べましょう」
席に付いていた母さん達も移動し、大部屋に入れてもらい各自好きなものを注文。
お勧めの店だけあって、味はかなり良かった。
ルーナさんやエリーさんも気に入ったようで、2人の食欲に火がついた。
エリーさんは大好きなお酒も注文。母さんもエリーさんと一緒に呑んでいる。
エリーさんのペースと変わらない呑み方してるのに平気そうだな……初めて知ったけど母さんはかなりの酒豪らしい……
ルーナさんの食欲とエリーさんと母さんの酒豪っぷりにフォーラン様がかなり驚いてるようだ。目が点になってる。
皆で楽しく食事をする事2時間……
「申し訳ないのですが、仕込んだ材料が切れちまったんです。追加の注文はキャンセルさせてくれませんか?」
店主さんがお断りに来た。どうやら僕達が食べ尽くしたらしい……
「ふむ、仕方ないのう。それなりに腹も満たされた事じゃし、他の場所に行くとするのじゃ」
「…ん、ごちそうさ…ま」
それなりにって……恐ろしい……
「店主、会計はグランセル家に付けておいてくれ」
席を立ち会計に向かうと、フォーラン様が食事代はグランセル家で持つからと、お金を出させてくれなかった。
「本当に良いのですか?」
「良いのですよ。これくらいは、父のお小遣いから引いておきますから」
ちょっといたずらっ子みたいに無邪気な笑顔で話すフォーラン様。
本当にギルベルト様のお小遣いから引くんだろうか? 僕達はフォーラン様の言葉に甘えさせてもらって、今回は奢ってもらうことにし、皆でお礼を言った。
あと、ギルベルト様にも感謝する。
結局、今さら別行動するのもあれなので、皆で遊戯場に遊びに行き、4時間ほど体を動かす。木刀や弓を使った的当てや岩登り、障害迷路等、なんだか修行をしている感じの遊戯場だったけど、色々飽きないように工夫されていて、結構楽しかった。
ここでも、ルーナさんとエリーさんが驚異的な記録を出し、回りに居た観光客から拍手を受けていた。
壊さないかちょっとだけ心配したけど、今回はカラコの時みたいな無茶はしなかったので一安心だ。
宿に戻り、食事の時間までまだ2時間ほどあったので、先にお風呂に入ることにした僕達。
アレンは母さん達と女湯へ、僕はフォーラン様と男湯へ。
中に入ると、数百人は入れそうな広い浴場に驚かされた。湯船は岩に囲まれ、滝の様にお湯が流れ落ちている。女湯とは大理石の壁で別れているようだ。
「ここも貸し切りなんですね」
「はい、皆さんが滞在中はずっと貸し切りですので、いつでも利用して下さいね」
「はい、ありがとうございます」
体を洗い、湯船に浸かっているとフォーラン様が少し緊張気味に話し掛けて来た。
「……あの、アステルさん」
「何ですか? フォーラン様」
「アステルさんは冒険者なのですよね?」
「はい」
「冒険者という職業をどうして選ばれたのですか?」
「そうですね。僕の場合は父さんに憧れてです」
「お父上は有名な冒険者なのですか?」
「いえ、一般的な中堅クラスの冒険者でした。でも、皆から好かれて頼られる最高の冒険者だったと僕は尊敬してます」
「そうですか、素晴らしいお人なのですね」
「はい、自慢の父です」
「良ければ、冒険者の事を教えてもらえませんか?」
「僕が経験した事で良ければ」
僕は、冒険者になってからルーナさんに出会い、今日までに経験した事、何度か死にかけた話をフォーラン様に話した。
フォーラン様はとても興味深そうに、時に興奮して僕の話に聞き入っている。
「凄いです、尊敬します、アステルさん」
「いえっ、僕なんて全然大した事無いですよ。凄いのはルーナさんやエリーさんです」
「そんな事無いです。憧れます、師匠と呼ばせて下さい」
フォーラン様が何故か僕を尊敬の眼差しで見つめ、師匠などと呼び始めた。
「ちょっ……、勘弁して下さいフォーラン様」
「いえ、師匠。僕の事はフォーランとお呼び下さい。敬語も使わなくて結構です」
「いやっ、そういう訳には……」
「良いのです。決めました、僕もアステル師匠の様な冒険者になります」
「ええっ! いやいやいや、貴族のご子息だったら冒険者やらなくても」
少し感情が暴走してるよな? とうとう冒険者になるとか言い出したよ?
「貴族の子とは言っても僕は三男ですから家督は告げません。来年には成人を向かえ家を出ることになります。そうしたらもう貴族ではなくなりますから」
「それでも貴族の出なら普通は正騎士団に入るか、所持スキルによっては学問ギルドや神殿に就職しますよね? 何も冒険者にならなくてもその方が収入も安定しますし、地位も準貴族になりますし、上位の役職になれば男爵位と変わらない地位も与えられますよね?」
普通は貴族や豪商の家の子供は10才から騎士学院に入って正騎士になるか、特殊なスキルを持つ人はそれぞれの方向に進む。冒険者に比べて安全度も高いし、収入も金ランク冒険者の平均並みには安定して稼げる。無理に冒険者になる必要はないんだ。
「地位とかはどうでも良いのです。騎士学院にも通いましたが、平凡な騎士団より未知なる世界との遭遇を求めて冒険者をやる方がわくわくします」
いやいや、騎士団って平凡じゃないよ? 選ばれた家柄の人にしかなれないんだから……一般人から見たら憧れの職業だよ?
「アステル師匠。僕が冒険者になったら師匠のパーティーに入れて下さい」
「いやっ、それは僕の一存では……ってそうじゃなくて……フォーラン様?」
「様は要りませんフォーランとお呼び下さい。敬語もいいです」
僕の両肩を掴み迫ってくるフォーラン様
「解った、解ったよフォーラン。でもパーティーに入れても良いかは皆の意見を聞いてみないと解らないよ?」
「はい、ありがとうございます」
フォーランの圧力に負けて、敬語ではなく友達口調を使わざるを得なくなった僕、本当に良いのかな? そのうち熱が覚めるかも知れないから少し様子見だな……
フォーランも少し落ち着きをみせ、のんびり湯船に浸かっていると、女湯側から話し声が聞こえてきた。
「わぁー、エリーさんの胸ってやっぱり綺麗ですね」
「本当に形も大きさも理想的な胸です」
フェリシアさんとアリシアさんの声のようだ。
「良いなー、私もエリーさんみたいに大きかったらなー」
「何を言っておるのじゃ。アイリスはまだ成長期なのじゃから、これからじゃよ」
アイリスも話に混ざって来たようだ……
「ルーナさんも綺麗ですよね。先っぽも桜色だし」
「…ん、でも大きくない…よ」
「ルーナさんはそれが丁度良いんですよ。微美乳って言うんですか?」
ル、ルーナさんの桜色……ヤバいこれ以上は聞いちゃダメだ。早く出よう……
「フォーラン? フォーランしっかりしろ!」
刺激が強すぎたのか、湯あたりしたのか、フォーランが鼻血を出して湯船にうつ伏せに倒れ浮かんでいた。
僕はフォーラン様を抱え急いで大浴場を後にした。
脱衣場で熱りを冷まし、フォーランも意識を取り戻し、部屋へと戻る。
食事の時間になり、宿泊部屋とは違う変わった部屋に集まる。
食事部屋は畳と呼ばれる敷物の上にクッションを敷き、そこに座るらしく、グランセルの町では見かけない変わったスタイルだ。
でも意外と悪くない。
大きな長方形のテーブルに両端は母さんとフォーラン様、僕の座る側は左からエリーさん、僕、ルーナさん、反対側には向かって左からアレン、アイリス、フェリシアさん、アリシアさんの順に座り、食事が始まる。
料理は海鮮中心の料理だけど、昼に食べた料理とはまた違った材料、調理法で、目新しく美味しそうだ。
ここでもルーナさんとエリーさんの食欲はとどまること知らない。フォーランの話では、仕込みは充分に用意しているので、満足いくまで食べられるだろうという事だ。
皆、美味しく楽しく食事が進む。
「アステル師匠、食事は口に合いますか?」
「うん、とても美味しいよフォーラン」
フォーランが話し掛けてきたので返事をすると、ルーナさん、エリーさん、フェリシアさん、アリシアさんの箸が止まり、僕の顔をじっと見つめ始めている。
あれ? どうしたのかな? ひょっとしてフォーランが僕を師匠って呼んだのが気になるのか?
「アステル、私は悲し…い」
「えっ? どうしたんですか? 突然。僕何か悪いことでも?」
「アステル、お主は酷い奴じゃ」
「ええっ!? な、なんの話です?」
「「ええっ!?」じゃ無いですよ!」
「どういう事ですか? アステルさん」
な、何で僕が責められてるんだ? 意味が解らないよ……
「アステル、我らはもう一緒に暮らして1年近くになるのじゃ」
「…ん、そうだ…よ」
「はい、そうですね。もう、家族同然です」
「その通りじゃ」
「…ん、私もそう思ってる…よ」
「私たちも知り合ってパーティーを組んだのはまだ最近ですけど仲間ですよね?」
「勿論ですよ」
「じゃあなんで、今日知り合ったばかりのフォーラン君にはタメ口で私達には敬語なんですか? 呼び方も未だにさん付けだし」
ええっ! そこ?
「アステルは私よ…り、フォーランの方が親しみがあ…る?」
「そんな訳ないじゃないですか? ルーナさんは僕にとって居なくてはならない存在です。勿論、エリーさんもそうですし、フェリシアさんとアリシアさんも大切な仲間です」
「ならば、我らにも他人行儀な話し方ではなく、ユミリア達と話す様に話すのじゃ」
「ええ……でも、尊敬するルーナさんやエリーさんに友達口調っていうのも……」
「アステルは、私達…よりフォーランの方が親しいんだ…ね?」
「いや、だからそんな事ないですって」
「ならば、我らにも敬語やさん付けは禁止なのじゃ」
「「そーだ、そーだ」」
エリーさんの言葉にフェリシアさんとアリシアさんがテーブルに身を乗り出して同意している。
「ええー……」
「…もう、アステル知らな…い」
「ルーナさん? ああーもう! 解った、解りましたよ。これからは敬語もさん付けもしませんから」
「言っておる側から敬語ではないか?」
「あっ……」
「じゃあアステル、名前呼ん…で」
「ええー? そう言われると呼びにくいなぁ」
「帰…る」
「待って、待ってよ。ル、ルーナ帰らないでよ」
「…ん」
僕はルーナさんの両肩に手を置き名前を呼ぶと満足そうにルーナさんが元の位置に戻る。
「次は我の番じゃ」
「解ったよ。機嫌直してエリー」
ああーなんか滅茶苦茶恥ずかしいぞ?
「次は私ですよ」
「フェリシア、じゃあフェリシアもアリシアも敬語じゃなくて良いよ、さん付けもいらない」
「あー私だけなんかついでみたいに呼んだよねー」
うぅ……ちょっと面倒になってきたかも……
「そんな事ないから。ね、アリシア」
「やったぁー」
呼び捨てと友達口調に変えただけで皆の機嫌も直ったようで一安心だ。まあ、考えてみればいつまでも敬語で話すのも可笑しかったんだよな。良いきっかけになったかも。
「さて、アステルの事はこれで良いとして、許せぬ奴が居るのじゃ」
「…ん、罰は必要だ…ね」
機嫌が良くなったと思ったら威圧感たっぷりにルーナさんとエリーさんが立ち上がってフォーランに視線を送っている。
「そうだよ。許せないよね」
「お仕置きが必要だよ」
フェリシアとアリシアも同じように立ち上がってフォーラン様を睨んでいる。
「えっ? な、何の話ですか?」
「お主に少し話があるのじゃ」
「…ん、ちょっと外まで行く…よ」
プチパニック状態のフォーランがフェリシアとアリシアに両腕を捕まれ、部屋の外へと連れていかれ、どこかへ行ってしまった。
許せフォーラン。君が悪い訳ではないのだけど、僕には庇うことは出来ないんだ……
暫くして皆戻って来たけど最後に部屋に入って来たフォーランは、涙目になって小刻みに震えていた。




