第51話 困った時のエリーさん
「おはよう、ルーナさ……ケホッ……おはよう、ルーナ」
「おはようアステル」
件の宴会から一夜明け、起きた僕達は挨拶を交わす。
昨日から敬語とさん付けを止めたのだけど、フェリシアとアリシアは兎も角として、ルーナさんとエリーさんを呼び捨てにするのは違和感を感じる。つい、さん付けで呼んでしまいそうになる。
それにちょっと照れ臭い……結局、朝の挨拶はルーナさんとエリーさんだけぎこちない感じになってしまった。
早めに慣れないとだな……
今日はみんな別行動、エリーさんと母さんは朝食を済ませると、大浴場に直行し温泉に浸かりながらのんびりお酒を飲むらしい。
アイリス、アレン、フェリシア、アリシアはフォーランの案内で子供用のレートの低いカジノ場に行くらしい……あまり熱くならなければ良いのだけど……とりあえず、アイリスとアレンには500ゼルずつお小遣いを渡してこの範囲内で遊ぶように言い聞かせておいた。
僕はルーナさんとゆっくり砂浜散歩に出掛ける。
砂浜に到着すると、僕達みたいに散歩をする人が数人、流石に今の季節に泳いでいる人は居なかった。
「ルーナ、見て」
僕はルーナさんを呼び止めて魔力操作で砂を操って作ったティガ(5分の1スケール)を見せる。
「…ん、ティガだ…ね。じゃあ、私…も」
ルーナさんが作り出したのは、エリーさん(竜形態10分の1スケール)だった。
「凄い、細部までこんなに細かく……なら今度は」
僕の家(10分の1スケール)室内まで完璧に再現する。
「やる…ね。じゃあ、ギルド会…館(千分の1スケール)」
「おおっ! ギルド会館が室内まで完璧に再現されてる。なら僕はグランセル家の屋敷……ああ、入ったこと無いから内装が解らない……うーん」
何を作ろうかと頭を悩ませていると、散歩をしていた僕達以外の人がこちらを注目して「おおー!」という歓声と拍手が鳴っていた。
「あはは、いつの間にか注目浴びてましたね……」
「…ん、別の場所に行…く?」
「ですね」
砂の力作を置いて拍手をしてくれていた人達に愛想笑いを返してその場を離れる。ルーナさんも少し照れてるみたいだ。
砂浜を後にした僕達が次に向かったのは露店街。串焼き、串揚げ、甘味、フルーツ、生鮮品何でもありの露店が立ち並ぶ。
昨日の夜に食べた高級海鮮とは違って僕達にお手頃な海鮮グルメだから気軽に買い物が出来る。
宿の食事はまともにお金を払ったら破産しそうな高級料理ばかりだったから美味しかったけど、もう食べる機会はないだろな、ギルベルト様に感謝しなきゃ。
露店の端から順番にルーナさんが全品制覇しそうな勢いで買い食いを楽しんでいる。僕は中でも特にルーナさんが気に入ってそうな料理を買って味を心のメモに記憶する。
「泥棒ー!」
露店巡りも10件目に突入した頃、少し離れた場所から中年男性の叫び声が聞こえてきた。
「とうとう捕まえたぞこの野郎!」
騒ぎの方を見に行ってみると小さな子供が、体格の良い男性に押さえ付けられ、そこへ恰幅の良い中年男性が顔を真っ赤にして歩いて近付いている。どこかの店の店主さんのようだ。
「何回もうちばかり狙いやがってこの野郎!」
「あぅっ! ごめんなさい、ごめんなさい」
店主さんが押さえ付けられている子供の顔に蹴りを入れ、子供が泣きながら必死に謝っていた。
「なにやってるんですか!?」
僕は子供を押さえ付けている男性を突き飛ばし子供を抱き抱えて店主さんから庇った。
「誰だか知らねぇが関係ない奴はすっこんでろ! こいつにはもう何度も商品盗まれてんだ」
「それは……確かにこの子が悪いかも知れないですけど、こんな小さな子供に暴力を奮うのはどうかと思いますよ? これまでに盗まれた商品の額は解りますか? 僕が代わりに払いますから今回は許してあげてもらえませんか?」
「うーん……確かに蹴りを入れたのはやり過ぎたと思う。それは悪かった。まあ、兄ちゃんが払ってくれるんなら今回は勘弁してやるよ。でも次は衛兵につき出すからな」
「ありがとうございます。よく言って聞かせますから、ほら君も謝って」
抱き抱えている子供に詫びるように促し子供を見てみると、子供は人間族じゃなく、兎のような耳と白い髪、赤い瞳をした獣人族の子供だった。
あれ? なんで獣人族の子供が町中にいるんだろ? 滅多に人間族の町には入らないのに……
獣人族。人兎族、人虎族、人狼族の3種族の総称。高い身体能力と半獣化という特殊能力を持つ種族。半獣化は身体能力を数倍に引き上げると言われている。
「ごめんなさい」
僕に促されて獣人族の子供が店主さんに謝ったのだけど、余程怖かったのか抱いている僕にしがみついたまま離れようとしない。
僕は店主さんが提示した請求額を支払い、店主さんは満足そうにその場を離れる。集まっていた野次馬も皆観光に戻ったようだ。
ふぅ、お金が足りて良かった。この前の報酬のおかげだな。
「そこのベンチで休もうか?」
「…ん、じゃあ何か買ってくる…ね」
僕は子供を抱いたまま近くにあったベンチに座り、そこへルーナさんが露店で幾つかの食べ物を買って戻ってきた。
「食べ…る?」
ルーナさんが子供に買ってきた食べ物を差し出したけど、獣人の子供は僕にしがみついて胸元に顔を埋めたまま微動だにしない。
「落ち着くまでちょっと待とうか」
「だね」
ルーナさんが僕の横に座り、買ってきた食べ物をゆっくり食べながら僕にも食べさせてくれる。僕はルーナさんに食べさせてもらいながら、獣人の子供の背中をポンポンと軽く叩きながら気持ちを落ち着かせる。
暫くすると、少し落ち着いたのか、獣人の子供の体から力が抜けて、顔を上げて僕達を見た。
「落ち着いた?」
「食べ…る?」
僕達の呼び掛けに無言で頷き、ルーナさんからりんご飴を受け取る獣人の子供。
僕は獣人の子供を抱き直し、僕に背を預けるように座らせた。
「なんであんな事をしたのか教えてくれる?」
「ごめんなさい」
僕が尋ねると獣人の子供はシュンとして下を向いた。
「怒ってるんじゃないよ。何か理由があったんだよね? 僕達に教えて欲しいんだ。ひょっとしたら力になれるかも知れないし」
僕は子供を怖がらせないように優しく声を掛け、ルーナさんが優しく頭を撫でる。
すると、少しずつゆっくり子供は口を開き、話を始めた。
詳しく聞いてみると、この子はスターリット山脈の麓にあった獣人族の村の子供で、前にあったオーガキング発生事件の時に村がオーガの群れに襲われ、命からがらこの近くに逃げて来た人達の1人で、大人の殆どは子供を逃がすためにオーガと戦って死んだと言うことだ。
生き残ったのは大人(女性)が2人と子供が30人ほどで、大人は子供を食べさせる為に自分は殆ど食事を取らず狩りを続け、ある日狩りに出たまま帰って来なくなったそうだ。
子供だけでは大物狩りは難しく、暫くは小さな獣と木の実や野草を食べてなんとか食い繋いでいたのだけど、種の季節に入ってからは獣の数も木の実や野草の数も減り、肉を食べないと力が出ない人狼族、人虎族から順に動けなくなり、草食の人兎族の中で一番年が上だったこの子が皆を食べさせる為に町まで来て肉や魚を盗んでいたと言う。
「そうか、大変だったね。ルーナ、この子の仲間が居る所まで行ってみよう」
「…ん、その前にエリーも連れてい…く」
「そうだね。エリーなら物知りだから色々良い方法を教えてくれるかも知れないしね」
「…ん、困った時のエリーだ…ね」
善は急げと、宿に戻る僕達。
移動の間にも話をして、お互いの自己紹介をする。この子の名前はラヴィ、人兎族の6歳の女の子だ。他の子供達はユノハの町からラヴィが歩いて3時間ほどの小さな森に居るらしい。
「なんじゃ? また子供を拾ったのか?」
獣人族についての補足
・人兎族。兎耳、真っ白な髪、赤い瞳、丸くふわふわなしっぽが特徴。
・人虎族。猫耳、猫目、黄色地に黒メッシュの髪、牙のような八重歯、虎の様な細長いしっぽが特徴。
・人狼族。犬耳、灰色の髪、牙のような八重歯、狼のような長くもふもふなしっぽが特徴。
ずっと出したかった獣人族がやっと登場! ファンタジーにケモ耳要素は大事ですよね。




