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第48話 制圧

 イルムの町に戻った僕達、予定では明日に森の屋敷に定期と言われていた馬車がやって来る。


 予定より早く来る可能性も考えて、僕達は今日から屋敷近くに潜んで待つ事にしたのだけど、その前に……ティガが調子に乗って修復不能にしたフェリシアさん、アリシアさんの防具を揃える為にイルムの武具屋に寄る事にした。


「本当に良いんですか?」


「はい、防具が無いと危ないですからね」


「ありがとうございます。やったぁ」


 壊したのティガだし……2人はお金無いし、今回は僕が買ってあげる事にした。


 僕が笑顔で快く返事をすると、2人は嬉しそうに防具を見て回っている。


 2人が選んだのは新人冒険者が最初に買う事が多い、鎧魚の鱗とサーベルウルフの革を材料に作られた鎧と盾、締めて3万5千ゼルだ。


 値段の割には斬撃耐性、衝撃耐性に優れ、修繕費もお手頃だから、青銅ランクに上がるくらいまではこれで大丈夫だろう。2人が使ってたお手製革鎧に比べたら格段の防御力アップだ。


 喜んでくれたのは良かったけど、結構な出費になってしまった……ティガは20日間おやつ抜きの刑決定だな……思念で『酷いのだ実戦訓練だって言ったのに』とか伝わって来るけど決定は覆らない。



「カッコいいー、これ良いですね似合ってます?」


「すっごく軽いですね、 似合ってます?」


「はい、冒険者らしくなりましたね」


「むぅー、それじゃ今までは冒険者らしくなかったみたいじゃないですかぁ?」


「酷いですよアステルさん」


「い、いや、別にそういう訳では……」


 いや、そう思ってたけど……これを言うと更に怒られそうだから、プクッと頬を膨らましている2人から目を反らして誤魔化すことにした。



 フェリシアさんとアリシアさんの防具も揃い、僕達は屋敷近くに陣取り、エリーさんの認識阻害魔法で身を隠す。


 屋敷の男達が話していた予定通り、翌日の昼前に馬車が到着、馬車から人1人が入りそうな大きさの木箱を3つと酒樽、麻袋等を下ろし屋敷に入れた後、2時間程してから今日荷物を運んで来た2人が屋敷に残り、先日白衣の男と話していた体格の良い男2人が馬車に乗って去って行った。


「ティガ、絶対に見付かるなよ」


「ガウッ」


 男達が屋敷を出るタイミングで僕達は屋敷に侵入、エリーさんの竜の腕輪を持たせたティガが馬車から見付からない距離を保ちながら後を追う。


 ティガなら2km以上離れた場所からでも匂いを辿って追跡が可能だし足も馬車の数倍早い、見付からずに追跡出来るだろう。


  屋敷に入って直ぐに今日来た男達を素早くルーナさんが手刀で眠りにつかせ縛り上げる。


 認識阻害魔法を解除した僕達は隷属術式を掛けられている4人の男女と、地下に捕らわれて居た7人の男女を保護して、広い部屋に集まった。


 敵方の人間は先日の白衣の男と、この2人以外にはここには居ないようだ。


 エリーさんが隷属術式を掛けられている4人の術を解除して全員から話を聞く、上に居た4人は元は情婦(情夫)で、最初は雇われる形でここに連れて来られたらしく、隷属術式はここに来る前に目隠しをされて連れていかれた場所で掛けられたらしい。


 地下に居た7人は小さな村の農夫で、盗賊に襲われて一旦別の場所に監禁された後、箱に入れられてここに運ばれたらしい。


 話を聞くと、全員がイルムから北西に広がるクロム・ロックウェル伯爵が治めるロックウェル領の出身だった。


 ロックウェル領はウォルディンヴァルの北西地帯に広く拡がる大きな領地で、他の領地に比べモンスターの出現率が少なく、強いモンスターも居ない。その上、土地が豊かで水も豊富、ウォルディンヴァルの食料の凡そ半分を生産している、国の食糧庫とも呼ばれる所だ。


 助けた人達は敵方の事はあまり知らないようだった。状況を説明し話を終えエリーさんが全員の了承を得て一時的に隷属術式を掛け保護する。


 このままイルムの町のギルドに保護してもらっても良かったのだけど何処に敵が潜んで居るかも解らないので暫く様子をみた方が良いと考えての選択だ。


 制約は許可なく屋敷を出ない事、他人に害を与えない事、地下には入らない事、この3つだ。


 問題が解決次第、解放する約束をして、屋敷にはフェリシアさんとアリシアさんを護衛に残し、僕達はティガの元に向かった。


 現在ティガは南に向かっていた。ティガと合流した僕達、ここでティガにはフェリシアさん達の護衛をしてもらうために森の屋敷に戻ってもらい、僕達は竜形態のエリーさんの背に乗って認識阻害魔法で身を隠し男達の後を追う。


 南って事はグランセルに本拠地があるのか? と、思っていたら僕達が追跡を開始して1時間程経った時、男達が街道を外れ北西へと進路を変更した。


 結局向かった先は森の屋敷があった場所からほぼ真西に2日程の場所だった。


 着いた場所は標高100m程の小さな山が連なる所で、山全体が深く木に被われた何も無い場所に見えた。


「何にも無いですね」


「アステルよく見…て、砦みたいな建物がある…よ」


「人間の砦にしては珍しく認識阻害結界と誘導結界が張られておるのじゃ」


 どうやら僕には見えないけど山に囲まれた盆地に隠された建物があるらしい。


「なるほど、それで僕には見えないんですね、ところで誘導結界って何ですか?」


「誘導結界というのはな、決められた特定の道を進まぬ限り無意識の内に結界の外に誘導されてしまう結界なのじゃ」


 なるほど、そんな結界もあるのか、そういえばエルフ村に行く時も場所は知ってるのに転送魔方陣使わず森から行こうとしたら辿り着けなかったな、あれも誘導結界って事か……そんなのあるなら教えといてよ! この年で迷子になるとこだったよ?


 早速、砦に潜入して情報収集することにした僕達。


 エリーさんが人形態に戻り、僕達は男達の後を付いて行くと、結界を抜けたのか突然僕の目の前に小さな砦の様な建物が現れた。


 門は固く閉ざされ高さ5m程の壁が砦を囲っている。


 ちゃっかり男達の馬車の荷台に乗り込み、あっさり潜入成功、認識阻害魔法が便利すぎる。




 門を潜って直ぐに馬車が止まり、外に出てみると何故か武装した100人ぐらいの男達が馬車の周りを取り囲んでいた。


「そこに居るのは解っている。姿を現せ侵入者ども!」


 どうやら僕達が潜入したのがバレてるらしい、でも姿を現せって事は見えてないんだよね?


「やれやれじゃ、我の認識阻害魔法に気が付く者が居るとはのう」


「あれ? 魔法解いちゃったんですか? そのままやり過ごしても良かった気もしますけど?」


「バレてるなら同…じ」


「やることは変わらぬし問題ないのじゃ。少しばかり派手にやるだけじゃ」


 あー、この顔はたぶん地味に情報収集するのが面倒になったんだな……


「ルーナはあっちの方を頼むのじゃ」


「…ん」


 エリーさんが奥の建物にチラリと視線を送ってルーナさんに声を掛けて、それだけでルーナさんはエリーさんの意図を理解しているみたいだ。


 ルーナさんが目にも止まらぬ速さで奥の建物に突撃し、エリーさんが僕達を囲んでいた男達を次々ぶっ飛ばしていく。


 まるで風に舞う木葉の様に男達が宙に舞う。それに遅れること約2秒、奥の建物から壁を突き破って次々と人間が飛んで来た。


 砦を制圧するのに掛かった時間は約10秒、武器すら使わずに誰1人殺さず動けなくなるだけのダメージを与えて倒すとか人間業じゃないよな……って、なるべく相手に気付かれないように情報収集して黒幕を突き止めようとした僕の作戦だったのだけど、どうせこうなるなら最初から力業でやっても良かったよね?


「さて、情報収集の続きじゃのう」

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