第47話 アレン完治する
なんと! 47話にしてやっとアステル達が暮らしている国の名前が出てきます(笑)
僕達が持ち帰った資料の内容に目を通したギルベルト様、資料を読んでいる内にだんだん目付きが鋭く殺意を帯びてくる。
その気持ちはよく解る、内容が酷すぎるんだ。
酷い内容の一部が魔力や魔臓についての研究。生きたままお腹を切り開き魔臓を取り出し、その魔臓を他人の体に移植したり、モンスターから取り出した魔臓を人間に移植したりと、それは酷い実験の繰り返しの記録が記されていた。
体内で作られた魔力は血液と同じように魔管と呼ばれる管を通って、全身を循環しているらしく、魔臓の移植はその魔管の送り出し部分と戻り部分に切れ込みを入れ、取り出した魔臓の管をそこに合わせ回復魔法を掛けるというやり方はをしていたらしい。
結果はどれも失敗。移植された魔臓は拒否反応を起こし殆どが死に至っている。モンスターの魔臓を移植した一部の人間が短い時間魔力が上がり知性を失いモンスター化したという記録もあった。
結果的にそれも死に至っている。しかもただ死んだのではなく、時間とともに全身が腐り始め最後には骨も残らずヘドロの様な物に変質するらしい。
魔臓を取り出された人間は、死ぬことはないのだけど、魔法もスキルも発動出来なくなり、回復系魔法も通常より効きにくくなる。結果的にお腹を開いた傷が元で死んでしまうらしい。
魔臓の中の魔力は液状らしく、魔臓を開いて空気に触れると霧散して消滅するらしい。生きたまま魔臓を取り出すと、魔臓内の魔力は死んだ時と同じように魔石に変わり、5分程で液状に戻る。
死後、魔石に変わった魔力は放っておくと、液状に戻り、体に溶け込み最後には霧散するらしい。
その他にも、魔臓以外の臓器移植の実験や、魔管を通しての魔力譲渡実験等、森の実験場では人体実験を中心に行われていた様だ。
実験の成功例としては、魔力値上昇や先天的の個人固有スキルとは別の個人固有スキルの発現や運動性能の上昇等があった。魔力や血には型式があり、血の型式が合うものは魔力も合いやすいらしく、拒否反応を起こしにくく、死亡率が大幅に減少するらしい。
移植実験の成功率はモンスターからモンスターが一番高く約40%、次に人間からモンスター、人間から人間、そしてモンスターから人間への実験は成功率が0%だった。
成功した実験体は別の場所に移し経過観察中となっていた。
たぶん、この組織の本部にでも送られたのだろう……
「吐き気のするような内容ばかりだな……」
資料を数部読み、ギルベルト様が静かに口を開いた。
「ここに持って来たのはほんの一部だけなのじゃ。例の屋敷にはこの数十倍の資料がまだ残っておる」
「で? 黒幕への追跡は出来そうなのか?」
「奴等の話を聞くかぎりでは、明後日に定期と呼ばれる実験体の搬入があるらしいのじゃ。その後をつければ、1段階上の組織には近付けるであろうな。そこが組織の本部であれば楽なのじゃがのう」
「解った。なら君達にはこれを渡しておこう」
ギルベルト様が掌サイズの楕円形の黒い物をエリーさんに渡している。
「なんじゃ? これは」
「これは遠話器という魔道具でな、ウォルディンヴァル王国内なら何処に居ても、ワシの持っている遠話器と通信が出来る優れものだ」
「ええ!? そんな物があるなら最初か━━」
そんな便利な物があるなら最初から貸してくれれば良いのにと、つい口に出しそうになった僕。相手がギルベルト様だった事を思い出し、両手で口を押さえた。
危ない危ない、またやらかすとこだった……
「ははははっ! 悪く思うな貴重品だからな、滅多な事で貸し出す事は出来んのだ。今回の報告で、貸し出すだけの事態だと判断した。何か解ったらいつでも連絡してくれ」
「は、はい!」
どうやら口を押さえるのが遅かったみたいだ……相手がギルベルト様じゃなかったら不敬罪で捕まってたかも知れないな……
暫く話を詰めて僕達はギルドを後にし、その足でエルフの村に向かった。
家のエリーさんが張った転送魔方陣からエルフ村のオーキッド家の横に建てられた僕達専用の転送小屋に移動。オーキッド家を訪ねる。
「こんにちは」
「アステル君いらっしゃい。中へどうぞ」
玄関から声を掛けると中からヴァイオレットさんが出迎えてくれた。
家に入るとオーキッドさん達と母さん達がお茶会の真っ最中だった。
「あれ? アレンは?」
お茶会の中にアレンとデイジーが居ない。
「アレン君ならデイジーと一緒に修行すると言って村の広場に出掛けているよ」
「ええ!? 治療はもう終わったんですか?」
「うん、もう大丈夫だよ。精神魔法の補助が無くても普通に生活出来る様になったよ」
「早いですね、流石はエルフ族の治療」
「いや、僕達の……と言うよりはアレン君の心の強さが要因だよ。それとアレン君のデイジーへの愛情かな? 同じエルフ族だったら是非デイジーを嫁に貰ってほしいところだね」
「ふふ、アレンったら「次は必ずデイジーを守ってみせる」って、震える手を無理矢理押さえ付けて素振り始めちゃったのよ」
うん、流石は僕の弟だな、やっぱり愛は勝つんだ。まあ、人間とエルフじゃ寿命も成長も違うし子供も作れないから実らぬ恋なんだけどね。
僕もアレンに負けず、ルーナさんを守れる男にならななきゃ……ルーナさんが守られなきゃいけない状況になるのかは、難しいところだけど……
オーキッド家を出て、アレンが修行してる広場に向かった僕とルーナさん。エリーさん、フェリシアさん、アリシアさんは残ってお茶会に参加している。
広場に到着すると、アレンだけでなくあの時一緒に捕まったデイジー達4人も一緒に木刀を握って素振りをしていた。
「アレン! 調子は良くなったみたいだな」
「兄ちゃんお帰り、もう大丈夫だよ。それより、みんなにも剣術教えてあげてよ。デイジー達も強くなりたいんだって」
「…ん、私に任せ…て」
「いや……最初からルーナさんの修行はみんな付いてこれないんじゃ?」
「大丈夫だよアレン。僕達森で獣狩りだってやってるんだから」
「そうだよ、もうあの時みたいに簡単に捕まったりしたくないんだ」
「そうなの、強くなれるんなら厳しい修行にだって耐えられるの」
アレンの心配を他所に、カメリア、ジャスミン、デイジーがやる気に満ち溢れた目で返し、リリーも両拳を握り頷く。
「やる気があるの…は良いこ…と」
ルーナさんはいつの間にか手にしていた木の棒片手に威圧スキルを発動。
威圧感に耐えられずデイジー達が立ったまま気絶した。
「ルーナさん……威圧はやり過ぎだと思いますよ?」
「て…へ」
相変わらず手加減が下手なルーナさん。アレンがこの威圧に耐えられるようになったのは訓練を初めて40日ぐらい経ってからだったかな? まあ、本気の威圧には耐えられないけど……たぶん僕も……「てへ」じゃないよ。まったく……可愛いなぁ。
デイジー達を起こして、今度は威圧無しで修行を再開。アレン達全員対ルーナさん、ルーナさんはアレン達に見えるギリギリの速度で動き、死角に回り込み頭上に木の棒の一撃を加える。
打たれた相手は頭を押さえて転がり回っている……いくら回復魔法で怪我は治せるとは言っても痛いものは痛い、何人心を折られずに続けられるだろうか?
うーむ、ルーナさんがはりきり過ぎて僕のやる事が無い……まあ、楽しそうだから良しとしよう。
ちなみに、デイジー達が魔法ではなく何故剣術の修行をしているかと言うと、エルフ族は大人も子供も魔力の総量が殆ど変わらない。
子供はその多すぎる魔力を上手く制御出来ないので、特殊な術式で、エルフ族の成人年齢(50才)まで魔力が暴走してしまわないように、制御を覚えさせつつ消費させているらしい。魔法を覚えるのは制御を覚えてからと決められているのだ。
ルーナさんのスパルタ修行が始まってから1時間。
「今日はこのくらいにしと…く」
「ありがとうございましたルーナさん」
「「「「……」」」」
良い汗かいたと言わんばかりの爽やかな笑顔を見せるアレンに対しデイジー達は修行がキツかったのか、うつ伏せに倒れて言葉を発せずにいる。
倒れている4人を僕とルーナさんが小脇に抱えデイジー宅へ移動。エリーさんに回復魔法を掛けてもらい頭のコブも治り、アレン達は、また5人で何処かへ出掛けた。
アレンの心配も無くなったし、これで集中して仕事に戻れるな。
僕達は再びイルムに向かった。




