↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/100

第46話 潜入

 作戦決行5分前、僕とエリーさんは予め屋敷の近辺に待機して認識阻害魔法で身を隠し、ティガは森の中で適当にモンスターや獣を狩っている。


 5分後にフェリシアさんとアリシアさんが森に突入しティガと戦闘開始、ある程度様子を見てルーナさんが参戦して屋敷の近辺で大暴れ、今回はフェリシアさん、アリシアさん、ティガの戦闘訓練も兼ねている。


 ティガにはフェリシアさん達相手の時は魔力操作や魔力撃を禁止してるけど、今のフェリシアさんとアリシアさんでは相手にならないだろう。


 ルーナさんを相手にする時は全力でやって良いと言ってある。まあ、それでもルーナさんに掠り傷1つつけられないだろうけど……



 予定時刻になりフェリシアさん達が森に突入、ティガが激しい咆哮を放つと森中に声が響き渡り屋敷の窓がカタカタとゆれ、森に住んでいる獣やモンスターが一目散に逃げ出した。


 暫くすると、木を削るような音や殴り付けたような音と共に木々が揺れ枝葉がガサガサと音を立て、フェリシアさんとアリシアさんの悲鳴が木霊する。


 ティガの奴、ちゃんと手加減してるんだろうな? ティガから送られてくる思念からすると、どうも逃げ惑う2人を追い掛けるのが楽しくて少し手加減を忘れているような気がする……


 少しずつ悲鳴と木々の揺れがこちらに向かって近付いてくる。


数秒後


 大木の間を抜けて、フェリシアさんとアリシアさんが転がり出て来た。


「いやあぁーー!!」


「無理無理無理無理! こんなのまともに戦える訳ないじゃない?」


 出て来た2人のお手製の革の鎧はあちこちが引き裂かれ、皮膚を掠めたであろう爪痕が身体中に刻まれている。


 2人の後からゆっくりとティガが歩いて出て来て2人を睨み右前足の爪をペロリと舐める。ティガの口の回りや前足にはモンスターのものであろう血がベッタリと付いていて獰猛さを引き立たせていた。


 どうやらかなり調子に乗っているようだ……


 屋敷の方を見てみると、2人の男性が2階の窓際で外の様子を覗き見るように半身を覗かせていた。


 一拍


 ティガがフェリシアさん達に飛び掛かり、フェリシアさん達が腕で頭を抱え身をすくませ、両者の間に影が割って入った。


 ルーナさんだ。今回、ルーナさんは手加減の為に斧は封印、ミスリル合金製の手甲を両手に装着して格闘のみでティガの相手をする。


 ティガの右前足を軽々と左腕の手甲で受け止めたルーナさん、ティガは一旦距離を取り、魔力全開で全身を被う。


 ジリジリと間合いを計り、先に動いたのはルーナさんだ。真っ直ぐ距離を詰め右拳を突き出す。


 ティガは素早くルーナさんの左側に身を躱し距離を取ろうとするが、ティガと同じ速度で同じ方向にルーナさんが移動し、そのまま右の前蹴りを放つ。


 ティガは真上に飛び上がり木を蹴って右に移動、ルーナさんの蹴りはティガの後ろにあった木に当たり、直径1m程の大木の蹴られた部分が粉々に粉砕され、高さ10数m程の大木が屋敷に向かって倒れ始めた。


 屋敷の中から叫び声が聞こえて来たかと思った瞬間。倒れていた大木がルーナさんの手により等間隔に叩きおられ、綺麗に積み上げられた。


 うはっ、一瞬目を離した間に大木が材木に……


 そんな事を思っていると、ティガが思念で話しかけてくる。


『ご、ご主人! 手加減はどうなったのだ? 姐(あね)さんのあれは当たったら死ぬのだ!』


『何を言ってるんだティガ。ルーナさんが本気でやってたらティガは今頃挽肉だよ? 子猫を相手にするくらい手加減してるよ。ルーナさんは』


『ば、ば、ば、馬鹿な事を言ってるのだご主人は、子猫があれ喰らったら挽肉どころの話ではないのだ』


『僕に話しかけてる暇があるなら集中しないと、大怪我するぞ? 訓練に集中しろ!』


 こんな会話をしている間にもルーナさんの攻撃は淡々と繰り返され、ティガは必死の形相で避け続ける。


「アステル、のんびり観戦してどうするのじゃ。目的を忘れるでないのじゃ」


 いつの間にか感知結界の穴を開けていたエリーさん、僕の両脇を子供を抱えるように掴み、抱き抱えて結界をすり抜けていく。


 僕達が結界を抜けて屋敷に歩いて近付いている後方で、少しずつ屋敷から遠ざかりながら戦闘を続けるルーナさんとティガ、フェリシアさんとアリシアさんもその後を追い、屋敷から離れていった。


 遠くから、戦闘開始時に聞こえて来た王者の風格漂う激しい咆哮とは違う、悲痛な叫び声のような咆哮が木霊した。


「な、なんだったんだ? あれは……」


「たぶん、冒険者がモンスター狩りやってたんだろ? それにしてもこの辺りではあまり見ないモンスターだったな」


「冒険者の方も異常な動きしてたな、ありゃ最低でも金ランクだぞ。半年ぐらい前のドラゴン騒ぎと同じで緊急クエストでもあったのか?」


「そうかもな……」


 さっき外を除き見ていた2人の男性が窓を開けてルーナさん達が去っていった方を見ながら話をしている。


 残念、ルーナさんは白銀ランクだよ。どうやらこの辺りには居ないはずのライオネル(ティガ)も、前にルーナさんとエリーさんがイルムで激しい戦闘をしたクエストのお陰で、特に怪しまれず済んだようだ。


 男性2人はやれやれといった感じに軽いため息を吐き、窓を開けたまま屋敷の奥へと帰っていった。


 僕達はその窓から屋敷に侵入する。


 屋敷の中では認識阻害魔法に加え、音響遮断風魔法《スリーピングフォレスト》を使い、僕とエリーさん以外には姿も声も解らないようにして中を探る。


 この2つの魔法かなり便利なのだけど、エリーさんから3m以上離れてしまうと、僕がエリーさんを見失ってしまうから別行動出来ないのが難点だ。


 2階を軽く見て回ったけど、あまり使われている風はなく、ある程度掃除はされているみたいだけど、かなり雑な掃除のようで、壁際にはホコリが溜まっていた。


「2階は何もありませんね」


「そうじゃな、どの部屋も殺風景で使った跡が見られぬのじゃ」


 僕達は2階の捜索を終え、1階へと下りて行く。


「何の騒ぎなのだね? 騒がしくて実験に集中出来ないのだよ」


 階段を下りた左側手からダミ声の男性の声が聞こえて来た。


 僕達は声のする方へ歩いて行く。


「ああ、外で冒険者がモンスター狩りやってたんだ」


「モンスター狩り? やたらと派手な音がしてたのだかね?」


「化け物じみた奴だったぜ? まあ、地下に引き込もってばかりのあんたがお日様拝めたんだから良かったじゃねぇか。がははは」



 話し声のする部屋のドアのガラス部分から中を覗いてみると、2階から外を見ていた体格の良い2人と、血のような赤い染みが付いた白衣を着た細身の男が居た。


 白衣の男性が椅子に座り、部屋の隅に居たメイド服を着た女性がカップにお茶を注ぎ白衣の男の前に置く。女性には鎖を象ったような痣が首を巻くように付いていた。


「隷属魔法を掛けられておるようじゃな」


「隷属魔法?」


「うむ、昨日言った話は覚えておるか? 他国では奴隷制度があるという話じゃ」


「はい」


「あの首の痣は奴隷を意のままに操る魔法が掛けられている証じゃ」


「って、事はあの使用人さん達は奴隷って事? ひょっとして、ストールを巻いていたって人は4人ともそれを隠す為に巻いていたんですかね?」


「恐らくはそうじゃな。隷属させて演技をさせておったのじゃろうな」


 そうなると、この3人がエルフを買い取っている組織の人間で、若い夫婦と使用人は被害者になる……助けてはあげたいけど、今は手を出すわけにはいかない……くそっ悔しいな……


 僕とエリーさんが話している間にも男達の会話は進んでいた。



「まったく、興を削がれたのだよ。それで? 先日話していたエルフはいつ届くんだね?」


「ああ、エルフか……あんまり期待しねぇ方が良いぞ? ガセかも知れねぇからな。定期が3日後に来るからそれで我慢しろよ」


「はぁー、まだ人間のストックは残っているのだよ。ここに来て3年、やっとエルフを調べられるかと楽しみにしているのだがね」


「しゃーねぇだろ? エルフなんて見付けるだけでも奇跡に近いんだからよぉ。人間で実験出来るだけ他所よりは良いだろ?」


「まあ、確かにそれはそうなのだがね……」


「例の馬鹿冒険者が下手打たなけりゃ村1つ分のエルフが手に入ってたんだけどな」


「研究所も1つ潰さなけりゃならんかったし、まったく捕まるんなら最初から手ぇ出すなってんだ」


「それと君達、あの部屋はちゃんと掃除してるのかね? 暇潰しに使うのは構わんのだがね。イカ臭くて敵わんのだよ」


「ははは、まあそう言うなって、ここじゃそれしか楽しみがないんだからよ」


「それに、俺達だけじゃなくて、交代の奴らも使ってるんだ掃除しても中々臭いは取れねぇよ。あんたも遊びゃ良いじゃねぇか」


 体格の良い男が下卑た笑みを浮かべながら部屋の隅に居るメイド服の女性に視線を送ると、メイド服の女性は怯えたような表情で目を伏せた。


「私はそういった行為にはあまり興味はないのだよ。それに君達の使い古しじゃ余計に使う気にもなれないしね」


「変わってるよなあんたは、俺なんか人間やモンスターをかっ捌くより女抱いてる方がよっぽど楽しいがね」


「馬鹿な事を言ってはいけないのだよ。ただ捌いてる訳ではないのだがね? 私は真理を知りたいだけなのだよ」


「あんたの話は難しくていけねぇ」


「何も難しい事など言ってはいないのだよ。君達もちゃんと学べば解るのだよ。魔道学の素晴らしさが」


「はいはい。で? エルフが来たら何を調べたいんだ?」


「そうだね、先ずは長寿の秘密を調べ尽くしたいのだよ」


「案外普通の答えだな」


「まあ、私も長生きはしたいのでね。人間の一生は短すぎるのだよ。長く生きても140年、エルフほど長く生きれればどれだけ研究が出来ることか、人間に生まれた事がこれほど口惜しい事はないのだよ」


「長生きしても研究漬けかよ。俺からすればあんたほど異常な人間はいねぇな……」


「褒め言葉として受け取っておくのだよ」


 この短時間にかなり都合よく、多くの情報を得られた。人体実験、人体解剖……どうやら思っていたよりもかなり悪質な組織らしい……それと、今のところはエルフ族に被害は出てないようだ。


 男達の話を聞きエリーさんが「長寿の研究か……くだらぬな」と、呟き冷めた表情を浮かべている。僕は何となく話しかけてはいけない気がしてその言葉を聞き流した。



 男達が話を終え、白衣の男は僕達の前を素通りし、地下に下りていった。


 まあ、見えないんだから素通りするよね。


 僕達は白衣の男に後を追って地下に向かう。


 気付かれないようにそっと地下へのドアを開け中に入ると、僕達のよく覚えのある臭いが鼻につく。


「血の臭いですね。それもかなり酷い……」


「部屋中に染み付いておるな」


 屋敷の地下を道なりに奥へと進んでいると、途中にある部屋に色々なモンスターや獣が小さな金属製の檻に入れられていた。


 更に進むと、この世の終わりのような諦めの表情の人間の男性が2人、女性が1人入れられた牢屋が見える。


 恐らく人体実験用の人間なのだろう……


 その隣の部屋には台に手足と首を拘束され猿轡を着けられた女性が寝かされていた。


 さっきの白衣の男が手に小さな刃物を持ちうっすらと笑みを浮かべながら刃物を女性の腹部へと近付けている。


「助けなきゃ!」


「馬鹿者、騒ぎを起こしては元も子もないのじゃ」


 僕が飛び出そうとするとエリーさんは僕の肩を抑え、僕の動きを止める。その間に女性の腹部は切り裂かれ、女性は塞がれた口で悲鳴を上げ、苦痛に目を見開いて体を震わせている。


「でも……」


「やるなら解らぬようにやるのじゃ」


 エリーさんは素早く白衣の男の後ろへ移動し、手刀で意識を奪い、倒れる男の襟首を掴む。


「早っ!」


 そのまま女性の傷を回復魔法で綺麗に癒し、白衣の男を引き摺って奥に移動する。


 拘束されている女性は突然の出来事に混乱しているようだ。


 僕もエリーさんに付いて奥に行くと、そこには部屋の左右の壁一面に立て付けられた本棚と突き当たりに置かれた机、仮眠用と思われるベッドが置かれた大きな部屋があった。


「ふむ、丁度良いのう。ここに寝かせておくのじゃ」


 エリーさんは白衣の男をベッドに転がすと、空中に魔力で魔法陣を描き何かの魔法を発動させた。


「今何の魔法を掛けたんですか?」


「今のは魔法ではないのじゃ。今の世には殆ど知られていない術でのう、睡眠魔法とは違って我が解かぬかぎりこの者は目を覚ますことはないのじゃ」


「ずっと寝たままって事ですか?」


「そうなのじゃ。寝ておるだけならそう怪しまれる事もないじゃろう? 幸いこの者はここから滅多に出ぬようじゃからのう」


「凄いですエリーさんは何でも出来るんですね」


「別に特別な事はやっておらぬのじゃ」


 いつものように凄い事を普通の事のようにやってのけるエリーさん。普通の基準が普通とはかけ離れてるのは突っ込まないでおこう……


 邪魔者も寝たので僕達は部屋の本棚に置かれている多くの研究資料を調べる事にした。


 恐らく世間には知られていない多くの研究内容、残酷と表現するのもまだ生ぬるい実験内容が書かれた資料に僕は吐き気に襲われ資料を棚に置いて口を押さえる。


「ふむ、久しく見ぬ鬼畜な研究じゃのう」


「エリーさんよく平気でいられますね。僕はこれ以上読むに耐えないです……」


「昔はもっと酷い実験をやっていた国もあったからのう。それに比べればまだ可愛いものじゃな」


 これが可愛いと思える酷い実験って……考えたくもない……


 いくつかの研究資料を持ち出し、拘束されていた女性を睡眠魔法で眠らせ人間族が捕らわれえている牢に入れて、僕達は屋敷を後にする。


 屋敷を出てイルムに戻る途中、エリーさんが僕に質問をしてきた。


「アステルはもし我のように長く生きられるとしたら生きたいと思うか?」


「……うーん、難しい質問ですね」


「これといって難しい質問ではないと思うのじゃが?」


「生きられるとしたらって事は選べるって事ですよね? 長く生きる方を選ぶとルーナさんが死んじゃった後もずっと生きなきゃいけないですし、でもそのままの寿命を選ぶと僕達が死んだ後、エリーさんが1人になっちゃうんです。僕にとってルーナさんは大切な人でルーナさんが居ない世界は考えられないです。けど、エリーさんも僕にとって、もう大切な人だから悲しい思いはしてほしくないんです。どちらかを選らばきゃいけないって考えると、どちらも選びたくないですよ。あっ、ルーナさんも一緒に長生き出来るならそれが一番かも……あれ? でも、そうなると母さん達は居なくなっちゃうのか……うーんやっぱり難しいですね……」


 僕は暫く独り言のように呟いて、ふとエリーさんの顔を見てみると、何故かエリーさんが頬を赤くしている。


「エリーさん、どうしたんですか? 顔が赤いですよ?」


「な、何でもないのじゃ。そんなに難しいなら答えは出さなくてよいのじゃ」


 何となく嬉しそうに僕から視線を外すエリーさん。


 僕達はルーナさん達と合流して話し合い、ギルベルト様に今回の報告とアレンの様子を見るために一旦グランセルに戻る事にした。


 3日後に屋敷の男達の仲間が来る。今度はその仲間の後を追って次の敵地を捜索だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。