第44話 行動開始
僕の部屋に入ると、エリーさんは眠れる森(音響遮断風魔法)で部屋内部の音や声が外に漏れない様にする。僕達の会話でアレン達の睡眠を妨げない為だ。
「これで我らの話は外には聞こえぬ」
「そんな魔法もあるんですね」
「…ん、便利だ…ね」
「風魔法を覚えればお主らにも使えるようになるのじゃ。それよりアステル、大丈夫かのう?」
「何がですか?」
「お主、人を斬ったのは初めてじゃろう?」
確かに……頭に血が上っていたとはいえ、実戦で、殺す気で人を斬ったのは初めてだ……でも……
「……そうですね。悪人とはいえ、人1人殺しちゃったのはちょっと心苦しいですけど、冒険者やってると護衛のクエストや盗賊の討伐クエストなんかも受ける事もあるだろうし、その覚悟は出来てました。問題ないです」
「そうか、なら良かったのじゃ。まあ、誰1人死んではおらぬがのう」
「え? 僕が斬った人もですか?」
「うむ、死んでおらぬ。楽に死ぬなど我が許さぬのじゃ。アレンを苦しめた分しっかりと苦しんでもらわねばのう」
エリーさんがとても悪い笑みを浮かべている……きっとグウェンの時みたいにとんでもないめに合わせたのだろう……いや、グウェンの時よりよりもっと酷い事をしてるかも……恐ろしいから考えるのはよそう……
「それより、僕はアレンが心配です。今はまだ落ち着いてますけど、いつ死にかけた時の恐怖が甦るか解らないですから」
「うむ、そうなった時はどう対処するつもりなのじゃ?」
「そうですね、なるべく刃物とかは近付けず、そっとしといた方が良いと思います」
「それではダメじゃ、なるべく早く出来れば明日の朝にでも剣を握らせるのじゃ」
「えっ? そんな事したら余計に恐怖がよみがえるんじゃ?」
「うむ、刃物を見るのも恐ろしいであろうな。じゃが、時間を開けるほど恐怖は拭えなくなるのじゃ。どんなに恐がろうと早めに刃物は恐くないと実感させるのが良いのじゃ」
「……その方が良いんですかね?」
「お主も体感しておろう? 何度か死にかけた事もあろうが、その直後に実戦をやっておるから恐怖に負けずにおれるのじゃ。大丈夫という経験を重ねる事で乗り越えるのじゃ」
そういえばそうだな……むしろ死にかけた直後には無理やりにでも戦闘をやらされてた様な気がする……
「なるほど、気付かなかったです。ルーナさんのスパルタ修行にはそんな意図があったんですね」
ルーナさんの方を見ながらそう言うと、ルーナさんは首をかしげてこちらを見返してくる。
あれ? 違うのか?
「ルーナにそんな深い思慮はないじゃろうな。本能的にどうするのが最適かを察して自然にやっておるのじゃ」
「なるほど、凄いですねルーナさん」
「…ん」
「さて、本題じゃが、どうするつもりなのじゃ?」
「…ん、デイジー達が安心し…て遊べる様にす…る」
「そうですね。出来ればエルフ族を買ってるっていう組織を潰せれば良いと思ってます。売り口が無ければエルフを襲おうなんて人も居なくなるでしょうから、エリーさんもそうですよね?」
そう思ったから僕もルーナさんも家に戻る前にエリーさんに釘を刺したのだから……
「そうじゃな、そう思ってあの屑どもから情報は聞き出しておるのじゃ」
「流石エリーさんですね。当然僕達も一緒にやりますよ」
「…ん、全部潰…す」
全員の意見が一致、エリーさんが得た情報を共有する。
屋敷に乗り込むのは問題ないとして、盗賊の侵入経路を完全に潰すのは僕達だけでは難しい。アレン達を拐った盗賊が使っていた侵入経路は下水道の一部に町の外に続く隠し通路があるらしく、そこを潰すだけなら問題ないのだけど、それ以外にも別の誰かが使っている隠し通路があるかも知れない。この件はギルドにも話を通して協力してもらえないか相談してみる事にした。
問題が解決するまでのエルフ族については、当人達と相談して決めようと思う。
とりあえずのこちらから提案してみるのは、町に出る時は僕達が同行して警戒、耳以外の見た目は人間族とほとんど変わらないので耳を隠す様に変装して外出するか、子供は暫く村からこちらに来ないようにするか。
大人のエルフ族は魔法さえ封じられなければ、金ランク冒険者並みに強いので、町中ならまず安全だろう。
一通りの話が終わり、今日は僕達も寝ることにした。
朝になり、デイジー達が家にやってきた。
無事なアレンの姿を見て皆安心している。しかし、僕達が懸念していた通りやっぱりアレンの心には深い傷が付いていた。僕達が寝て少しした頃にアレンは悪夢にうなされた。本人には自覚が無いようだけど、不意に体をビクッと、強張らせる事もある。
僕達はデイジーと一緒に来たオーキッドさんに相談して、暫くアレンはエルフの村で暮らすことになった。それに付いて、母さんも暫く仕事の休みをもらい、母さんとアイリスもオーキッドさんの家でお世話になる事になり、エルフ族が町に来る件も僕達の提案を持ち帰って村で話し合ってくれる事になった。
「アレン君の事は任せて下さい。こういった事は僕達エルフの得意分野ですから、直ぐに元の生活に戻れますよ」
「はい、宜しくお願いします」
転送魔法陣でエルフの村に移動する母さん達を見送って、僕達はギルドに向かった。
ギルドに到着し、相談を持ち掛けようと受付に向かうと━━
「お待ちしてましたルーナさん、アステルさん、エリーさん、奥の部屋に来てもらえますか?」
━━話をする間もなくギルド奥の会議室の様な部屋に通される。
「ギルド長、ルーナさん達をお連れしました」
部屋に入ると長身の身なりの良い男性が、椅子から立ち上がりこちらに歩いてくる。年は50才前後くらい、屈強そうな落ち着いた雰囲気の人だ。そういえば、ギルド長に会うのは初めてだよな? 普段はギルドに居ないみたいだし……
「グランセルギルドの長をやっているギルベルト・グランセルだ。まずは君達に謝罪をしなくてはならない、本当に申し訳ない」
「い、いえ、頭を上げて下さい。謝罪を受ける様な事はされて無いですよ?」
いきなり謝られてもなんの事だか解らないよ……あれ? ギルベルト・グランセル? ……って、よく見たら領主様じゃないか!
「あ、あの……なんで領主様が? なんでギルド長?」
「ギルドは国が運営しているのだ。トップが領主でもおかしくはないだろう? まあ、名前だけのギルド長だがな、普段は職員に任せて雑事に追われている」
おおっ、なんか砕けた人だな……
「あの……それで僕達は何故、領主様に謝られてるんでしょう?」
「まあ、そう堅くならなくて良い。ワシもあまり堅苦しいのは好きではないのでな。謝罪の理由は、警備の不備で君達の家族を危険にさらしてしまったからだ。盗賊の侵入を許すなど領土を任せられる者にとって許される事ではない」
「そうは言ってもこれだけ大きな町なんだから仕方ないですよ」
「そう言ってくれるのは有り難いが、領民を守るのは領主の勤めだ。その為に高い税金を納めさせているのだからな」
貴族って、もっとお高くとまってる人ばかりだと思ってたけど、めちゃくちゃ良い人だなギルベルト様。
ギルベルト様の人柄もあって、話は順調に進む。
今回の盗賊の隠し通路は直ぐに手配して潰し、町全体に他の隠し通路がないかを調べて全て潰し、検問の強化をしてくれる事になった。
「それで、アレン君達を襲った盗賊は全員殺したのか?」
「いや、死んではおらぬ。まだ放置した場所に転がって居るのではないかのう。まあ、あれで動けるほど心が強ければ居らぬであろうがのう」
「エ、エリーさん、言葉使い……」
「構わん。さっきも言ったように、ワシも堅苦しいのは好きではない。公の場でなければ必要以上に気にすることはないぞ」
そうは言われても……
僕があれこれ気にしている内に、ギルベルト様とエリーさんで話を詰める。放置した盗賊はグランセル兵が回収に向かい、今回のイルム外れの館の件は、ギルドからの正式なクエストとして受ける事になった。
最初はグランセル正規兵を動かそうかと言う話もあったのだけど、イルムの辺りがグランセル領ではないので、手続きに時間がかかるのと、あまり大っぴらに動いて敵に警戒されても困るという事から、ギルベルト様の耳にも届いているルーナさんの実力を買って、イルム外れの館は僕達に任せてもらえる事になったのだ。
以前ギルドに引き渡したモスマンから得た情報も教えてもらったが、どうやらモスマンの繋がりは調べるのに難航しているらしくあまり有用な情報は得られなかった。
「では頼んだぞ。何かあればギルドを通じて連絡をしてくれ」
「はい」
ギルドを後にして僕達はフェリシアさん達の家に向かい、二人に今回の件を説明し、どうしたいかを聞いてみる。
パーティー組んでるんだから置いて行く気も無いのだけど、意見は聞いとかないとね。
「勿論行きます」
「連れていって下さい」
答えは二人一致で付いてくるだった。直ぐに準備を済ませ、僕達はイルムに向かう。




