第37話 新しいご近所さん
「ただいま」
家に帰った僕達はリビングに顔を出し、僕はフェリシアさんと、アリシアさんを家族に紹介する。
「突然おじゃまして申し訳ありません」
「良いのよ。前にもよくあった事だから、遠慮なく寛いでね」
「お父さんもよく連れてきてたもんね」
「お風呂沸いてるから食事の前に入っちゃいなさい」
僕はフェリシアさん達をお風呂に案内した。
「お風呂なんて何年ぶりかしら……」
目に涙を浮かべて感動する二人。どうやらずっと川や井戸で水浴びしてたらしい……
「母さん、ちょっと相談なんだけど」
「なぁに?」
「フェリシアさん達、今着てる服以外持ってないらしいんだ。貸してあげれる服ないかな?」
「それなら、私の昔着てた服をあげると良いわ。アイリス、私の部屋の棚の一番下に入ってる服を持っていってあげなさい」
「はーい」
アイリスが服を持っていくと「とんでもない、こんな高級品貰えないです」と、断られそうになったが、もうサイズ的に着れなくなった服だからと無理やり押し付けてきたらしい。
一般的に売ってる普通の服なので高級品という訳ではないのだが……
案の定、食事の時も遠慮してきたのだけど、食材は僕がダンジョンで取ってきた物が殆どで、材料費も殆ど掛かってないから遠慮しなくて良いと説明すると、お昼の時同様涙を流しながら食べていた。
寝室は床で充分と言われたが、お客さんを床に寝かせる訳にはいかないので僕のベッドを貸して、僕はエリーさんの部屋で寝た。
この時も「布団で寝るのなんて何年ぶり?」と、涙を流して手を握り合っていた。
大変な生活を送っていたのがよく解る……
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朝になり、今日も僕達は一緒にダンジョン探索をする。
「はい、これお弁当。気をつけて行くのよ」
「「ありがとうございます、ありがとうございます」」
「気にしなくて良いのよ。またいつでもいらっしゃい」
しきりに頭を下げる二人。見送る母さん達が見えなくなるまで、何度も後ろを振り返り頭を下げていた。
「さて、今日は二人の装備を何とかしないといけないですね」
「でも私達、昨日稼いだお金しかないですよ?」
「ふふふっ、我に秘策ありです」
「「秘策?」」
不思議そうにしている二人を連れて、ダンジョンに入り、向かった先は第5階層。
「あ、あの……アステルさん?」
「はい」
「こんな所まで来て大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。僕とティガが居ますから」
辺りをキョロキョロ見回しながら震えている二人に笑顔で返事をして、僕は目的のモンスターを探す。
「居た」
暫く第5階層で適当にモンスターとの戦闘を繰り返し僕が見つけたのは、冒険者から奪ったであろう武器を持ったモンスターだ。
第1階層では滅多にモンスターに殺られてしまう冒険者は居ないのだけど、第5階層辺りには慣れてきた頃に調子にのって降りてきて殺られてしまう冒険者も少なくない。そういった冒険者から奪った武器を装備しているモンスターを倒せばお金を掛けずに装備が手に入るのだ。
「じゃあ、行きますよ」
「「は、はい」」
少し緊張気味の二人。ここまでに遭遇したモンスターは、僕とティガで倒しているので、二人がこの階層のモンスターと戦うのはこれが最初だ。
今回の相手はハイオーク五匹、第1階層のオークより少し大きく、強さはボブゴブリンより少し弱いくらい。5匹の内、3匹は木と石で作った槍、1匹は石の斧と鉄製の盾、1匹は鉄の槍を装備していた。
「ティガ、盾持ち以外の奴を片付けるぞ」
「ガウッ」
「フェリシアさんとアリシアさんは盾持ちの相手をお願いします」
「「はい!」」
僕は先ず、一番厄介な鉄の槍持ちを相手する。武器を壊してはいけないので、受けたり弾いたりはせず、攻撃を躱しながら踏み込み、魔力を纏わせたヴァーリをハイオークの喉元に突き立てた。
倒して直ぐに鉄の槍を収納魔法に入れ残りの盾持ち以外の三匹をティガと一緒に片付ける。
残りは盾持ちだけだ。
「1ヶ所に集まらないで常にどちらかが死角に回って!」
「「はい!」」
僕は少し離れた場所から見守りながら、二人に指示を出す。
「足を止めないで! 攻撃したら直ぐに下がって!」
「「はい!」」
何年も小さな獣相手に狩りをしていた二人の動きは、僕が冒険者になった頃と比べて遥かに良い。
ちょっと危ない時はこっそりスリングショットで攻撃して、ハイオークの気を反らす。
20分程の戦闘の末、二人はハイオークを倒した。
「お疲れ様、良い動きでしたね」
「アステルさんの指示が良かったんですよ」
「いえ、それだけじゃハイオークには勝てないですよ。お二人がちゃんと相手の動きを見て弱いところを突いたから勝てたんです」
誉められて少し照れるフェリシアさんとアリシアさん。僕は収納魔法からさっきの鉄の槍を取り出し、二人の前に置く。
「戦利品です。二人で相談して盾と槍をどちらが持つか決めて下さい」
「槍は使った事ないんだけど、どうしよう? お姉ちゃん」
「うーん、私も使った事ないけど……とりあえず私が先に槍を使ってみるから、アリシアは盾持って」
「うん」
二人ともちょっと重そうにしてるけど、少しずつ鍛えて筋力つければ良いよね?
この日は昼過ぎまで探索して、早めにダンジョンを出た。残念ながらあの後にまともな武具を持ってるモンスターには遭遇しなかったけど、探索したのが第5階層だっただけに、稼ぎは昨日と同じくらいだった。
「さて、装備は一先ず置いといて、お二人の寝床を確保しないとですね」
「大丈夫ですよ。昨日ぐっすり眠れたし、私達は何処でも寝れますから」
「ダメです! 女の子が野宿なんてして、何かあったらどうするんですか?」
「大丈夫ですよ、私達なんて襲う人いないですから」
「何言ってるんですか? いくら治安が良いこの町でも女の子二人で居たらどうなるか解りませんよ? それにお二人は収納魔法も持ってないんですから、お金や装備を盗まれる可能性もあります。宿が高いなら安い家を借りる手もあります」
「うーん、そうよね。この2日で稼いだ大金も持ってるし外は危ないかも……」
大金と言うほどの金額は稼いでないと思うけど……でも二人合わせて一万五千ゼルくらいは持ってるから盗まれたら大変だよね。
とりあえず、ギルドでも紹介してもらえるので、何処か良い借家はないか、聞いてみる事にした。
宿に泊まると、だいたい一泊700ゼル、二人の予算は装備や収納魔法を早めに買い揃える為に1日300ゼル以内に抑えたい。
「ギルドから遠くても構わないのであれば、1日180ゼルで借りられる家がありますよ?」
「本当ですか?」
「はい、結構古くて使い勝手が悪いかも知れないですが、この家なんてどうです?」
ギルド職員さんが地図の1ヶ所を指差して説明してくれた。
あれ? あの場所って……?
とりあえず見に行こうと、ギルド職員さんに案内されて行った場所は━━
「お兄ちゃんお帰り。今日は早かったのね」
庭で洗濯物を干していたアイリスが僕達に声を掛けてきた。
「……ああ、うん……早かったと言うか……」
見に来た家は僕の家の向かいの二軒隣の空き家、もう1年ぐらい前から空いている。
僕達の住んでいる所は、ギルドからも商業地区からも離れていて、あまり人気の無い地区。
まさかご近所さんになろうとは……
「ここが良いです。ここに決めます」
フェリシアさんが勢い良くギルド職員さんに詰め寄る。アリシアさんも同意見の様だ。
「何? ここに住むの?」
「みたいだね」
契約は即成立、いずれお金が貯まったら購入する予定らしい……




