第36話 新人冒険者
装備の修復が終わった翌日、僕達は朝からギルドに向かって歩いている。
今日はエリーさんの強い希望で、エリーさんとルーナさんは43階層の階層ボスもしくは宝物庫を探しに行くそうだ。
エリーさんはここ最近僕達の修行に付き合ってくれていた所為で、あまり体を動かしていなかったのがストレスになっているらしく、倒しがいのある相手との戦闘を欲しているのだ。
それを聞いたルーナさんが42階層の階層ボスがそれなりに手強かったとエリーさんに教えて、それならば43階層の階層ボスも強いだろうという話になり、探しに行く事になったのだ。
熟練パーティーが何チームも壊滅させられた階層ボスが、それなりに手強いとか言えちゃうあたり、僕の目標とする人はとんでもない……
そんな訳で、僕はティガと一緒に10階層辺りで新エリア探索をする事になった。
「修…行」とか言って連れていかれなくて良かった……
「それにしても今日は冷えますね」
「…ん、種の季節に入ったからしょうがない…ね」
「エリーさんはそんな格好で寒くないんですか?」
「我は竜族じゃからのう。お主らとは体の造りが違うのじゃ」
とは言っても見てるこっちが寒くなるエリーさんの格好はどうにかしてほしい……一部の男性からは喜ばれてるみたいだけど……
「ガウッ」
どうやらティガも平気らしい。まあ、自前の毛皮があるから寒くないよね。
ギルドに到着し、扉を開けると、測定室から新人冒険者らしき装備……新人冒険者にしてもあまりに酷い装備を身に付けた、少し明るめのオレンジ色に近い茶色の髪の同じような顔の二人組が、手を繋いで、神妙な面持ちで互いに見つめ合って頷き、ダンジョンに向かって歩いて行くのが見えた。
二人とも、獣の革を重ねて縫い合わせた様な鎧、木を削って作った様な丸い盾、長さ1m位のこん棒を身に着けていた。
ひょっとして自分達で作ったのかな? こんな季節なのに鎧の下は半袖のシャツだけか……
いつもの受付に行き、受付嬢さんに話を聞いてみた。
「さっきの二人組は今日登録の人ですか?」
「そうなのよ、あんな装備で大丈夫かしら? 登録する権利は誰にでもあるから無理に止められないし……」
「僕もこれからダンジョンに入るんで、少し様子を見てみますね」
「本当ですか? すいませんお願いします」
「ルーナさん達は予定通り深層に行って下さい。第1階層なら僕達に危険は無いですから」
「…ん、でも油断しちゃダメだ…よ」
「はい、気を付けます」
「お主は世話好きじゃのう」
「世話好きと言うか……なんか放っておけないんですよね」
僕のこういう所は父さんに似ているのかも知れないな、店長も父さんの話を聞かせてくれる時に「お前の親父は人に世話をやきすぎる」って、言ってたし……
僕達は直ぐにダンジョンに入り、ルーナさんとエリーさんは奈落の谷に向かった。
入り口付近に居ると思ったけど見当たらないな……
「ティガ、さっきの二人組の匂い解るか?」
「ガウッ」
「じゃあ、案内してくれ」
「ガウッ」
僕が気にして見てたのでティガも匂いを覚えていてくれたらしく、ティガに先導してもらって、さっきの二人組を追いかけた。
入り口付近のエリアにはゴブリンや突撃ラット等の比較的弱いモンスターしか居ないけど、二つ先のエリアになると、少し強めのオークや集団で襲ってくるビッグビーといったモンスターが居る。
今日成りたての冒険者にはちょっと厳しいかも……まあ、僕みたいにゴブリンより弱い所からのスタートじゃない限り、第1階層でやられる間抜けは居ないよね……自分で考えてて悲しくなってきた……
色々考えながら走っていると、最初のエリアから2エリア進んだ場所でさっきの二人組を発見。
ティガ、ストップだ。
「ガウッ」
僕は、声を出さずティガを呼び止める。
さっきの二人組がオーク三匹と戦闘中だったのだ。ここで下手にティガの姿を発見されると二人組の気が散って余計に危険になる可能性があるから見付からない様に身を潜めて木陰から戦闘を見守る事にした。
二人のこん棒に対してオークの武器は木の棒に削った石を括り付けた槍。木の盾で槍を受けながらこん棒を振り回して攻撃をしているけど、こん棒の重さに負けて体をもっていかれて、振る速度も遅いから全部避けられている。
防御はまあまあやれてるけど攻撃がなぁ……武器が二人に合ってない……
疲れてきたのか、二人の動きが鈍くなっている。盾も段々傷が増えて今にも割れそうだ。
「ティガはここで待ってて」
「ガウッ」
僕は小声でティガに指示を出して二人の戦って居る前に近づいて行った。
「大丈夫ですか? 手を貸しましょうか?」
僕が声を掛けると一瞬僕の方に目を向けた二人が無言で頷いた。恐らく声が出せないほどギリギリなのだろう。
僕は走って近付き、オーク一匹を蹴り飛ばす、続けて右のオークの槍を奪い左のオークに突き刺し、右のオークの腕を持って死なない様に倒れているオークに叩き付ける。
「これ使って」
僕は収納魔法から、前にモンスターの解体に使っていたダガーを二本取り出して、二人に渡し、逃げようとしていたオークに立ち塞がる様に回り込んだ。
「逃げられないように囲んで! 僕は手を出さないから隙をついて攻撃!」
「「は、はい」」
二人は僕の指示通り、僕を支点に三角形にオークを囲む。
オークは僕を警戒し過ぎて二人から背を向けていたので、左右から二人に攻撃されてあっさり倒された。
「あの、ありがとうございました」
二人は僕に頭を下げて渡したダガーを返そうと突き出してきた。
「返さなくて良いですよ。まだ予備がありますから」
二人に渡したのは僕が冒険者に成りたての頃に買った安物のダガー、僕はアタランテダンジョンの時の切れ味の良いダガーがあるので今は使ってない。
「いえ、助けてもらった上に初めてあった人に謂れのない施しを受ける訳にはいきません」
うーん、結構お堅い人達だな……
「じゃあ、今日のところは貸しときますから、今日は僕と一緒に探索して下さい」
二人は少し考えて、渋々ではあるけど、僕と一緒に探索をする事を了承してくれた。
「ティガ、出て来て良いよ」
「ガウッ」
ティガがやって来ると、二人は恐怖に顔を引きつらせて、その場に座り込んだ。
「怖がらなくて大丈夫ですよ。僕の仲間ですから」
今のティガは大型犬並の大きさで、鬣も生え始め、見た目は狂暴なモンスターにしか見えない。
知らない人が見たらこの反応は普通なのだろう……町の人達が怖がらないから感覚が麻痺してたけど、やっぱり怖いよね? ティガには部屋魔法に入ってもらう事にした。
とりあえず倒したオークの素材を集めて二人に仕舞う様に言うと、腰に巻き付けていた風呂敷を広げ始めた。
「え? ひょっとしてそれで持って帰るんですか?」
「はい」
流石にそれで探索は無理があるだろ……
「収納魔法は覚えなかったんですか?」
「はい……魔法を買える程のお金が無くて……」
って事は当然攻撃魔法も回復魔法も覚えてないよね……それにバックも持ってる様子もないから当然回復薬も無いだろう……よくダンジョンに入る気になったな……
「解りました、僕が運びます。風呂敷は仕舞って下さい」
僕は収納魔法にオークの死体を仕舞うと、モンスターの居ない辺りに移動して、二人と話す事にした。
互いの自己紹介をして、僕が二人より少し年上で青銅ランクだと知ると二人は驚いていた。
「うそっ!? 年上━━」
「━━ですか?」
まあ、童顔とはよく言われるけどそんなに驚かなくても……
話をして解った事は、二人の名前はフェリシアとアリシア。グランセルから南東の小さな村の出身の双子で、小さな村にはよくある話だが、数年前に村がモンスター襲われ両親は他界、その後は木の実や小さな獣を狩って生活をしてきたそうだ。
初回の測定の結果、二人とも鑑定や神聖系等のスキルは持っておらず、他に稼げそうな職業も思い付かなかったので、意を決してダンジョンに挑んだそうだ。
「なるほど、それで装備も手作りで魔法も無かったのか……じゃあ今日はそれなりにお金になるクエスト受けて、採取を中心に探索をしましょう」
僕達は一旦ギルドに戻り、第1階層で集められる素材の採取クエストを受注。ダンジョンに戻る。
二人に食べられるモンスターやダンジョンにしかない食べられる植物等を教えながら、一層の奥に進む。
お昼頃になると、お腹が空いたのかフェリシアさんのお腹が鳴り出した。
「そろそろお昼にしましょうか」
お腹を押さえて赤くなっているフェリシアさんとアリシアさんに声を掛け、見渡しの良い所に移動して食事にすることにした。
丁度オークを狩った所だったので二人の許可を得て、簡単にオークの生姜焼きと、持ってきていた芋や野菜を炒めて食事の準備完了。
食事をしている間はティガを外に出して辺りの警戒をしてもらい、近付こうとするモンスターはティガの胃袋へ。
「お、美味しい……」
「こんな豪華な料理久しぶりだよ……」
二人は一口一口噛み締める様にオークの生姜焼きと芋、野菜炒めを涙を流しながら食べている。
豪華な料理って程の物じゃないよね?……今までどんな生活をしてたんだろう……
夕刻になる前にフェリシアさん達に疲労の色が見え始めたので今日の探索は終了。ギルドに戻った。
クエスト報酬と、素材、食材の売却で、今日の収益は一万ゼルと少し。僕は三千ゼル貰って、残りを二人に渡す。
「え? 良いんですか?」
「今日は二人のお陰で効率よく採取出来ましたから」
「「ありがとうございます」」
「今日は宿に泊まるんですか?」
「いえ、この町は治安も良さそうですし野宿でもしようかと……」
流石に今の季節に野宿は寒いだろ……それに治安が良いとは言っても女の子二人で野宿は危ない。ルーナさん達もたぶん3日ぐらいは戻って来ないし、家に誘うか……
「二人が嫌じゃ無かったらなんですけど家に来ませんか? あ、家族も一緒に住んでますから心配しなくても良いですよ」
あ、余計な事言ったかも……二人が少し赤くなってる……
「ふふっ、そういう心配はしてませんよ、今日1日でアステルさんの人柄はよく解りましたから」
「私は別にそうなっても大丈夫ですよ」
可愛く微笑むフェリシアさん、アリシアさんはいたずらっ子の様に笑って僕にウインクをしている。
「な、な、な、何言ってるんですかっ」
「冗談ですよ。アステルさん可愛いですね」
照れる僕をからかいながら二人は家に来ることを了承してくれて、僕達は家に帰った。




