第33話 アステル試行錯誤する
魔力操作を教え始めて20日、初めは魔力を感じる所から始めて、戦いながら指先に魔力を集中させる訓練。それに慣れたらその魔力を体の特定部位に移動させる訓練、それらに慣れると、少しずつ操作する魔力の量を増やして実戦で使える様にしていく。
サトスさん、ダナンさん、カレンさんは、まだぎこちない成りに大分形になってきた。メインさんは三人より少しだけ、修行の進み具合が遅い。
「私って魔力操作向いてないのかな?」
メインさんは自分が他の三人より遅れている事で自信を無くし弱々しく僕に話し掛けてきた。
「そんな事ないですよ。僕なんて今のメインさんと同じくらい操作出来る様になるまでもう少し時間かかりましたから。それに今は遅れてるかも知れないですけど、次の段階になったら逆転出来ますから」
この魔力操作、戦士系の資質を持った人は自身の体を巡らすのに長けている傾向にあり、僕やメインさんの様な魔法士系の資質が高い人は、物質に流して操作するのに長けている傾向があるとエリーさんが言っていた。
訓練開始から25日になる頃には戦士系の三人はとりあえずの基本的操作を覚えた。
「サトスさん、ダナンさん、カレンさんは第1段階クリアですね。次はこの水を使って操作練習です」
僕は収納魔法から水袋(内容量約2L)を3つ取り出して三人に渡す。
「この水に魔力を通してこうやって手に止めて下さい」
僕が手本を見せると三人は意識を集中させて水に魔力を流し、水袋から水を出して掌に乗せようと試みる。
「ダメだ、殆ど流れ落ちちまう」
「難しいわね」
「水に魔力を流すだけでかなり疲れるな」
予想通り、三人はこの修行で躓いた。水袋の水を操るどころか、コップ一杯分の水を手に止めることも出来ない。
それから遅れる事10日、戦士系の三人が何とか水袋の水を両手で溢さず止めれる様になった頃、メインさんが第2段階の訓練に入った。
「あら、意外に簡単ね」
メインさんがあっさりと左手に水袋から水を取り出して一滴も溢さず止めている。
「ね、言った通りだったでしょ」
「うん、良かったぁ、皆より遅れてるから不安だったのよ」
「じゃあ、その水を手の回りで巡回させたり右手に移したり操作して下さい」
「はーい、アステル先生」
先程までの浮かない顔から一転してとても良い笑顔を見せるメインさん。
「だから先生は止めて下さいって……」
「くそっ! メイン、何でそんなにあっさりと止めれるんだよ。俺達がここまでになるのに10日も掛かったのに」
「まあ、才能の差かな」
悔しそうに話すサトスさんにどや顔で返すメインさん。今日まで結構からかわれてたからお返しのつもりなのかな? サトスさんにもちゃんと説明したよね? 戦士系と魔法士系の資質の違いだって……
ここからの修行の進みは、当然メインさんが早く、第2段階を始めた今日の内に弱めの水弾を飛ばせるまでになった。
皆が魔力操作の修行を始めたのと同じ時期に、僕は教えながら自分の新しい魔法修行に入った。
次に覚えるのは土魔法だ。以前、闘技場での戦闘時に使った土の操作、これをダンジョンの地面でやってみたけど、あの時みたいに上手く操作出来ない……
エリーさんに聞いても良かったのだけど、聞く前にちゃんと自分で何が違うのかを考えるのも大事な事と、散々エリーさんに言われてきたので先ずは自分で考える事にした。
水、闘技場の土、ダンジョンの地面、それぞれの違いを考える。
水より闘技場の土の方が少し操作し辛かった……この時は単に水と土の違いの所為だと思って気にはしてなかったけど、闘技場の土とダンジョンの地面の違いは何だ? 質? ……それも有るだろうけど……たぶん石や草木だな、闘技場の土は、そういった物が取り除かれた土を地面に敷き詰めていた気がする。
ここの地面は少し掘ると小石から人の頭より大きな石まで様々な石が出てくるし、木や草の根があちらこちらに張り巡らされている。
エリーさんが最初に水を進めてくれたのはたぶん均等に魔力を流し易い液体だからだろう。
そして、闘技場の土が割りと操作出来たのは石等が無く粒の大きさがある程度揃っているから……そう考えると、ダンジョンの地面は色んな物が混ざっている分、魔力を均等に通す事が出来ないから上手く操作出来ない。僕の中でそう結論付けられた。
なら石単体に魔力を流すとどうだろう?
単体なら体の回りで動かせたり水弾の様に飛ばしたり出来る。でも水みたいに形状変化は出来ないみたいだ……試しにやってみたら石が砕けた。
それに砕ける程の操作を試みたら異常な程の魔力を消費する……成る程、固い物の形状変化は難しいんだな……ただの石でこれなら金属の形を変化させるなんて絶対無理だよ……
次に右手にダンジョンの土だけを、左手に拳大の石をそれぞれ持って、別々に操作してみる。
左右違う物を操作するのって難しいな……集中を切らすと、どちらも魔力が上手く流れず手から落ちる。
試行錯誤しながら皆の修行を見守りつつ、自分の修行を進め、メインさんが第2段階に入った頃には、ダンジョンの地面でも魔力を上手く流して色んな形状に変化させる事が出来る様になった。
よし、ここまで操作出来たら戦闘でも色んな使い方が出来るぞ。
僕は、手での地面操作を足での操作に切り替え練習を始めた。いちいち手でやってたら隙が出来るもんな……やっぱりいつも地に触れてる足でやった方が無駄なく戦闘に生かせる。
修行開始から45日目には、皆だいぶスムーズに水の操作が出来る様になり、全員が水弾で厚さ20cm程の木板を粉砕出来る様になった。メインさんに関しては、水刃で直径30cm程の生木を切断出来るまでになっていた。
そして、嬉しい誤算と言うべきか……リスクが大きくなったと言うべきか……この修行中にティガ、ユキ、チュン助が魔力操作を使える様になっていた。
意思が伝わる様になる従魔契約の効果がこんなところで発揮されるとは……流石に物質に魔力をながして操ったりは出来ないみたいだけど、攻、防、速、どれもが格段に強くなっている……魔力撃が使えるモンスターってその種族では最強だよな……
三匹とも体も成長して、ティガは大型犬ぐらい、ユキは中型犬ぐらい、チュン助は直径1mの球体みたいになっていた。
ティガはもう僕より強いかも知れない……いや、強いな……
「これでもう僕が教えられる事はないと想うんですけど、どうですか? エリーさん」
「そうじゃな、後は繰り返し練習あるのみじゃ。我の口出すところは無かったのう、よくやったのじゃアステル」
「アステル偉…い」
「ありがとうございます」
「じゃあ、次は実戦だ…ね」
「そうじゃな、折角覚えたのじゃ。使ってみたかろう?」
ルーナさんとエリーさんがリオンさん達を呼んで僕達から少し離れた場所で何やら相談し始めた。
嫌な予感しかしない……
「皆さん覚悟しておいた方が良いですよ」
「何の覚悟だ?」
僕がサトスさん達に忠告すると、皆不思議そうな顔で僕を見ている。
ルーナさんが言い出した実戦訓練……間違いなく命懸けだろう……
話し合いをしている様子を伺っていると、クリュスさんが目を見開いて驚きの表情を見せたり、クレアさんとリイナさんが呆気にとられた表情を見せたり、リオンさんが何やら難しい表情で考え込んだりしている。
話し合いが終わったルーナさん達が僕達の所へ歩いて来る。
「下に行く…よ」
「「「「下?」」」」
うん、予想通りだ……




