第29話 オーガ討伐クエスト 後編
この話は、三人称視点になります。
キリマ村に来て5日、やっと他の冒険者達が集まる日になった。アステルの持たせてくれた弁当とお菓子は、ここに来た次の日には無くなり、ルーナは少し食事に物足りなさを感じていた。
アステルのご飯が食べたい……寝る時はエリーが居てくれるから、ぐっすり寝れるけど、たまにお胸に埋もれて息が出来なくなるのが難点。やっぱりアステルの布団が一番落ち着く……
朝起きて、そんな事を考えながら横に寝ていたエリーの胸をふわふわしているルーナ。
「ルーナ、あまり人の胸を弄くるでない、お主も持っておろうが?」
「…ん、持ってるけ…ど、エリーのはふわふわ感が違…う」
今日までの5日間、何度かオーガの様子を見に行き、村に近付いて来そうなオーガを倒しながら敵陣の様子を調べ、リオンを中心に作戦を練っていた。
リオンとクリュスは話ながら集まった冒険者達の所へ歩いていく。
「結構集まったな、金ランクが50ってとこか」
「白銀ランク以上は私達だけだね」
「そうだな、それでもこの国の半分の数なんだから、これ以上は贅沢ってもんだろ」
「それもそうね、これだけ居れば充分何とかなるしね」
冒険者達がリオンに気が付き騒ぎ始めた。
「おいっ!あれリオンじゃないか?」
「本当だリオンだ」
「漆黒の剣聖が今回の指揮をとるのか、こりゃ楽勝だな」
「よし! 全員こっちを向け! 皆よく来てくれた。俺達は皆より少し早く村に着いて、ある程度の敵の情報を得ている。敵の数は約500、こっちの10倍程だが、まあ、何とかなるだろう。だが、今回はキングだけじゃなく、クイーンも確認されている。この二体は危険だ、俺達で何とかするから、お前達は手を出すな。お前達にやってもらいたいのはオーガとオーガマージの殲滅だ。油断しなけりゃやられる事は無いだろうが、まともに攻撃を喰らえば充分死ねるから気を付けろ、配置やパーティーの組み合わせはこの後、全員の能力を見て決めるから順番に俺の所まで来てくれ、話は以上だ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
リオンのカリスマ性は高く冒険者達はリオンの指示に素直に従った。
振り分けも終わり、オーガの群れがいる場所まで素早く移動するリオン率いる冒険者達
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「よし、全員配置に着いたな、クレア合図を頼む」
「了解、サンダーレイン!」
クレアの魔法を合図にして、オーガとの戦いが始まった。
「エリー、さっさと終わらせ…て、ご飯食べに帰る…よ」
「お主はそればかりじゃのう、食事なら毎日しておろうが……」
「アステルのご飯が食べた…い」
「……やれやれなのじゃ。仕方ないのう、少しばかり本気でやるのじゃ」
「…ん」
戦闘が始まって数十分、冒険者達は次々とオーガの群れを殲滅している。特にルーナとエリーの活躍は凄まじく、他のグループの3倍程は二人で倒していた。
「だいぶ減ってきたな、そろそろキングとクイーンをやっても良いか」
敵の数が100を切った頃、リオンが呟く
「…ん、じゃあ私がキングや…る」
「では我がクイーンを片付けてやるのじゃ」
ルーナとエリーが冒険者の隊から離れ、オーガの群れの隙間を潜ってキングとクイーンの所へ駆けていった。
「おい! 無茶するな! ……まったく、あの二人は……」
リオンの制止は届かず二人はそれぞれの相手の所へ行ってしまった。リオンは理解していた、ルーナとエリーの強さは自分より上だと、それでも一対一でオーガキングやオーガクイーンには勝てないと判断していた。
「道を開け! ルーナとエリーの援護に回る!」
「「「「「「おう!」」」」」」
リオンの指示で冒険者達はオーガの群れの中にリオン達が通れる道を開け始めた。しかしこの直後、リオンは自分がまだ、ルーナとエリーを過小評価していた事を目の当たりにする。
ここまで部下のオーガ達は良いように倒されたが、オーガキングに怯みは無い。雑魚がいくら倒されようと最強の自分が居る限り貧弱な人間など相手にはならない。ここから絶望を味わわせてやろう、と、悠然と構えていた。
ルーナはそんなオーガキングの懐へ一気に踏み込み、大斧を叩きつける。
「…ん、硬…い」
オーガキングの体は硬くルーナの攻撃をもってしても切り裂く事は出来なかった。
しかし、攻撃の手は止まる事なく繰り返される。オーガキングはまだ余裕の表情でルーナに反撃の拳を突き出す。しかしオーガキングが攻撃を出した場所にルーナの姿は無い。
何度手を出してもオーガキングの攻撃は空を切り続ける。が、この時点でもオーガキングはルーナを、チョロチョロ五月蝿い雑魚程度にしか認識していなかった。
ルーナの攻撃は繰り出される度に早さと強さを増してゆく、攻撃を受け続けオーガキングの頑丈な体も少しずつ傷が付き、傷がついた場所に何度もルーナの大斧が叩きつけられ、傷が深くなってゆく。次第にオーガキングの中に恐怖の感情が生まれ始めた。
オーガキングは悟る、己が強者ではなく弱者であった事を、今、自分の足元で目で追えぬ早さで自分を攻撃している小さき者こそ真の強者なのだ。
悟った時にはすでに遅く、もう攻撃を防ぐ事すらかなわなかった。初めて会った自分より強き者、手も足も出ない程の実力差に絶望し、失意の中オーガキングはバラバラに切り裂かれ絶命した。
時間にしてほんの十数秒の出来事だった。
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ルーナがオーガキングと対峙するとほぼ同時にオーガクイーンの前に立つエリー。
「少しは楽しめるのかのう?」
「ウオオォォォーーー!!」
エリーが不敵な笑みを浮かべオーガクイーンに話し掛けると、オーガクイーンが咆哮をあげ、同時に爆発系火魔法をエリーに向けて放った。
「緩いのう、それで終わりか?」
爆風の中まるでダメージを受けた様子もなくゆっくりとオーガクイーンに歩み寄るエリー。オーガクイーンの表情が強張る。
オーガクイーンは次に雷魔法でクレアの豪雷魔法の数倍の威力は有ろう雷をエリーに落とした。
それでもエリーにダメージの色は無い、単発では効かないと悟ったオーガクイーンは、爆炎、轟雷、竜巻、氷結、ありとあらゆる魔法を繰り出す。しかしエリーにダメージを与える事は出来なかった。
「この程度か、つまらぬのじゃ……」
エリーは表情無くオーガクイーンを見つめる。
魔法が効かないと悟るや、オーガクイーンは拳を握りしめ物理攻撃に転じた。
しかしエリーは突き出されたオーガクイーンの拳を竜化させた片手で軽々と受け止め、そのまま捻りオーガクイーンを投げ飛ばした。
投げられ様にオーガクイーンとエリーの目が合う。オーガクイーンはエリーの目を見て悟った。これから自分に死が訪れる事を……
「魔法とはこう使うのじゃ」
エリーがそう言い放った直後、オーガクイーンの口の中に小さな光の粒が飛び込み、次の瞬間、オーガクイーンは全身の穴という穴から業火を吹き出し、己に何が起きたのか解らぬまま、塵と化した。
ルーナとエリーの戦闘を目の当たりにした冒険者達は、あまりの人間離れした戦い方に戦慄した。
残っていたオーガ達も我が王が目の前で惨殺される様を見せ付けられ先程までの好戦的な態度とは一変、急いでその場から離脱を始める。
「呆けてんじゃねぇ! 一体たりとも逃がすな!」
立ち尽くす冒険者達にリオンが指示を飛ばす。
ここで逃がせば近くの村に被害がでる可能性が大きくなる。一体たりとも逃がす訳にはいかないのだ。
戦意を失ったオーガの殲滅は容易で、あっという間に残りのオーガ達を片付ける事が出来た。
戦闘が終わり集まる冒険者達、しかしクエスト達成の喜びより、ルーナとエリーに対する畏怖の念が強く出ていた。
ルーナとエリーもその空気を感じ取り過去の苦い思い出が甦る。その中でリオンだけはこれまでと変わらぬ態度で二人に話し掛ける。
「お前らすげぇな、どんな鍛え方したらそんなに強くなるんだ? 本当に自信無くすぜ」
ルーナとエリーの肩に手を置き笑顔を見せるリオン。
「二人のお陰で1人も死人を出さず殲滅出来た。ありがとな」
リオンの言葉をきっかけに冒険者達が歓喜の声を上げ始める。
「そうだな、あの大群相手に被害0とか信じられねぇよな」
「ははは、お前らの強さにちょっとビビっちまったぜ」
「すげぇぞ、二人とも」
胴上げでもしそうな勢いでルーナとエリーを称える冒険者達。
「ごめんね。ルーナちゃん、エリーちゃん、二人があまりに強いもんだから驚いちゃったよ」
「本当、竜族って強いんだね」
「いや、ルーナちゃんの強さが半端ないっしょ」
不穏な空気も晴れ、ルーナとエリーは、ほっと胸を撫で下ろす。
「…ん、じゃあ早く帰ってご飯にす…る」
「ブレぬな、お主は……」




