第25話 吾輩はティガなのだ
吾輩はティガなのだ。吾輩がご主人の家に来て早……何日だったかな? 忘れたが、とにかく沢山なのだ。
吾輩の朝はまず、ダイニングと言う所で飯を貰う事から始まる。
ご主人と共同の寝屋から出るには、このドアと言うのを開けねばならない、初めの頃は開け方が解らぬのでご主人に開けてもらっていたのだが、最近コツが解ってきたので自分で開けられるのだ。
まずこの隙間に爪を掛け、横に寄せる。
ほら開いたのだ。
次に難関はこのリビングと言う所のドア。コイツはご主人の寝屋のドアとは違いノブと言う物を回さなければ開かない。
ご主人達は簡単に開けるのだが、吾輩には回すことが出来ないのだ。しかし最近はドアを二度叩くとご主人の母上が開けてくれる様になったので、吾輩はドアを叩くのだ。
「ティガちゃんおはよう。今日も早いわね、ご飯食べる?」
「ガウッ」
母上は吾輩がリビングに顔を出すと必ず飯を用意してくれる。ありがたいものだ。
飯を食った後は、ご主人が起きるのを待って、ご主人の狩りに着いていくのが日課なのだが、今日は行かないと昨日の夜に言っていたので、吾輩は散歩に出掛ける事にした。
「ガウッ」
「あらお出掛けするの? 気を付けていってらっしゃい」
吾輩が出口(窓)を叩いて声を掛けると、母上はにこやかに出口を開けて送り出してくれる。
「ニャー(おはようございますボス)」
「ガウッ(おう)」
吾輩が散歩をしていると、猫と呼ばれている獣が挨拶をしてくる。
初めて来た頃には「誰のシマを歩いとんじゃい」等と絡んで来た奴が居たので、軽く撫でてやったら、泣きながら子分にしてくれと頼まれ、仕方なく子分にしてやったら、あちらこちらでボスと呼ばれる様になったのだ。どうやら最初に撫でてやった奴がここいらのボスだったらしいのだ。
今日は少し遠出をしてみるのだ。
吾輩がいつもの散歩道から外れ、新しい地域を歩いていると、やはりこの辺りにも縄張りを持つ猫が居た様で吾輩に絡んできたのだ。
「ニャー? ニャニャー(お前新入りか? ちょっと来いボスに挨拶しろや)」
吾輩はいちいち相手するのも面倒なので無視する事にした。
「ウニャー! ニャニャニャー!(何シカトこいとんのじゃワレ! シバくぞこらっ! 来いっちゅーとんのじゃ!)」
吾輩が通り過ぎようとすると、生意気にもこの猫は吾輩の前に立ち塞がって来たのだ。
ちょっと苛立ったので軽く撫でて(パンチをお見舞いして)おいた。
やはり弱い、撫でた程度で白目を向きおったのだ。
さて、もう少し先も見に行くのだ。
吾輩が暫く歩くと、何処かから人間の泣き声が聞こえて来たのだ。
泣き声のする方に行ってみると━━
「うわぁーん、お兄ちゃん怖いよぉ」
「だ、大丈夫だ兄ちゃんがついてる。あっち行けぇお前なんか怖くないぞ!」
「ガルルルル! ワンワン!」
どうやら人間の子供が犬と呼ばれている獣に襲われている様なのだ。
確かご主人がこういった輩はシメて良いと言ってたのだ。
吾輩は人間の子供と犬の間に割って入った。
「ワン!? ワン!(何だあ!? 猫が何の様だ!)」
「ガウッガウッ(誰が猫なのだ、泣かすぞ)」
「ワウ? ウーワン!(お前がか? 粋がるんじゃねぇよドチビが!)」
「ガウゥ……ガウッ(やれやれ……救えねぇ奴なのだ)」
「ガアァー!(死ねやぁ!)」
吾輩に飛び掛かってきた犬。吾輩は軽く右手で頬を叩いてやった。
この犬と言う奴も弱い。たったこれだけで一回転して白目を向きおったのだ。もう少し手応えのある奴は居ないのか?
「うわぁーん、猫ちゃんありがとー」
人の子のメスが泣きながら吾輩に抱き付いて来た。ちょっと鬱陶しいのだ。
「お前猫なのに強いな」
「ガウッガウゥ(猫じゃないのだ。肉球パンチお見舞いするぞ)」
「そうだ助けてくれたお礼に良い物あげるよ」
人の子のオスが、ポケットと言う所から丸い物体を出して吾輩に差し出してきた。
何だ? これは
「ほら、美味しいよ。食べ物だよ、た・べ・も・の」
何か言いながら口を指差しているのだ、食べろと言うことなのか? 仕方ない、くれると言うなら貰ってやるのだ。
何だこれは!? 甘い、食えたものじゃ無いのだ! ペッぺッ!
「お兄ちゃん、猫は飴は食べないんだよ。お魚の方が良いんじゃないの?」
「魚なんか持ってないよ」
「そうだ。お母さんに言ってみようよ」
「ガウゥガウッ(もう良いから離せ吾輩は帰るのだ)」
くそぅ、ご主人の言い付けが無かったら無理やりにでも振りほどくのに……犬より弱いこ奴等を叩こうもんなら後でこっ酷い目に怒られるのだ。
吾輩は無理やり振りほどく事も出来ず、人の子に何処かへ連れて行かれた。
「お母さん、お魚無い?」
どうやらここは肉屋と言う所なのだ。こ奴等の家なのか?
「魚は買ってないねぇ、肉なら売るほどあるんだけどね、どしたんだい? 急に」
「あのね、さっき野良犬にやられそうになってたのをこの子が助けてくれたの」
「猫が犬からかい?」
「本当だよ、こいつ滅茶苦茶強いんだ」
「お前お肉食べれる?」
「ガウッ(いいから離せ)」
「食べれるって言ってるみたい」
「あはは、そうかい子供達の恩人なら良いのあげないとね。じゃあ、骨付きのあげるよ」
こ奴等の母親らしき人物が吾輩の前に肉の乗った皿を差し出してきた。
何なのだ? くれるのか?
やっと人の子のメスが吾輩を離し、母親が吾輩の目の前に肉の乗った皿を置いた。
やはりくれるのだな、ならば有り難く頂くのだ。
うむ、中々の良い肉なのだ。なるほど助けてやった礼がしたかったのだな、良い心掛けなのだ。
「ガウッガウッ(満足したのだ、さらばなのだ)」
「あっ、待ってよ猫ちゃん」
「あーあ、行っちゃった」
「猫は散歩コース決まってるからきっとまた会えるわよ」
さて、腹も満たされたし、そろそろ帰るのだ。
「ゥニャー!(見つけたぞ!)」
「ニャー!(皆ここだ!)」
吾輩が家に向かっていると数十匹の猫が吾輩を取り囲んだ。
「ガウッ(邪魔なのだ)」
「ニャー(ボスコイツです)」
「ガウッガウゥ(またお前か、何の様なのだ)」
「ニャーゥニャーニャニャニャー(お前が新入りかこのシマで調子に乗ってるとどうなるのか教えてやる)」
「ガウッ? ガウゥガウッ(何言ってるのだ? 帰って糞して寝ろなのだ)」
「ゥニャー!(やれー!)」
愚かにも猫の群が一斉に吾輩に飛び掛かってきたのだ。
しかし、雑魚が何十匹集まろうと吾輩の敵ではないのだ。全員軽く撫でてやったのだ。
「ニャ!? ニャニャー!(そんな!? バカなー!)」
「ガウ? ガウゥ?(で? お前もやるのだ?)」
「ゥニャッ、ニャニャニャー(お見逸れしました、俺達を子分にして下さい)」
「ガウッ(勝手にしろなのだ)」
平伏するボス猫の横を通り過ぎて、吾輩はご主人の待つ家に帰った。
「ガウッ」
「お帰りなさいティガちゃん」
吾輩が入り口を叩くと、母上が笑顔で迎えてくれた。
「ティガ今日は何処に行ってたんだ?」
「ガウッ」
「そうか、いつもと違うコース回ってたんだな」
「ガウッガウゥ」
「え? そうだな、もう少し大きくなったら一緒に戦おうな」
「ガウゥガウッ」
「まだ早いって」
「ガウッガウッ」
「解ったよ。ちょっとだけだぞ」
「ガウッ」




