第22話 アタランテバザー
ダンジョンから戻った翌日、アタランテの町は朝から賑わいを見せていた。
今日から、この町にやって来たもう1つの目的の、アタランテバザーが開催されているのだ。
アタランテバザーはこの町で100年以上前から続いている祭りで、ダンジョン発現前は近隣の村や町との交流の為の小さな青空市だった祭りも、都市化してからは多くの出展者が集まり、中央通りには露店が立ち並び、催しも増え、大商業祭になったのだ。
「今日は活気が凄いですね」
「…ん、私も初めて見たから驚いて…る。あっ、アステルあれも美味しそ…う」
僕達は朝から祭りを見て回っていて、見たことの無い出店の食べ物にルーナさんの食欲は止まる事を知らない。
ルーナさん楽しそうだな、気に入った食べ物は味を覚えて後日再現してあげよう。
そんな事を考えながら歩いていると、進む先に見覚えのある人物が……
その腕には、木に絡まる蔦の様にしがみついている女の子が居る。あれは、あの人の妹だったと記憶しているんだけど……
「こんにちは、リオンさん、カレンさん」
「おお、アステル達も来てたのか、どうだ? 祭りは」
「はい、活気の凄さに驚いてます」
「年に一度の祭りだからな。せっかく会ったんだちょっとその辺でお茶でも飲まないか」
「良いですね」
僕達はリオンさんに連れられ、近くのオープンテラスカフェで休む事にした。
「今日は他の皆さんは一緒じゃないんですか?」
「この後合流する事になってる」
「プライベートでも仲が良いんですね」
「命を共にする仲間だからな。お前達もそうだろ?」
「ですね。もう家族みたいなものです」
「家族かそれは良いな、で? 俺達とダンジョン探索した感想はどうだった?」
「はい、とても勉強になりました、特に宝物庫の戦いは凄かったです」
「それは良かった、クリュス達もそれを聞いたら喜ぶだろう」
「中でも特に凄かったのはクリュスさんですね。あの戦いっぷりは、まさしく以前戦ったオーガそのものの迫力でしたよ」
あれ? リオンさんとカレンさんが目を丸くして驚いてる? まあ、僕のランクでオーガと戦ったなんて聞いたら驚くよね。
おや? 二人の視線が僕を見てない? 僕の上? いや後ろ?
「アスくーん、誰がオーガなのかなぁ?」
はっ!
とても聞き覚えのある声が聞こえる……でも昨日よりちょっと低い様な……僕がゆっくり後ろに振り向くと、そこにはとても良い笑顔で僕を見つめるクリュスさんの姿が……
「こ、こんにちは……クリュスさ……ん……」
「ちょっとあっちまで良いかな?」
僕の肩に腕を回して微笑んでいるクリュスさん、その笑顔がとても恐ろしく感じて、そっと抜け出そうとしたけどクリュスさんの腕はピクリとも動かない。
「じゃあ、行こっか?」
「え? いや……あの……」
誰か助けて……あれ? 皆の目線が遠くに向かって……ルーナさんまで?
「あああぁぁぁーーーー!!」
僕は路地裏に連れて行かれ、酷い目にあった。
「さて、皆集まったし一緒に見て回るか?」
さっきの事は無かったかの様に仕切り始めるリオンさん。僕達はリオンさん達の案内で最大限に祭りを楽しんだ。
「これでだいたい見たな、他に行ってみたい所はあるか?」
「あの、裏バザーって言うのに行ってみたいです」
「裏バザーか、よく知ってたな」
「はい、以前父から聞いて気になってたんです」
「なら旧市街だな」
裏バザー、旧市街でやっている昔ながらの青空市、昔から住んでいる人はこちらを好んでいる様だ。
僕達はリオンさんに連れられ旧市街にやって来た。こちらは人も少なく静な雰囲気ながらも皆とても楽しそうだ。僕はこっちの方が好きかも……
「こっちは人も少ないし、はぐれる心配は無いから一旦バラけて自由に見るか」
「はい」
僕達は別々に行動し好きな店を見て回る。
ルーナさんと二人で暫く歩いていると、通りから少し入った路地に不思議な雰囲気の出店を発見した。
「こんにちは、少し見せてもらっても良いですか?」
「ああ、好きに見てくれ」
この出店に置いてあるのは石、何かの端材、陶器、動物? まるで統一性がないな。
「この見切り品って?」
僕が見切り品と書かれている鉄の檻を覗き込むと、中には目付きの鋭いかなり痩せた子ネコ? が居て、怯えた様に震えていた。
「それはここに来る途中に拾ったんだけど、可愛くもないし薄汚れてるから、見切り品って書いとくと誰かお得に思って買ってくれるかと思ってな」
確かに見切り品って見ると安く感じるよね……でもお客さんにそれ言ったらダメだよね?
「売れなかったらどうなるんですか?」
「飼うのも面倒だし食べるかな?」
食べる? この子こんなに小さいのにここで人生終わり? それは可哀想だよね……
「この子いくら?」
「そうだな、1000ゼルでどうだ?」
いやいや、拾ってきた動物で売れそうもないのに1000は、ぼったくり過ぎだろ……
「もう少し安くなりません?」
「じゃあ800でどうだ?」
「もう一声」
「なら500だ」
えらい簡単に半値になったな……
「じゃあ買います」
「毎度あり! 兄ちゃん良い買い物したねぇ」
良い買い物と言いますか……得したのはあなただけだよね?
僕が檻から子ネコを取り出し抱き上げると、子ネコは鋭い目付きで僕を見て、弱々しく震えていた。
「かなり痩せてるけど何日ご飯あげてないの?」
「拾った日からだから7日くらいかねぇ」
「7日!?」
僕は驚いて商人の顔を見たけど、商人はそれがなにか? と言いたそうな顔をしていた。
色々言いたい事はあったけど、言い争っている場合ではないと判断してその場を離れる。
「リオンさん、僕達は一旦宿に戻ります。最初にお茶したカフェで待ち合わせましょう」
僕達はリオンさんに一言声をかけ、急いで宿に戻り子ネコをベッドに寝かせた。
「ルーナさん、ちょっと見ててもらえますか?」
「…ん」
僕は宿の厨房を借りて、消化に良い柔らか目の食事を作り、部屋に戻り子ネコにご飯を食べさせようとした。だけど口を開けてくれない。
僕は子ネコの目の前で料理を一口食べて見せたり、口の周りに汁を塗ったりして食事を促す。
すると子ネコは少しずつ口の周りに着いた汁を舐め、安全な食べ物だと理解したのか料理を食べ始めた。
ある程度食べさせた後、一気に食べさせるのも体に負担がかかるので、一旦お風呂に入れる事にした。
ぬるま湯を用意しゆっくりと撫でる様に洗ってやると、初めは嫌がって引っ掛いてきたけど、途中から気持ち良くなったのか、諦めたのか、抵抗するのを止めた。
よごれが落ちると、それまで灰色掛かっていた毛色が、淡い黄色の綺麗な毛色に変わった。
どんだけ洗ってなかったのか……まったくあの商人は……
しっかり拭いてやり、タオルでくるんで抱いていると、落ち着いたのか子ネコは眠りに落ちた。
「やっと落ち着いたみたいですね。この子ネコどこから連れて来られたんでしょうね」
「アステル、この子はネコじゃない…よ」
「え? ネコじゃないんですか? 僕には子ネコにしか見えないんですけど?」
「この子は、ライオネルの幼体だ…よ」
「ライオネルって、あのライオネルですか?」
「…ん」
ライオネル。獅子王の異名を持つ体長2~3m程の大きさのモンスター。草原の覇者とも呼ばれ鋭い爪は岩をも裂き、強靭な顎は鉄をも砕き、最大の特徴はその早さ、音を置き去りにするほどと言われているその瞬発力は敵対する者にその姿も捉えさせない。
「ちょっと不味いですよね?」
「不味…い?」
「ライオネルって特定危険生物に認定されてるモンスターですからペットとしては飼えないですよね?」
「…ん」
「逃がすのもダメ出し……殺処分も可哀想だし……どうしよう?」
「アステルの従魔にするの…は?」
「従魔士じゃない僕でも出来ますか?」
「たぶん出来ると思うけ…ど、私もやった事無いから解らな…い」
少し悩んだ末、ここで考えていても埒が明かないので、リオンさんに聞いてみようという事になり、待ち合わせているカフェに向かう事にした。
カフェに着くと、もうリオンさん達は到着していて、ライオネルを見せて従魔契約について聞いてみた。
「結果から言うと、その子は幼体だからアステルでも契約は可能だ。でもあまりお勧めはしないな」
「どうしてですか?」
「今は弱いから簡単に契約は出来るが、問題は成体になってからだ。アステルは従魔士のスキルを持っている訳じゃないだろ?」
「はい、持ってません」
「相手はモンスターだ、契約をしても余程強い絆で結ばれるか、実力が同等以上でなければ、一方的に契約を破棄されて襲われる可能性がある。その子が成体になるまで恐らく一年ぐらいだ。それまでにアステルがクレアやリイナと同じくらいの強さになるのは無理だろ?」
「うっ……確かにそこまでは無理だと思います」
「ライオネルってのはそれくらい強い、アステルじゃなくてルーナがやるってのはダメなのか?」
「リオン、ルーナちゃんがライオネルを従魔にしても何も得がないでしょ?」
「まあ、それはそうなんだが」
確かにルーナさんがこの子を従魔にしても得はない。強さに見合わないからだ。それを僕の我儘で契約してもらっては申し訳なさすぎる。
「私は良い…よ」
「いえ、それはダメです。僕の我儘なんだから僕が責任持ちます。大丈夫です、僕は動物には好かれますから問題ありません」
「…ん、じゃあ、もしもの時…は、私がアステルを守ってあげる…ね」
「そうか、覚悟を決めているなら俺達が口出す事はないな、早速ギルドで契約の儀式をやってもらうか」
「はい!」
リオンさんは立ち上がって僕達を見て微笑んでいた。
━━僕達は直ぐにギルドに向かい、契約の為、特別室に案内された。
従魔契約は特殊な魔方陣を使って行われる。僕達はその魔方式を知らないのでギルドの契約魔法士に手伝ってもらい、契約を行う事になる。
強制的に契約を進める事も出来たのだが、ライオネルの意思を尊重したかったので、僕の希望でライオネルが起きるのを待って契約式が開始された。
僕とライオネルが魔法陣に入り、魔法士さんが陣を起動させた。
「君がこの契約を望まないなら、僕は命を掛けてでも君を逃がしてあげる。共に生きてくれるなら僕に力を貸してくれないか?」
僕はライオネルに自分の思いを伝えた、契約魔法陣の中では言葉は通じなくても想いは通じる仕組みになっている。まだ小さいこの子にも僕の想いは伝わった様だ。
ライオネルは暫く目を瞑り、目を開けると僕の目を見て「ガウッ!」と、一声鳴いた。
僕にはその一声が宜しくと言っている様に聞こえた。
直後、魔方陣が激しい光を放ち僕達を包み込む。
「契約完了です」
魔法士さんの声を聞いて僕達は互いに見つめ合い━━
「名前を決めなきゃだね……よし! 君の名前は今日からティガだ。宜しくティガ」
「ガウッ!」
ティガは一声鳴くと僕の肩によじ登り、肩に座り頬擦りをしてきた。




