第20話 噂の真相
アタランテダンジョンに入って驚いた。ここは水の中ではない、なのに何故か目の前を魚が飛んで……いや、泳いでる。
まるで海か川の中にいるかの様だ。生えている植物も珊瑚や海藻に似ているし、陸の上の海と言った感じだ。
今日の目的は僕とカレンさんの戦闘訓練を兼ねた、第一層の新エリア探索、頑張るぞ。
「何ぼーっとしてんのよ。ここはグランセルの一層みたいにぬるくないんだから、油断してると死ぬわよ。これだから駆け出しの鉄ランクは……」
ダンジョンの景色に見とれていると、威圧するような低い声でカレンさんが話しかけてきた。
何でこんなにキツく当たられるのかは解らないけど、鉄ランクは君だよね?
「あの、僕は鉄ランクじゃなくて青銅ランクなんですけど、言ってませんでしたっけ?」
「ウソ……この前調べた時は間違いなく……」
「つい先日上がったところなんですけどね」
僕が言うと、カレンさんは悔しそうにして足早に僕から離れていった。
うーん訳が解らない……調べた? 何で俺なんかを? 不思議な事もあるもんだ。
先ずはマッピングされている最端まで走って移動。道中遭遇したモンスターはリオンさん達が軽々と倒し、止まること無く進んでいる。
ルーナさんもそうだけど、高ランクの人達は低層階のモンスターをほとんど居ないもの扱いしている。
僕がこのクラスのモンスターを倒すのにどれ程の労力がいるか……
そんな事を考えている内に新エリアに到着した様だ。ここからはリオンさん達はマッピング作業に入り、僕とカレンさんを先頭に、クレアさんとリイナさんがいざと言う時の為にサポートについてくれる。
「足引っ張るんじゃないわよ」
「解ってます、慎重に進みましょう」
相変わらず僕だけにキツいカレンさん、僕は色々思うところはあるけど、気にしない事に決めた。
この階層に生息しているモンスターはここまで見た限り、海洋生物に近い形をしている。実際に海に居るモンスターもこんな感じなのだろう。
暫く進むと、全身鱗に被われ、魚の様な顔をした、半魚人とも言うべき人形のモンスターが三体現れた、マリンバと言うらしい。
マリンバ、手には三ツ又の槍を持ち、硬い鱗に被われた肉食系海洋モンスター、背にはヒレが、手や足には水掻きが付いており、泳ぎが得意、ンバンバと鳴き声を上げる事から海のンバ→マリンバとなったらしい……安易だな……
「おおっ!? こいつも空中を泳ぐのか?」
あまりに異様な光景に思わず声に出して驚いてしまった。
僕が驚いている間に、カレンさんはマリンバに突進、槍を大剣で受け流し腕一本を切り落とす。
凄いな、鉄ランクとは思えないぐらい動きにキレがある。僕も負けてられない。
僕はカレンさんの動きを見ながら邪魔にならないよう位置取り、水魔法ウォータースラッシュで牽制し、一体の首を落とす。
続けてカレンさんが相手していた、二体の内一体の背中からヴァーリを突き立て、動きが止まったところをカレンさんが止めをさす、残りの一体はカレンさんが最初に腕を切り落としていた奴なのでカレンさんがサックリ倒した。
「カレンさん強いですね、驚きましたよ」
「ふ、ふんっ! 当然よ。あんたも足手まといにならなかった事は誉めてあげるわ」
相変わらず言い方はキツいけど、誉められるのは嫌いでは無さそうだ。よし、この調子で打ち解けていこう。
ダンジョンに入り四時間ほどが経ち、お腹も空いてきたと言う事で食事休憩に入る事になった。
僕はさっき倒したマリンバを簡単に調理して、ルーナさんに渡す。
「なになに? アステル君ダンジョンでそんな凝った料理作ってるの?」
クレアさんが僕の料理を見て目を丸くしている。僕的には簡単に調理したつもりだったんだけど、リオンさん達には驚きの光景みたいだ。
「皆さんも良かったらどうぞ」
僕が勧めると、皆我先にとマリンバ料理を手に取っていく。
「おおっ! うめぇっ!」
「美味しい、お店の料理みたい」
「ルーナ、お前いつもこんな旨い飯食ってんのか?」
「…ん」
「良かったら食後のデザートもありますんで」
僕は収納魔法からおやつ用に持ってきていたお菓子を取り出す。デザートと聞いて女性陣が飛び付き、置いたお菓子はあっという間に無くなった。
全部出さなくて良かった……あれ? カレンさんはお菓子は嫌いなのかな? それとも出遅れた?
「カレンさん良かったらどうぞ」
僕は3つほどお菓子を取り出し、カレンさんに差し出す。
「も、貰っといてあげるわ」
カレンさんは少し照れ臭そうに受け取ってくれた。やっぱり出遅れただけだったんだな、勧めて良かった。
食事が終わると、直ぐにカレンさんはリオンさんを連れて少し離れた場所に行き、剣の稽古を始める。
うーん、ここまで見てる限り、リオンさんって噂みたいな人には見えないんだよなぁ。爽やかだし面倒見も良いし、何なんだろ? あの変な2つ名は……
「アス君カレンが気になるの?」
僕がリオンさんを見ていると、クリュスさんが声を掛けてきた。
「いえ、別にそう言う訳では……」
「カレンがアス君に突っ掛かるのはね。ライバル視してるからなんだよ。君って一部の新人から注目されてるからね」
「注目!? 僕が? 何でですか?」
「そりゃぁそうっしょ。冒険者になって直ぐ新食材発見したり鉄ランクなのに闘技場で銀ランクの冒険者倒したりしてんだから」
リイナさんも話に混ざってきた。
「特にカレンはアス君とほぼ同じ時期に冒険者になったから余計に気にしてるんだよ」
「そうだったんですね。何か悪いことしたのかなって心配してたんですよ、良かったです」
「あの子基本的には良い子だから直ぐに打ち解けられるよ」
「あ、あの……皆さんはリオンさんとは付き合いは長いんでしょうか?」
「そうだね。私は長いよ幼なじみだから、何かあるの?」
リオンさんとクリュスさんが幼なじみ? その組み合わせは注目の的だろうな……いやいやそんな事はどうでも良いんだ。
僕はずっと気になってる事を聞いてみる事にした。
「あのですね……凄く聞き辛いんですけど……リオンさんの噂と言うかぁ……変な2つ名と言うかぁ……青の種ぇと━━━」
「「ぷっあはははは!」」
僕が言い辛そうにしていると、顔を見合わせたクリュスさんとリイナさんが笑い始めた。
「なんだ、カレンが気になってると思ったらそっちかぁ、あはははは」
「そうだねぇ、ルーナちゃん可愛いもんねぇ」
「いやっ、あの……」
「あれ付けた張本人は其所に居るカレンだよ。リオンがあんまりモテるもんだから焼きもち焼いてね。嫉妬してる男どもに流したらあっという間に広まったの、あはははは」
何ぃ!? とんでもない爆弾娘だな……兄の名声下げてどうすんだ?
「まあ、リオンもあまり声掛けられなくなって良かったって言ってたし結果オーライっしょ」
楽しそうに笑っているクリュスさん達を、離れた場所でリオンさん達が不思議そうに見ている。クレアさんも僕達の所にやって来て、恥ずかしくて耐えられなかった僕は、三人から離れて、ルーナさんの隣に座った。




