第17話 強襲オーガの恐怖
キリマ村に到着した僕達は、一泊ゆっくりと体を休め、今日は朝からホルメル山に来ている。
今のところあまり強いモンスターは現れてないけど、油断は出来ないので陣形を崩さず、慎重に目的のピンクペッパーがある三合目を目指していた。
ここに来るまでの戦闘で、この中では僕が一番戦闘力、戦闘経験が高いと言うことで、先頭は僕が、魔法主体のメインさんが僕の直ぐ後ろに、サトスさんとダナンさんがメインさんの後ろに、僕を支点に三角形を作る様に位置し左右と後方の警戒に当たっている。
「アステル、そろそろ休憩しないか?」
二合目に差し掛かる手前辺りで、サトスさんが休憩を提案してきた。
「そうですね、じゃああの岩場辺りで今日は休みますか」
警戒をしながらの進行は精神を削る。今のところ強いモンスターには出会っていないけど、強いモンスターも生息している山なので精神の疲弊はかなりのものだ。
僕達はキャンプを張り食事を済ませ、サトスさん達は武器の手入れをしている。
「アステル、武器はちゃんと手入れしとかないと、いざと言う時使い物にならなくなるぞ」
「僕の風切りは大丈夫なんです。実を言うとこの鞘、修復の鞘って言うマジックアイテムでして、挿しておくだけで武器を修復してくれるんです」
「きったねぇな、一人だけ楽しやがって」
「どのくらいまで直せるんだ?」
「ちょっとした欠けや切れ味の低下程度です、折れたり砕けたりしたら流石に戻りません」
「微妙なアイテムね」
「そうですね。でも風切りと一緒に父さんがくれた形見なんで、僕にとっては何物にも変えられない大事な物です」
「そう、それは大切にしないとね…」
ちょっと気まずい空気になってしまったので、ムードメーカーサトスさんが話題を変えて明るい空気に戻してくれ、交代で警戒をしながら朝まで休み、僕達は進行を再開させた。
暫く進むと僕はある違和感を覚えた。
「皆さん、様子がおかしいです」
「何がだ?」
「さっきから静か過ぎませんか? モンスターの気配どころか虫や鳥の鳴き声もしません」
「そう言えばそうね」
「ああ、妙な感じだな」
違和感を感じた僕達は警戒を高めこれ迄より更に慎重に進む事にし、この直後、僕の感じた違和感は最悪な形で迎える事になった。
三合目に差し掛かろうという頃、岩場を越えピンクペッパーが生えている地域にたどり着くと、そこには、何かとてつもなく強い力で口から上下に引き裂かれたホーンスネークの死骸が転がっていた。
「な、何だこりゃ」
「ホーンスネークがこんな殺され方……普通じゃないわ」
メインさんの言う通りこの死に方は異常だ、ホーンスネークの噛む力は凡そ1t。並大抵の者にこんな真似出来ない……という事は、この辺りにはそれが出来る化け物が居ると言う事なんだ。
「どうします? 一旦引き返して出直しますか?」
サトスさん達は深刻な顔で少し考えると━━
「とりあえずこのホーンスネークは回収して戻るか」
クエスト素材であるホーンスネークを放っておく手はない。でもこの死体の新しさから言ってコイツを倒した奴もまだ近くに居るはず……
サトスさんが足早にホーンスネークに近付き収納魔法でホーンスネークを回収しようとしたその時━━
「危ないサトスさん!」
━━大きな影がサトスさんの上に現れ、僕は咄嗟にサトスさんに飛び付き前方に転がる。
直後、さっきまでサトスさんが居た場所の地面が弾け、その場には僕達の倍以上はある巨大なモンスターが立っていた。
「お、オーガ……」
「何でこんな奴がここに……」
ダナンさんとメインさんが、オーガを目の当たりにして恐怖に震え、動きが止まる。
オーガ。体長5mほどの巨人族モンスター。オーガ、オーガマージ、オーガクイーン、オーガキング等の種類に分類され強靭な肉体を持ち、個体によっては強力な魔法を使う者も居る。
このオーガは魔法こそ使わないタイプだが、強さで言えばゴブリンジェネラルとトロールの中間位。グランセルダンジョンで言えば25階層クラスに位置される。本来この辺りには居ないはずのモンスターだ。
「グオオォォーーー!!」
オーガの咆哮でダナンさんとメインさんは恐怖心に負け、腰を抜かしその場に座り込んだ。
「皆! 怖がってたらダメだ!」
オーガは岩を削り出して作った様な大きな鈍器を振り上げ、メインさんを睨んでいる。
不味い! このままじゃメインさんが……
「クソオーガ! こっちを向けぇーー!」
僕は風切りを抜き、足に魔力を集中させオーガの足元に踏み込み、足首辺りを切りつけた。
しかし、オーガの皮膚は固く風切りの刃は全く通らない。
直ぐにその場から移動して、僕はオーガの目の前に立った、そしてオーガの顎に向けて水弾を飛ばす。
水弾は顎に命中したけど全く効いている様子はない、だけどオーガが僕に意識を向けたぞ!
「皆! しっかりするんだ! このままじゃ全滅だよ!」
僕は皆に声を掛けながらオーガの気を引き続ける。
早さは僕の方が僅かに勝ってる……でも全然攻撃が効かない……どうすれば……?
オーガが僕を睨み鈍器を大きく振り上げた。
直後
「痺雷魔法!」
激しい光と共に雷がオーガの体に伝い、一瞬オーガの動きが止まり、僕はオーガの攻撃圏内から離れた。
「ごめんアステル、待たせたわね」
魔法を放ったのはメインさんだった。
「良かった、正気に戻ったんですね」
「うん、もう大丈夫だから」
大丈夫とは言うものの、まだメインさんの震えは止まっていない、気力を振り絞って立ったんだ。
「お、俺達もやれるぜ」
「すまん、世話を掛けた」
サトスさんとダナンさんも、震える体を無理やり奮い立たせ武器を構えている。
「でもどうするよ、さっきから見てたけど全く攻撃が効きそうにねぇじゃねぇか……」
「僕に考えがあります。サトスさん、ダナンさん、数秒だけ時間を稼いでもらえませんか? メインさん僕が合図したらさっきの魔法もう一度お願いします」
「数秒で良いんだな……解った」
「ああ、任せろ」
今の僕達のレベルでオーガ相手の数秒はキツい、一瞬の隙が死を招く。サトスさん達もそれはよく解っている。任せろとは言ってくれたけど決死の覚悟が必要だ。
サトスさん達はオーガの周りを火魔法で牽制しながら、時折接近して切りつける、どの攻撃もオーガには触った程も効いてないみたいだ。
でも気を引くには充分、僕は魔力を練り上げ先日作り出したと同じ樽一杯分の水を作り出し圧縮する。
もう少し小さくせめて拳くらいにはしないと……
この圧縮作業は、かなり繊細な魔力操作をしなければ成功しない。樽一杯分を拳大にするには相当の集中力を必要とする。
「くっ! ま、まだかアステル」
オーガの攻撃をギリギリ躱しながらサトスさんとダナンさんの気力も限界が近付いていた。
落ち着け、焦って失敗したら折角のサトスさんとダナンさんの稼いでくれた時間が無駄になる。僕は心を静め深く深く集中した。
「メインさん!」
「ショックボルト!」
僕の合図でメインさんが雷魔法を放ち、オーガに命中しオーガの動きが一瞬止まる。
「いっけぇーー! ウォーターボム!」
僕は圧縮した水魔法をオーガの口から体内に放り込んだ。
水の圧縮を解除しオーガの腹の中で一気に膨れ上がり、水の圧力でオーガの内臓が圧迫され、オーガの口や鼻から大量の水と、それに混ざって血が吹き上がりオーガが膝をついた。
「や、やったぜ!うおーー!」
「まだです!」
オーガを倒したと思い込みサトスさんの気が緩んだ。そこを見逃さなかったオーガが、サトスさんを睨み歯を食いしばって鈍器を振り上げた。
「間に合えー!」
僕はオーガとサトスさんの間に割り込み、体の前方に魔力を集め、盾を構え、それに風切りを重ねてオーガの鈍器を受け止めた。
一瞬の拮抗の後、風切りと盾は砕け散り、僕とサトスさんが大きく後方に飛ばされる。
「ぐぁっ!」
衝撃を魔力で相殺させたものの、オーガの攻撃は強烈で、僕は左腕と肋骨を数本骨折。サトスさんは僕がクッションになって何とか致命傷は避けられた様だ。
「す、すまねぇアステル」
「問題ないです……それよりあの攻撃で倒せなかったのはキツいですね。もう手がありません……」
さっきのウォーターボムは僕の切り札だった。今使える魔法で最大級の攻撃だ……でも今の状態ではもう一度は使えない。
僕達の所にメインさんが駆けつけ回復魔法を掛けてくれ、ダナンさんは僕達にオーガの意識が向かない様に一人でオーガの気を引いてくれている。
あと一撃何か無いのか……
「そうだサトスさん、ルーナさんから貰った魔法剣、あれなら効くんじゃ?」
僕の提案にサトスさんは表情を曇らせた。
「すまねぇ……あの時はカッコつけて言ったんだけどよ。実は俺には使えねぇんだ。何度か試したんだけどよ……全然反応しなかった」
そう言ってサトスさんは魔法剣を取り出した。
「反応しない? そんな事あるんですか?」
「ああ、あの時の鑑定士に調べてもらったら魔力が足りないんじゃないかって……でもお前なら使えるかもな。アステル、頼む」
サトスさんは悔しそうに下を向き、僕に剣を差し出した。
「やってみます」
僕はサトスさんから魔法剣を受け取り鞘から抜いた。
「そいつの名前は神剣ヴァーリだ!」
「はい! ……神剣ヴァーリ! 僕に力を貸してくれ!」
僕は魔法を使う時と同じ様に魔力を練り上げ、強く意識を込めてヴァーリに流し込んだ。
すると神剣ヴァーリが神々しい光を放ち僕の全身に力が沸き上がり、魔力を送る程それに呼応するように僕に力が溢れる。
「これなら……ダナンさん離れて!」
ダナンさんがオーガから距離を取り 一拍
僕は素早くオーガの足元に踏み込むと、右手に握った神剣ヴァーリを一気に振り上げた。
手には何の感触も伝わらず閃光が走り抜ける。
もしかして空振った?
そう思った直後オーガの体がズレ、斜めに崩れ落ちた、オーガの目から光が消え、今度こそ死んだみたいだ。
この一振りで僕の全身から力が抜け体が動かなくなり、その場に倒れた。
「「アステル!」」
「大丈夫!? アステル」
サトスさん達が心配そうに僕の所に走って集まってくる。
「だ、大丈夫です……でも何故か全く体が動きません……が……」
指一本動かせないと言うのはこの事だな……本当にピクリともしないや……
僕はそのまま意識を失った。




