第16話 旅路
グランセルを出発して4日目の夜、モンスター避けの結界アイテムを設置し、テントを張り、サトスさん達はキャンプの準備をして、今日も僕は持ち前の調理スキルを使って皆にご飯を作っている。
「旨い」
「旅の間にこんなに旨い料理を食えるとは」
「ホントに美味しいわ。毎日でも飽きない」
サトスさん達は至福の顔をして僕の料理に舌鼓を打っている。
「本当に旨いねぇ。兄さん何でこんなに旨い料理を作れるのに冒険者なんてやってんだい?」
一緒に食事をしている馭者さんが僕に疑問をぶつけてきた。
「僕はこの仕事が好きなんです」
「ふうん、変わってるねぇ」
「本当、不思議よね」
「やっぱりマゾなんだな」
「伊達にMッテルと呼ばれてねぇよな」
サトスさんとダナンさんの言葉に、全員がうんうんと頷いている。
「失礼な! そんな呼び方してるのはサトスさんだけです。料理取り上げますよ」
僕がサトスさんの皿に手を伸ばすと、サトスさんは素早く皿を持ち抱え込む。
こんなやり取りが旅を始めてから毎晩続き、もう僕に対するマゾ弄りは定番化していた。
くそっ、サトスさんめいつか仕返ししてやる。
そんな和やかな食事も終わり何気ない会話をしていると━━
「ああー、アステルが居るからご飯は満足出来るんだけどお風呂に入れないのが辛いわ」
メインさんが上着を脱ぎ、ノースリーブのシャツだけになり、湿らせたタオルで顔や腕を拭きながら不満を漏らす。
「こればっかは仕方ないよな、流石に風呂に必要なだけの水と道具を収納魔法に入れるのは無理があるしな」
サトスさんやダナンさんも、同じ様に体を拭きながら話している。
「簡易的な水浴びなら出来ますよ」
今の僕の水魔法ならその悩みは解決出来るのだ。あまりやると疲れるけど……
「本当に? どうやって?」
この話にメインさんが凄い勢いで食い付き僕の両肩を掴み前後に揺らす。
「やってみます?」
「うん、お願い」
「じゃあ、服以外の持ち物収納魔法にしまって下さい」
メインさんは急いで全ての持ち物を収納魔法にしまう。
「じゃあやりますね」
僕は魔力を練り上げて樽一杯分の水を作り出し、メインさんの体を被った。
「きゃっ! 冷たーい」
「いきますよ」
メインさんに巻き付かせた水を回転させ流れを作る。
「川の中に居るみたい、気持ち良いー」
メインさんは至福の笑顔で水魔法を楽しんでいる
「名付けて洗濯魔法です。メインさんちょっと息止めてて下さい」
メインさんは息を止め、僕は水の一部を頭の方に動かしくるくると流れを作ると再び体の方に戻した。
「あとはこの水を離す」
水をメインさんの体から離し自分の元に持ってくる。
「服や体に残った水は僕の操作から離れると1分程で魔力に戻って霧散するんで乾かす必要もないです」
僕もスッキリしたいので同じ水で自分の体を洗った。
「気持ち良かったぁ。本当に便利ねアステルの魔法は」
全身を洗われてさっぱりしたメインさんが、サトスさん達の方を向くと、サトスさん達が目を見開き鼻の下を伸ばし涎を垂れてガン見し、馭者さんは直ぐに目を反らした。
「ん? どしたの? あんた達……」
「あっ! すいませんメインさん、まだ乾いてないから服が透けてます」
僕が声を掛けるとメインさんが下を向き、自分の服が透けて中が見えてる事に気が付いた。
「きゃあ! バカ! お前ら見んなー!!」
メインさんは慌ててその場に座り込み両手で胸を被う。
しまった服が透けるのを忘れてた、僕は男だから気にしてなかったけど、確かに女の子は恥ずかしいよな……
「忘れろ! 今見た事は全部忘れろ!」
直ぐにメインさんの服は乾いたのだが、見られたのが余程恥ずかしかったらしく、サトスさん達の記憶を飛ばす為に? メインさんがサトスさん達をフルボッコにしている。
女の人は恐ろしい……僕の体も洗い終わり作り出した水の操作をやめて霧散させた。
サトスさん達はすっかり眠りに就いたようだ……
「すいませんメインさん、服が透けるのは想定してなかったもので……」
「い、良いわよ、私が頼んだんだし」
メインさんはちょっと恥ずかしそうに目を反らしたけど、僕の記憶を飛ばそうとはしなかった、あと馭者さんの記憶も……
サトスさん達には遠慮がないんだな……
そんなこんなで旅は続き、グランセルを出発して8日目の昼過ぎ、キリマ村まであと少しのとこまで来ていた。
荷台から顔を覗かせると、遥か先に見える壮大なスターリット山脈。何処までも続き、天を貫くが如くそびえる山々、山頂付近には万年雪とも呼ばれる雪が山脈を白く染め、吹き下ろす風が心地よい冷たさを感じさせる。
僕達はその景色に心を奪われ言葉を失っていた。
「兄さん達、もうそろそろ到着だよ」
景色に見惚れていると、馭者さんが僕達に声を掛け、僕達は我に帰る。
「始めて見ましたけど凄いですねスターリット山脈」
「俺達も始めてだ、なんだろうなロマン溢れるって感じか?」
「うむ、男って感じがするな」
「何勝手に男に例えてんのよ。あの美しさは私みたいに見惚れる程の美女でしょ」
メインさんが胸に手を当てどや顔している……
「ああうん、そだね」
「う、うむそうだな」
サトスさんとダナンさんは、乾いた眼差しでメインさんを見つめ、僕は何とも言えなかったので、ただただ目を反らす事にした。
この日の夕方僕達はキリマ村に到着した。




