第15話 ギルド斡旋クエスト
「おはようございます」
僕達は今日も元気よくギルドの扉を開け、真っ直ぐ受付へと向かう。
「おはようございますアステルさん毎日元気ですね」
「何か急ぎの仕事とかありますか?」
「幾つかありますけど、それよりアステルさん。貢献ポイントが斡旋を受ければ青銅ランクに上がれるくらい溜まってますけど、受けられますか?」
「ええっ!? 僕まだ冒険者になって半年と少しくらいしか経ってないですよ?」
「アステルさんの様に、ほぼ毎日ダンジョンに入る人は珍しいですからね。毎回受付で報酬を気にせずクエスト受けてくれますし、新食材の発見や重犯罪者捕獲の貢献もありますし、おかしくはないですよ」
冒険者の仕事は命懸け、適度に休みを入れて心と体をリフレッシュさせなければ大抵短命に終わる。
クエストを受けたりダンジョン探索をした後はそれと同日くらいの休みをとるのが一般的なのだ。
なるほど、そう言えば母さん達と旅行に行った時以来、毎日ここに来てるよな、別に苦でもないし毎日ルーナさん見てるだけで癒されるし。
「それでですね。サトスさんから「一緒に斡旋をやらないか?」とお誘いが来てますが、どうされます?」
「サトスさんも受ける時期だったんですね」
「アステル、サトスって…誰?」
「覚えてないですか? 僕の風切りをゴブリンから取り戻してくれた、あの居酒屋で会った人ですよ」
「…………覚えてな…い」
「ルーナさんが会ったのってその時だけですから覚えてないのも無理ないです。気さくな良い人なんで今度紹介しますね」
「…ん」
「じゃあ一緒に受けます。返事はどうやって伝えれば良いですか?」
「私共がお伝えしておきますので、明日またお声掛け下さい」
「はい、お願いします」
翌日、受付に声を掛けると、2日後に待ち合わせて今回の斡旋クエストの目的地、スターリット山脈に向かう事になった。
スターリット山脈、グランセルから南に馬車で8日程の距離にある標高3000m級以上の山々が連なる山脈でレアな鉱石や天然の香辛料等が多く取れる。
生息モンスターの強さはグランセルダンジョンの5階層~8階層クラスがほとんどだが稀に10階層~15階層クラスのモンスターも出ることがある危険な地域なのだ。
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出発の日の朝、僕達はグランセルの町の公園の噴水前で待ち合わせた。
「おお! 久しぶりだなMッテル」
「帰ります。ではお元気で」
サトスさんがハイタッチを求めてきたけど、僕は踵を返し足早にその場を離れようと歩きだす。
「ああー待て待て冗談だ」
サトスさんは僕の服の裾を掴み、帰ろうとするのを阻止した。
「久しぶり、元気だった? アステル」
「活躍してるみたいだな、噂は聞いてるぞ」
「お久しぶりですメインさんダナンさん今回はご一緒出来て嬉しいです」
互いに笑顔で握手を交わし再開を喜ぶ。
「アステル、俺も居るぞ俺も」
「ああ、サトスさんも居たんですか……」
「いやっ最初に声掛けたの俺だから! ごめんって、もう言わないから」
「まったく、相変わらずですねサトスさんは」
サトスさんとも握手を交わす。
「和んだろ? チームリーダーとしてムードメーカーとして場を盛り上げようとだな━━━」
「えっ!? サトスいつからリーダーになったの?」
「と言うかリーダーなんか決めてないだろ?」
「ええっ!? 違うのか? お前ら誘ったの俺だから俺がリーダーだろ?」
サトスさんがあたふたしながらリーダーアピールする
「「いやいやいや!」」
メインさんとダナンさんハモりながら否定している。
「そんな面倒くさい事言うならチーム抜けよっかなぁ、アステル私と組もっか?」
からかう様に、ニヤッとサトスさんを見て僕と腕を組むメインさん。
「そうだな、組むかアステル」
メインさんとは反対側から僕と肩を組むダナンさん。
「お二人ともあまりからかってるとサトスさんが可哀想ですよ、ほら、いじけちゃった」
僕は苦笑いしながら両腕で膝を抱えながら項垂れているサトスさんを指差す。
サトスさん達のお陰ですっかり気分も和み、僕達は貸し切り馬車便でスターリット山脈中央付近にある、標高約4000mのホルメル山の麓にあるキリマ村と言う小さな村に向かった。
今回のクエストはホルメル山三合目程にあるピンクペッパーと言う香辛料の採取と、その近辺に生息するスプリングシープ、ホーンスネークの素材採取だ。
ピンクペッパー、料理の隠し味に使われる爽やかな酸味とピリッとした辛さ、鼻を抜ける香りで人気の香辛料。
スプリングシープ、見た目ふわふわな可愛いモンスター、その体毛はバネの様に弾力があり打撃攻撃を無効化する。見た目に反して獰猛で大木を薙ぎ倒す程の頭突きで攻撃してくる。
ホーンスネーク、名前の通り額に一本の鋭い角を生やした全長10m程の大蛇、毒はなくその角と鋭い牙、巻き付き攻撃等で相手を倒し丸のみする狂暴なモンスター、必ず相手を死に至らしめてから食べる習性がある。
街道を進む馬車の荷台で僕達は会話を楽しんでいた。
「それにしても凄いよねアステル。あのグウェン倒したんだってね」
「それにあのモスマンともやり合ったって聞いたぞ?」
メインさんとダナンさんが興味深そうに僕に話を振る。
「倒したって言っても、グウェンは、僕が駆け出し冒険者だからかなり油断して遊んでたし……本気でやられたら敵わなかったと思いますよ。モスマンだって倒したのはルーナさん達で、僕は弱いモンスターを倒しただけです」
モスマンの件は冒険者全体の地位を揺るがす大事件なので、大っぴらに発表はされていないが、やはり白銀ランク冒険者の不祥事と言うことで冒険者の間ではかなり噂になっていた。
僕と同じように憧れていた人も多く皆少なからずショックをうけている。
「俺達もグウェンにも絡まれた事あるぜ」
「そうそう、丁度三人で組み始めた頃よね」
「あいつアステルにやられた後、冒険者引退して田舎に帰ったらしいぞ。まあ銀ランクが鉄ランクにやられたら恥ずかしくてギルドに顔出せないよな。いい気味だ」
違う、違うよ皆、絶対にエリーさんの所為だから……あの人この先ずっと黒髪の人見る度に震えるんだろうな……うっ、吐き気が……
「ん? アステル顔色悪いぞ? 酔ったのか?」
「いえ、ちょっと以前あった事を思い出して気持ち悪くなっただけなんでご心配なく」
楽しく皆で会話をしていると当然馬車が停止した。
「兄さん達、楽しんでるとこ悪いんだけど、向かってる先からサーベルウルフの群れが近付いてるみたいなんだ。あんたら冒険者だよな? 何とかならないか?」
馭者さんが慌てて荷台を覗き込み僕達に声を掛けてきた。
サーベルウルフ。巨大な刃物の様に鋭い牙を持ち平原や街道によく出没するモンスター。群れで行動する事が多く、一頭一頭はそれほど強くないが連携されると面倒なモンスターだ。
僕達は素早く馬車を降りると、遠くからこちらにやって来るサーベルウルフの姿を確認し、武器を出しサーベルウルフを待ち構える。
攻めて行っても良いのだが、今回は馬車も一緒に居るので、別のモンスターに馭者さんが襲われない様に、あまり馬車から離れられないのだ。
「サトスさんって前の時もそうでしたけどルーナさんと交換した武器を使ってないんですね」
「あたぼうよ、あの武器は憧れのルーナ様に貰った大切な武器だ。俺がもっと強くなって武器に見合う男になったら使うつもりで大事にとってある」
サトスさんがサムズアップし、ニヤリと歯を見せる。
「コイツ使わないくせに毎日磨いてニヤケてんのよ」
「武器は使ってこそだ」
メインさんとダナンさんが呆れ顔でサトスさんを見ている。
「サトスさん、漢ですね」
「おおっ! 解るかアステル」
僕達はグッと握手を交わし、互いにニヤリと歯を見せた。
「うわぁーキモーい。解り合ってるわよあの二人……」
「うむ、似た者同士だな」
失礼な! ロマンだよ、男のロマン、解んないかなぁ?
そんなやり取りをしていると、サーベルウルフが僕達から100mほどの所まで近付いていた。
僕達は気持ちを切り替えて、近付くサーベルウルフに目を向ける。
「数は15ぐらいだな、油断するなよ!」
サトスさんが先陣を切り走り出す。それに続いてダナンさんが後を追い、メインさんがサトスさん達とは少し違う方向に移動し、援護の体制に入る。
僕は3人の動きを見ながら辺りを警戒し、メインさんとは逆方向へ移動。
サトスさんとダナンさんが前衛で群れを相手に互いの死角をカバーしながら立ち回る。
メインさんは、距離を保ちながらサトスさん達の隙を伺っているサーベルウルフに火矢魔法で攻撃。
流石にいつも組んでるだけあって息がピッタリだな……僕も負けてられないや。
僕はサーベルウルフの群れの後方に回り込み、覚えたての水魔法で水の刃を作り出しサーベルウルフに撃ち込む。
サトスさん達に気を取られて、まったくの無防備になっていたところに攻撃されたサーベルウルフの連携に乱れが生じ、その隙をついてサトスさん達が数頭切り裂く。
よし! 上手く連携を崩せたぞ。
サーベルウルフは直ぐに建て直し、二手に別れ、四頭が僕に向かってくる。
この数なら!
僕は魔力を足に多く集中させ素早くサーベルウルフの側面に移動し、一頭を切り裂く、直ぐに距離を取り再び水の刃を放ち、まとめて二頭を両断、仲間がやられ戸惑う残り一頭の首を跳ね討伐完了だ。
「ふう、片付きましたね」
僕が風切りを鞘に納めサトスさん達の方を見ると、サトスさん達も倒し終えていた。
「まあ、コイツらくらいなら楽勝だな」
「そうね。でもアステルは本当に、あの時ゴブリンに武器奪われたの? 信じられないわ」
「確かに……この短期間でどれだけ強くなったんだ? もう俺達よりも強いだろ」
四人が集まり順に拳を合わせ勝利を喜び会話が始まる。
「兄さん達素材は取らないのかい?」
「そうだな、俺は別に良いや、おじさん良かったら持って行って良いぞ?」
「本当かい? じゃあ、ありがたく頂くよ」
サトスさんがいらないと言うと、馭者さんは嬉しそうに倒されたサーベルウルフの所へ走って行き素材を拾い始めた。
あ、収納魔法使えるんだあのおじさんも……
馭者の殆どは収納魔法が使える。荷物を運ぶのに便利だからだ。荷台に人間を乗せるのは荷物を運ぶついでの様なもの、荷物だけなら馬車より馬が早いが、そこは商売人、どうせ同じ場所に行くなら少しでも稼ぎたいのだ。
僕達は辺りの警戒をしながら馭者さんを見守る。
「なあ、アステル前に見せてもらった修行以外にどんな事やってるんだ?」
「そうですね、基本はやっぱりモンスター相手に戦いますね、1回トロールに殺されかけました」
「「「トロール!!?」」」
そんなにハモらなくても……
「トロールって確かかなり深層のモンスターだよな?」
「はい、武器はルーナさんが破壊してくれてたんで━━━」
「いやいや、そう言う問題じゃないから」
「い、異常過ぎる」
「他には?」
「後は魔法の訓練ぐらいですよ。エリーさんって竜族の人が居るんですけどね。かなり色んな事に詳しくて魔法もその人に教わってます」
「竜族って、ルーナ様が従魔にしたって噂のドラゴンか?」
「従魔じゃなくて仲間です。今僕達と同じ冒険者やってますよ」
「ふえー、ドラゴンが冒険者? やっぱり強いの?」
「強い何てもんじゃありません、殆ど無敵ですよあの二人は……」
三人の興味は尽きず、キリマ村に着くまで延々と質問攻めにされた。




