第12話 日常に戻る日
「デイジー、お主が出て来た場所を覚えておるか?」
「いっぱい走ったから解んないの」
「それはちと困ったのうどの方向から来たかだけでも解らぬか?」
エリーさんの質問に、デイジーは泣きそうな顔をして首を横に振った。
「手分けして探すしか無いですね」
「手分けしても無駄なのじゃ。認識阻害の魔法で隠されとるからのう、我でも近付かん事には見付ける事は出来ぬ」
「じゃあ村を直接探すとか?」
「それも無理じゃのう、転送魔方陣の効果範囲は本人の力量にもよるが30km~50kmじゃその距離を宛もなく小さな村一つ探し出すのは厳しいのじゃ」
「じゃあ空から村を探すとか?」
「それも無理じゃのう。当然村も認識阻害の魔法で隠されとる」
詰んだ……手掛かり無しに最低30km圏内を探すとか本当に無理だな、この先ずっと森続きだし、適当に探してたら遭難しそうだ。
僕達が今居る森は、100kmにも及ぶ広大な樹海になっており、深く入り込むと飛べない者にはまず脱出は不可能。僕達は言葉を発せず暫く考えた。
「…ん、あっちに何か光って…る」
一人辺りを見回して居たルーナさんが森の奥を指差す。
「え? どこですか?」
「ふむ、何も見えんのう」
「付いて来…て」
ルーナさんはそう言うと指差した方向に歩きだし、僕達は直ぐに後を追った。
「これ魔方…陣?」
100m程歩いた所でルーナさんは立ち止まり、一本の気を指差す。
「間違いないのう。あの距離からよく見付けたものじゃ」
「あの、僕には只の木にしか見えないんですけど」
「お主にはそうじゃろうのう。認識阻害魔法とはそう言うものなのじゃ。我とてここまで来てやっと見える程度なのじゃ、ルーナの目はどうなっておるのかのう?」
「…ん、普通に見え…た」
「ひょっとしたら観察眼のスキルのお陰かも」
「観察眼っ…て?」
「ルーナさん持ってますよね? 以前ギルドカード見せてもらった時に書いてありましたよ?」
僕に言われてルーナさんがギルドカードを確認する。
「…ん、書いてあ…る」
観察眼。その名の通り観察力が上がるスキル。物、地形、生物等様々な物を観察し把握する。スキルランクD程度では違和感を覚えるくらいだが、ルーナの持っているSランクともなると隠された罠から敵の弱点まで見抜く事も可能なのだ。
「流石は我がライバルじゃ。ルーナこの魔方陣から伸びる魔力の痕跡は見えるか?」
「…ん、何か糸みたいなのが伸びて…る」
ルーナさんが地面を指差すけど僕には何も見えない。
「そこまで見えるのか? とんでもないのう、じゃがこれで村に辿り着くのは容易くなったのじゃ」
エリーさんにも魔力の痕跡は見えないらしい。見えないけど手探りで見つけ出す事は可能なのだと言っているけど、辿るのにかなりの時間がかかるらしい。僕達はルーナさんを先頭に痕跡を辿って走り出した。
体力の無いデイジーはエリーさんが抱き、ルーナさんは痕跡を辿るのに集中、僕が途中現れたモンスターを退けながら走ること1時間━━
「おかしいのう、進むにつれてモンスターが増えておる。それに強くなっておるのう、アステルよまだやれそうか」
「はい! これくらいのモンスターならまだ大丈夫です」
「村が見え…た」
ルーナさんが進行方向を指差すけど、やはり僕には見えない、エリーさんもまだ見えてない様だ。僕達は走る速度を早めた。
暫く走ると、視線の先に村が現れた。
「結界の内側に入ったようじゃな」
驚いた……さっきまでただの森に見えてたのに……
村に辿り着くと、家は破壊され瓦礫になり、あちらこちらに血が飛び散り、人影は見えない。
「遅かったのか!?」
僕は悔しさのあまり拳を強く握りしめた。
「いや、ここには居らぬ様じゃが、恐らく村の外に逃げたのじゃろう、見てみい多くの足跡が村の外に続いておる」
エリーさんが指差す先には、エルフ達の物と思われる多くの足跡が村の外の森へと延びていた。僕達は急いでその足跡を辿る。
ーーーーーーーーーーーーーーー
村から少し離れた、背後を岩壁に止められ、左右を体長5mほどの芋虫のの様なモンスターに挟まれ追い詰められ、女性エルフ達を庇うように取り囲みモンスターと対峙する男性エルフ達、数人の男性エルフが血塗れで集団の中心に倒れている。
「あんまり抵抗しないでくれよぉ。出来るだけ無傷で手に入れたいんだからさぁ」
法衣を纏いフードで目元まで隠した男が、背後にボブゴブリンやゴブリンジェネラルを控えさせ、エルフ達に話しかけている。
「何故こんな事をする! 我々を襲ってお前に何の得があるんだ!」
「あんたらは知らないだろうけどさぁ。エルフってある筋に流したら高く売れるんだよねぇ。金だよ、お・か・ね」
法衣の男がニヤリと口元を緩ませ答える。
「金!? そんな物の為に我々は襲われたと言うのか?」
あまりにもくだらない理由を聞いたエルフ達は愕然としている。
「あんたらからすれば金なんて大した価値の無いかもねぇ。だけど俺には違うんだよぉ。この人数売ったらさぁ、つまらない冒険者なんかやらなくてさぁ、一生遊んで暮らせるんだよぉ。まあ、ホントは無傷の方が高く売れるんだけどぉ、しょうがないよねぇ」
法衣の男が右手を上げると、ボブゴブリンが数頭前に出る。
「殺しちゃダメだよぉ。動けないくらいに痛めつけるだけだからねぇ」
「ウゴッ」
男の指示でボブゴブリンが手に持っているこん棒を振り上げた。
「止めろーー!!!」
襲い掛かろうとしているボブゴブリンを見つけ、僕は大きく怒声を響かせながらエルフとボブゴブリンの間に割って入り、一頭のボブゴブリンの腹部に切りつけた。
「はぁ? どっから出てきたんだよぉ? 君、何者ぉ?」
僕を見た法衣の男が妙な話し方で怪しげに僕を見ている。
「それはこちらの台詞じゃ」
男の背後からエリーさんが声を掛ける。
男が振り替えると、先程まで背後に控えていたボブゴブリンとゴブリンジェネラルは、全て両断され地に伏し、そこにはデイジーを抱いたエリーさんと、大斧を肩に担いだルーナさんが立っている。
「なっ……ちょっと待ってよぉ、どういう事ぉ?」
「ふむ、エルフ族が追い詰められて居るのはそのマジックイーターの所為か……デイジーを逃がした訳じゃのう」
エリーさんが芋虫の様なモンスターを見つめ言う。
マジックイーター。ワーム系モンスターの一種、魔力を吸収し魔法を封じ、全身に毒の針を纏うモンスター、動きはそれほど速くは無いが、魔法を主体として戦うエルフ族にとっては天敵にあたる厄介なモンスターで、魔力の強い生物を好んで食べる。
「君達何者ぉ? 邪魔しないでくれるかなぁ?」
法衣の男がルーナさん達に視線を送り、奇妙な動きをしながらも警戒を強め構えた。
「じゃから、それはこっちの台詞なのじゃ」
エリーさんは呆れてため息をついている。
あれ? あの人どっかで見た事があるぞ? 何処だっけなぁ……
「あっ! 思い出した!この人冒険者ですよ」
「アステル、知ってる…人?」
「知ってると言うか、有名人ですよ? ルーナさんと同じ白銀ランクの冒険者の方です。名前は確かモスマン……魔物使いモスマン、従魔士です」
従魔師。スキルの一種、通常従魔契約は、特殊な魔方陣内で認められた相手としか結べないが、このスキルを持つものは魔方陣無しで契約可能。それとは別に特殊スキルで契約相手に認められなくても強制的に従魔契約を結ぶ事も出来る。スキルランクが高いほど強制力は強く、自分より強いモンスターを従魔にすることも可能。
白銀ランク以上の冒険者の数は少ない、金までのランクになるのは冒険者をやっていればそれほど珍しく無いのだが、白銀ランクと金ランクには大きな壁がある、全世界に総人口10万とも言われる冒険者の中で、白銀以上になれるのは、ほんの0,1%以下とも言われ、小さい頃から冒険者に憧れていたアステルは当然そんな白銀ランクになったモスマンの事も知っていた、それどころか憧れてさえいたのだ。
「ルーナぁ? ひょっとして氷血の狂戦士ルーナ? 厄介なのに見つかっちゃったねぇ。やだやだ、面倒臭いなぁ」
モスマンが両手をヒラヒラさせながらダルそうに首を振っている。
「何故あなたの様な方がこんな事をするんです!? これがどういう事か解ってるんですか!?」
「はぁ?「解ってるんですか?」ってぇ? 当然だろぉ。理由は、お・か・ね、お金だよぉ。冒険者なんてつまらない仕事に命懸けるよりさぁ、こいつら売り飛ばした方が楽に人生楽しめるからねぇ」
「お金の為? 白銀ランクの冒険者なら生活に困るほど稼げない訳ないじゃないですか? それどころか普通に稼ぐよりかなり良い暮らしができますよね?」
「足りないんだよぉ。命を懸けてモンスター倒してもぉ、高ランクモンスター何百匹も倒さなきゃ家も買えないしさぁ。バカ高い装備を買わなきゃダンジョンにも入れないさぁ。いい加減嫌になったんだよねぇ」
「アステルよ。この屑に何を言っても無駄じゃ」
僕達が話をしている間に残りのボブゴブリンとマジックイーターを倒し、エルフ族を助けたルーナさんとエリーさんが僕の両側に立つ。
「モスマンとやら、大人しく投降するか、さもなくば死ぬかじゃ」
僕達の後ろにはエルフ族達が立ちモスマンを睨み付けている。
「どっちもい・や・だねぇ。忘れてるみたいだけどさぁ、俺も白銀ランクなんどよねぇ。 出ておいでドリゲーター、キマイラ」
モスマンが両手を翳すとモスマンの左右の空間に黒い穴が空き、その中からモンスターが出て来た。
ドリゲーター、グランセルダンジョン35階層に生息する体長15m程の爬虫類型モンスター、硬い鱗を持ち電撃のブレスを吐くドラゴン種に認定されているモンスター、翼は無く地を這うようにして移動し、かなり素早い。
キマイラ、スライム族に属するモンスター、元の姿はジェリーの様に液状だが、体内に取りんだモンスターの特徴に強く左右され姿を変える、取り込んだモンスターによってその能力も変化し、多種多様な姿と能力を持つ。
「どう? 驚いたぁ? ドラゴンを従魔に出来るのは君だけじゃないんだよぉ? ルーナ」
モスマンが高笑いをしながら威圧的な態度をとっている。
「ドラゴン? そんなもの何処に居るのじゃ?」
「君、目が悪いのかなぁ? 目の前に居るだろぉ」
モスマンがチョイチョイと、ドリゲーターを指差す。
「それがドラゴンじゃと? 馬鹿な事を……それは竜族とは全くの別物じゃ」
エリーさんが呆れた様に両手を広げ首を振る。
「無知だねぇ君は。これがドラゴンじゃなかったらさぁ、どれがドラゴンだって言うのさぁ」
「目の前に居るではないか」
エリーさんが自身の胸に手を当て胸を張る。
「バカなのぉ? 君の何処にドラゴンの要素があるんだよぉ」
モスマンが解らないのも無理はない、今のエリーさんの姿は人そのもの、頭に角は生えているがそれを除けば黒髪の美女なのだ。
「仕方ないのう、少しだけ見せてやるのじゃ」
そう言うとエリーさんは、背中に翼を両腕を竜の腕に変化させた。
一拍
消えたエリーさんがドリゲーターの真上に現れ、ドリゲーターの頭に拳を打ち下ろす。
ドリゲーターはエリーさんの動きに反応出来ず頭を潰され絶命した。
「ーーーーー!!」
それを見たモスマンが声にならない叫びを上げ、目を剥いて固まる。
「こっちも、終わった…よ」
エリーさんに気を取られているモスマンの左からルーナさんが声を掛ける。
声に驚きモスマンが振り替えると、そこにはバラバラに切り裂かれたキマイラの残骸があり、その上にルーナさんが立ち、足元には潰されたキマイラの核が見える。
ヨロヨロと後退し足を震わせるモスマン。
「そ、そんな馬鹿なぁ!? こんな事有るわけない……ひ、ひひひひっ」
さっきまでのダルそうな話し方から一転モスマンは裏返ったような高い声で錯乱している様だ。
「いひひひひっ。そうだ、まだ手があるじゃないか……」
怪しげに笑うモスマン。冷静さを取り戻したのか不適な笑みを浮かべた。
「君が居て良かったよぉ。俺の下部になりなぁ……強制従魔契約!」
モスマンがエリーさんに向けて手を翳し、強制従魔契約のスキルを発動させると━━
「ぐっ! ぬああぁぁーーー!!」
エリーさんが苦しそうに頭を抱え膝を付いた。
「エリーさん!」
「エリー、演技下手す…ぎ」
ルーナさんがしれっとした態度でため息を吐く。
「へっ? 演技?」
「なんじゃ。少しは騙されぬか、面白うないのう」
エリーさんは何事もなかった様に立ち上がり、つまらなそうな顔をしていた。
「はっ? えっ? なんでぇ!?」
モスマンは状況が飲み込めずに混乱して、悲鳴のような叫びを上げている。
「力が違いすぎ…る、効くわけな…い」
「お主程度の力で、どうにかなる我ではないのじゃ」
ルーナさんもエリーさんも呆れたようにモスマンを見て、やれやれと、ため息をついた。
「ぐっ……ちくしょう! お、お、覚えてろよぉ!」
裏返った声で、往年の雑魚キャラの様に捨て台詞を吐き、その場を走り去ろうとするモスマン。
当然ルーナさんとエリーさんから逃げられる訳もなく、あっさりと捕まり手刀で気絶させられ縛り上げられた。
━━僕達はエルフ達を連れ、エルフの村に戻った。
「ありがとうございました、なんとお礼を言っていいものか……」
村の長老らしき男性が感謝を込めて深々と僕達に頭を下げる。
「良いんですよ、助けられて良かったです」
「…ん気にしな…い、大した事はしてな…い」
「そうじゃのう、デイジーが無事に母に会えたのじゃそれだけで良いのじゃ」
「それより、もうこの村にはすめないですよね?」
モンスターは血の臭いに敏感で、一度襲われた場所は再び襲われる可能性が高くなるのだ。
「モンスターに襲われるのは稀に有る事なので大丈夫です。また何処か良い土地を見つけて村を作ります」
「そうですか……なら困った事があったら声を掛けて下さい僕達はグランセルと言う町で冒険者をやっているのでギルドに聞いてもらえれば連絡はとれますから」
「…ん、私も助け…る」
「そうじゃな、我も力になるのじゃ」
「ありがとうございます。次に会った時には必ず何かでご恩に報います」
再び、長老を始めとしたエルフ族達が深々と頭を下げてきた。
「いえ、本当に気にしないで下さい。じゃあ僕達は町に戻ります」
「アステル、ルーナ、エリー、ありがとう」
デイジーが僕達一人一人の手を握り目に涙をためて礼を言った。
「うん、デイジーまた何処かで会おうな」
「…ん、生きてる限…りいつでも会える…よ」
「そうじゃのう、達者でな」
モスマンの処分は僕達に任され、僕達はエルフの村を後にした。
エルフの人達は、数人の死亡はあったものの、デイジー以外に転送魔法で各家から飛ばされていた子供達も無事に連れ戻す事が出来たようで、そのまま何処かへ移住した。
モスマンはカラコの町に戻ってギルドに引き渡した。
当然、自称聴取や魔法による聴取が行われモスマンは異種族間の調和を乱した罪により、投獄されこの後、異種族密売の情報を引き出された後、良くて終身刑、最悪極刑に処される事となる。
僕達はモスマンを引き渡した後、母さん達と合流し、デイジーを無事に家族の元に届けた事を報告し、グランセルに戻った。
短い間だったけどデイジーと一緒に居た時間は濃密なもので、少しだけ寂しい気分にはなったけど、デイジーがこれから幸せに生活を送れるなら良いなと思い、僕達は日常に戻る。
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━━と、感傷に浸ってたのは何だったのか……
「こんにちは! 遊びに来たの」
実はデイジー達は、グランセル近郊の大きな森に引っ越して来たのだ。
僕達がグランセルに戻って数日後、両親を連れて突然家に挨拶に来た時には驚いた。
うちの家族とも仲良くなり、今では毎日の様に遊びに来ている。村の場所がバレると面倒が起こる可能性があるので、家のリビングにデイジー達の家から直接繋がっている転送魔方陣を設置し、エリーさんの協力で、認識阻害魔法以外に防護結界と誘導結界、モンスターだけに反応する特殊な罠を等を張り対策も完璧だ。
これからまた少し、家が騒がしくなりそうだ。




