第三話 銀星亭と希少な魔法
銀星亭は、ガーランドの街でも郊外にあるらしい。
馬車を降りたあたりからそう遠くないので、ギルドの場所を聞いてから、一緒に銀星亭に行くことにした。少ししかないけど荷物も置きたかったし、ゆっくりしたかったのだ。この世界では快適な方の馬車だったんだろうけど、お尻も痛い。
「ミコおねえちゃん、おへやにいったらあそんで」
娘さんであるリラちゃんが甘えてくる。とてもかわいい。
「おじいさんに会ってからね」
「うん!」
6歳くらいかなあ、しっかり話せるけど小さくて可愛いわ。とてもなごんだ。
この世界には、日本で言うところの電報のような魔法通信があるらしい。それで受け取っていたメッセージである『父倒れた』では、細かい内容がわからなかったけれど、結果としては骨折だった。
「階段から落ちたんですって。深刻な病気じゃなくて良かったわ。しばらくは店を手伝うことにしたの」
マチルダさんは安心して笑っていた。けれど後遺症が心配でもある。腰を強く打っていて、右足を骨折していたらしい。
ここはご縁だと思う。
「私もお見舞いしてもいいかしら? ご挨拶したいわ」
「もちろん!」
お見舞いを申し出ると、マチルダさんは朗らかに快諾してくれた。
マチルダさんのお母さん——女将さんは現在てんてこ舞いで、乗り合ってガーランドまで来たことを聞いて、私を歓迎してくれた。
おじさんの休んでいる部屋にマチルダさんと入る。
「内緒にしてくれたら嬉しいのですが」
おじさんとマチルダさんが頷くかどうかのときに、短く詠唱した。
「ヒール!」
その声を聞いてマチルダさんが私の顔を凝視し、おじさんが感嘆の声を上げる。
「今の……!? なんと! 痛みが引いた! 治ったのか!?」
おじさんは、足をゆっくり動かして確かめていた。
私は人差し指を口に当て微笑んだ。
「安全な旅のお礼です」
「そんな! 私の方が助かったのに。なんとお礼を言って良いか……。ありがとうございます!」
マチルダさんは涙ぐみながら喜んだ。
「希少な魔法をありがとう」
おじさんが、驚いたままお礼を言ってくれた。
「この魔法は、希少なんですね? 私は世間知らずで、色々教えてもらえると嬉しいです」
「そうか、訳ありなんだな。いくらでもうちにいてくれたらいい」
宿代は、問答の末とりあえず一ヶ月サービスしてもらうことになった。ずっと無料はさすがに。そして、一ヶ月で生活を安定させるという目標が出来たのだった。
その日の晩は、ごちそうを出してもらった。おじさんが主に厨房を担当していたそうだ。手伝いの人を雇っていたので、なんとか宿を閉めずに続けられていたらしい。
「美味しいです!」
焼き物だけでなく、揚げ物もある。肉だけでなく魚もある。並べられた料理を見て、食べて、そこまで日本と変わらないんだなと思った。何肉かわからないけど?
翌日、私は早速ギルドに行くことにした。一人で行くつもりだったけれど、リラちゃんが「一緒に行く」と言って道案内をしてくれることになった。大丈夫かな?
銀星亭に着く前になんとなくは場所を聞いていたけれど、地図を頭に入れておこうと思った。
「ここがギルドなの」
遠くはないけど何度か道を曲がって来た。小さい子には難しそうなのに、リラちゃんはすごい。
「ママと何度か道あんないしたことがあるの」
リラちゃんの自慢げな顔が可愛くて頭を撫でた。実は、働き口なら宿ではだめなのかと聞かれたけれど、異世界に来たならギルドには行ってみたい。転移者であることは伝えてないけれど、ギルドに興味があると言って今に至るのだ。
「受付はどちらですか?」
「新しく登録なさるのですか?」
「はい!」
「ではクローバーのマークの窓口にお願いします」
「ありがとうございます」
リラちゃんと手を繋いだまま移動していると、イヤな声が聞こえた。
「子連れでギルドに来るやつがいるぜ」
「遊びに来てるつもりなら痛い目にあうのにな」
無視しようとしたら、リラちゃんが振り向いてその人たちを睨んでいた。子供に睨まれていい気がするはずもなく、空気がよどむ。
「よう、リラちゃんじゃないか、お使いかい?」
「ガリアおじさま!」
間に入った男性は、野性味のある落ち着いた雰囲気で、やさしげに笑った。
プラチナブロンドで、歳は三十代半ばくらいに見え、どことなくアルベルトさんに似ている。この国では多い雰囲気なのかな?
「王都からきたミコおねえちゃんなの」
「そうですか、ガリアーノと言います。よろしくお願いします」
ガリアーノさんが手を差し出したので、握手をしつつ応えた。
「ミコトと言います。よろしくお願いします」
そうしていると、窓口の向こうから声が聞こえた。
「ギルド長! 新人さんをご案内してくださいよ」
「おう、わかったわかった」
ガリアーノさんは、素早く、しかし嫌らしくない程度に私の姿を確認すると、意味深に微笑んだ。
「黒髪は珍しいね。別室に案内するよ」
驚いた私に、彼は続ける。
「リラちゃんもおいで。お菓子をあげよう」
「やったー!!」
通された部屋には本棚や執務机が見えて、応接室というよりガリアーノさんの部屋のようだった。彼の指示のままに応接コーナーのテーブルにお菓子と道具が置かれていく。
「やったぁー! お花のクッキー!」
ジャムが彩りを添えたクッキーが並べられ、リラちゃんが夢中になる。出された紅茶に口をつけると、とても良い香りがした。
「さて、登録に当たって名前はどうしますか?」
「どう……というのは、偽名でもいいっていうことですか?」
「ええ。通り名でも登録できますよ」
「……では、ミコにします」
ガリアーノさんは、私の目を見て頷いた。
「ではこちらの魔導具に手を置いて」
促されるまま魔導具とやらに手を置くと、ステータスが表示された。まずい!




