第二十五話 それから、それから。
「私はもうお城に行かなくていいの?」
「お城はいいけど、一応貴族だからね。その公爵令嬢、サフィニア様って言うんだけど。彼女とは会った方がいいかな。禍根が残らないように」
「あ……」
なるほど。未来の王妃様と仲良くしておいた方が良いのね。
「それで、俺の奥さん」
「なぁに?」
「今夜は共寝をしてもいいだろうか」
ワインも食事も進んできた頃、アルに聞かれた。
「実家だから、一緒に眠るだけだよ、ミコ」
「うん」
予防線を張ってくれる、優しいアルが好きだ。私は心から嬉しいと微笑む。
「私もアルが好きよ」
ほんの一瞬だけ目を開いたアルが、クシャッと嬉しそうに笑った。
「ありがとう。今日のことは忘れない」
「飲んでるのに?」
私は急に恥ずかしくなって茶化す。するとアルは気を悪くすることなく、不敵に笑った。
「恥ずかしがりなのは知ってるからね。お酒のせいだと言っても、もう取り消させないよ」
翌日は、公爵家に行くのかと思っていたけれど、サフィニア様がガーランド邸に来てくれた。お母様は既に聞いていたのか、応接室に多くのお菓子と紅茶が用意されていた。
「クレメンツ公爵家が三女サフィニアと申します」
「ミコトと言います」
サフィニア様はミルクティーブラウンの髪を緩やかに巻いた、紫の瞳の品のあるご令嬢で、二十歳にならないくらいに見えた。
「そのバングルは、ミコト様は冒険者なのですか?」
「ミコでいいです。今はまだCランクだけど冒険者なんです。夫とダンジョンに行ったりするんです」
「ミコ、私もサフィでいいわ。本来なら聖女のミコの方が身分が高いのですもの」
「お聞きになっていたのですか?」
「慣習では王族に迎えることも知っているわ」
「でも私は……」
「はい、ご結婚されているとお聞きしているわ」
「そうなの。仲がいいのよ」
「それは、羨ましいことです」
「ええ、ありがとう」
それから、私達は雑談をして友達になった。歳は離れているけれど友好を結んだのだ。ガーランド領は遠いようで近い。また来ると約束をした。ダンスの宿題をもらってしまったけれど。
サフィが帰ったあと、心配そうなアルと少し話をして、翌日にはガーランド領に帰った。
「早く一緒に暮らしたい」
そんなアルの希望もあって、使用人が決まらないまま、荷物を運び込んだり、足りないものを買い込んだ。
「これからも、よろしくね、アル」
「こちらこそ」
厨房は、かまど式で私には使えず、食事はテイクアウトしてきたり、銀星亭に食べに行っている。改築するかは検討中だ。
「いらっしゃい。今日はハンバーグだよ」
「やった!」
明るい女将さんの声に温かい気持ちになる。また日常が戻ってきた。
「明日はS級ダンジョンに行こう」
「明後日は駄菓子屋ね」
「S級では駄菓子屋を開かないのかい?」
あれから、Aランク冒険者の人たちが戻ってきてダンジョンが賑やかになった。S級ダンジョンで店を開いても良いかもしれない。
「じゃあ明日、やってみる!」
「うん」
「いつかダンジョンボスを目指そうな」
「えー、どうしようかな」
「ランクを上げたら、旅行に行こう」
「遅いハネムーン?」
アルが無言になって、真剣な顔になった。私の顔をしっかり見つめる。私、何か間違ったことを言った!?
「ハネムーンっていうのは密月で間違いないか? ミコの世界は部屋にこもらずに旅行に行くのか」
「ん? 結婚式のあとの旅行のことだけど、なに?」
なんだかアルの様子、おかしくない?
ガシッて音がしそうな勢いで、肩をつかまれた。
「俺たちも今すぐ旅行に行こう!」
ランク上げの後じゃなかったの? すごい勢いにびっくりして聞き返す。アルの瞳はキラキラしている。
「明日のダンジョンはどうするの?」
「朝に少し潜って、ギルドで兄貴に会ってから出かけよう」
「わかったわ。大急ぎで荷造りしないと」
「ミコは、一通りの服とドレスをストレージに入れればいいよ」
ドレスもいるの? どこに向かうのかしら。いえ、侍女もいないのだから簡単なドレスとワンピースでいいわね。
「ドラゴンを見に行こう」
「ドラゴン!!」
そういえば、アルはドラゴンを倒していたんだ。ドラゴンを見ることができるなら、見たい。
「隣国の山に行こうと思う。異国情緒も楽しめるし、いい宿もあるし、旅行らしさを楽しめるよ」
異国の雰囲気……と言っても、この国もたいして知らないのだけど、っていうのは飲み込んだ。だって、なんと言ってもドラゴン!
「ドラゴンなんてワクワクするわ」
「隣国だから狩れはしないけど、見ることはできるんだ」
「どういうときに狩るの?」
「迷い込んできて害をなすときかな。クエストが出されたり、依頼されたり」
緑のドラゴンの逆鱗がそれだったのね。
「緑のドラゴン以外も倒したの?」
「あとは赤と青だな」
「騎士になる前に?」
「ルシアーノくらいの頃と、休暇のときかな。Sランクはドラゴンの討伐が要るから運もあるんだ。ルシアーノもドラゴンを仕留めたらSランクだよ」
恐るべし辺境伯家!
ドラゴン、まずはその姿を目に焼き付けよう。
それから、それから。
まだ見ぬ異世界での冒険に期待が止まらないのだった。
もちろん駄菓子屋の商品も増やしたいけどね!
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