第二十三話 国王陛下からの感謝と謝罪
王都についた翌日、朝から念入りに肌の手入れをされ、普段はしないコルセットを締められ、盛装した。訪問のためもあるけど、舐められないように必要なことらしい。
私が着たのはホワイトシルバーのドレス。一番気に入ったグラデーションカラーのスカートだ。形はシンプルだけど、ドレスを飾る石とネックレスの石の輝きが重なるように彩られてとても豪華だ。
アルは黒がベースの騎士のような華やかな衣装だった。
「ミコ、とても似合っている」
「アルもかっこいい……」
二人で褒め合っていると、お母様がパンっと手を叩いて、「見つめ合うのは帰ってからにして行きますよ」と玄関に目を向けた。
お母様は落ち着いたグリーンのドレスだったけれど、小さなダイヤが縫い付けられているのかスカートが揺れると品よくキラキラした。お父様——辺境伯の瞳も緑だったわね。
登城すると、通されたのは謁見の間ではなく応接室だった。
「聖女殿と話したかったのだけど、ガーランドの皆も来てしまったんだな」
「家族だからな」
国王陛下の言葉にお父様が応える。難しい顔をした陛下は、少し諦めたようだった。
「聖女殿、私を救ってくれて心から感謝している。グリードから城を出たと聞いたときは気が遠くなったよ」
私は首を横に振った。聖女と言われるのは困るけれど、まずは話を聞こう。
「私はできることをしただけです。魔法の基礎を教えてくれたのもグリードでしたし、そもそも陛下のために私を召喚したのもグリードです」
国王陛下は少し意外そうな顔をした。そして真意を探るように私をじっと見つめたあと、頭を下げた。
「元の世界での生活もあっただろうに、勝手に召喚してすまなかった。しかも、城を追い出すまでして申し訳なかった」
私はどう反応するのが正しいのかわからなかった。もう済んだこと——というかやり直せないことだけれど、許せる話でもなかった。
「悪いと思うなら元の世界に返してほしい」
私の口から滑り出た言葉に、陛下もアルも息をのんだのが分かった。
「申し訳ない……」
「……人の命が助かったんですからね。今はいいですよ」
「……本当に感謝する」
無闇に責めたいわけでもない。
私の手に、温もりが添えられた。横を向くと、不安そうなアルが手を掴んだのだと分かった。捨てられた子犬のようなアルを見ていると、もう置いては帰れないと思う。
この世界に来て、たかが二ヶ月ほどの出来事だったのに。
「そこで聖女殿には城で不自由なく暮らして欲しいと思ってな」
城で? 話の方向を変えた国王陛下の方を向く。悪い提案だとは思っていないようだ。
「また、私の生活を奪うおつもりですか? 日本での生活を奪うだけでは飽き足らずに、ガーランドでの生活も奪うと?」
ふつふつと怒りがわいてきて低い声が出てしまう。自分がどんな顔をしているかなんてわからない。力の入ったアルの手に正気に引き戻された。
「陛下、礼を尽くすのであれば報奨でも地位でも渡せるではないですか。ミコさんはもう我が家の嫁なのでな、渡せというのであれば私も考えねばなるまい」
お父様が間に入ったというべきか加勢してくれて、肩の力が少し抜けた。
「私はそんなつもりなどなかったのだ」
「そんなつもりも何も、聖女を手元に置きたいと思ったのでしょう」
お父様の強い言葉に、陛下は言葉を失った。不敬だとか王命だとか言い出すこともなかった。
「先日まで臥せっていたから気が弱って、聖女にすがりたいのも分かりますが、シャンとしてください。それに、国民は聖女召喚のことは知らないし、陛下のお戻りを喜んでいます」
「……そうか」
国民という言葉に、憑き物が落ちたように、陛下は柔らかく笑った。
「私は国民のために、もっと頑張らねばならぬな」
陛下の言葉にお父様が頷き、それから姿勢を正した。
「陛下が民のために尽くすとおっしゃるならば、我がガーランドもレグナード王国の剣になりましょう」
「それは心強い」
話し合いが済むと、昼餐の用意がなされていた。第二王子——王太子との顔合わせがしたかったのかな。第二妃だった王妃と王太子も出席されていた。
彼も金髪碧眼の色合いだったけれど、いけ好かなかった元王太子と違って可愛い感じだった。背は高いけれど。
「陛下から聞きました。その節は陛下を救ってくださりありがとうございました」
柔和な感じで、微笑むと国王陛下に似ている。悪い人ではなさそうだけど、この王子様と何を話したらいいのか正直わからない。
「王太子殿下にまで言ってもらうと、照れます」
そんな話をしていると、扉が勢い良く開いた。
「私の花嫁が戻ってきたと聞いたんだが!」
音の方を向くと、元王太子がいた。くたびれているけれど、以前とそれほど変わらない容貌だ。
「おまえ、急にいなくなるから困ったぞ。痴話喧嘩を本気にして出ていくなんて。謝ったら許してやるから結婚しよう」
私はびっくりして、すぐに反応できなかった。私が何も言わないのでを受け入れたと思ったらしい。慌てたのは王太子の方。
「兄上! 何を言い出すのですか!
彼女は……」
兄弟喧嘩が始まりそうだ。そんな可愛いものではないけれど。落ち着きを取り戻した私は強く言い放つ。
「私はあなたの名前を知らないし、あなたも私の名前を知らないでしょう。痴話喧嘩もくそもありません!」
「貴様は俺様の妃として召喚したんだから、そんなことは関係ない」
口調が変わったけれど俺様とか痛すぎる。頭が痛いと思っていたら、国王陛下が立ち上がって元王太子に近づくと剣を突きつけた。え? 帯剣してたんだ。
「誰が、このバカを部屋から出した! 命があるだけありがたいと思わないのか。恥を重ねおって」




