第二十一話 新しい生活へ
「どっちから行こうね?」
翌朝、私はアルに軽く確認した。すると私の左手を取って、指先にキスをすると「もちろん宝飾店から」と言う。
こんな仕草が気障というか貴族的で、ドキッとするし面食らう。
「アル……」
「冒険者は腕輪を贈ることが多いんだけど、ミコには指輪を着けてほしい。あぁでも両方もいいかな」
「結婚バングル?」
「そう」
ここがゲームの世界なら、指輪は日本と同じで左手の薬指なのかな? シンプルな物がいいけれど、アルはどう考えているんだろう。辺境伯家の御用達店に行くのかな。
馬車が用意されていて、やっぱり高級店の多いところに向かった。お花のクッキーを買ったり、ドレスを買ったりした店の近くだ。
「お客様の指のサイズをお測りします。アルベルト様がご用意された石の指輪がこちらです」
店主が持ってきた指輪は、大きめの緑の石に、白い小さめの石が一つ添えられたシンプルでかわいいデザインだった。
「……かわいい」
いつから用意していたんだろう。数日前とは思えない。
緑の石はエメラルドのような四角いカットではなくて、角の少ないダイヤのような形で、添えられた白い石は透明度の高いムーンストーンのような丸い形だった。
「気に入ったようでよかった。昔に倒したドラゴンの逆鱗を加工してもらったんだ。大きいのは苦手だろうと思ったから、石は切り分けていてネックレスやピアスも作ってもらっている」
「まだ指輪しか加工ができておらず、申し訳ないです」
指に通してみると、違和感なく嵌めることができた。店の人が安堵したような気がした。
「サイズが合っていて良かったです」
身につけると、更に輝いたように見える。内側から光っているようで不思議だ。
「普段から身につけてほしい」
「……分かった」
宝石箱にしまっちゃダメみたい。普通の宝石じゃないから、魔法とか付与されてるのかなぁ。
「アルの指輪は?」
「俺の?」
「そう。薬指につけて既婚者と分かるように……」
「ミコの世界ではそういう習慣があるのか」
ぐっと言葉に詰まった。恥ずかしい。
「対の石は、剣に付けたんだけど、やはり予定通りバングルを買おう」
「男性向きの指輪もご用意できますよ」
「では、どちらも見せてくれ」
そうしてアルの薬指にはシンプルな金属のみの指輪が嵌められ、バングルはおそろいの金と銀で細工されたものを注文した。バングルにも小さめの石を添えられるので、石を選んだ。アルのバングルには黒い石、私のバングルには緑の石。
「バングルが出来上がるのが楽しみだ」
アルが満面の笑顔で言うので私も嬉しくなった。結婚した実感が、じんわりと湧き上がってくる。
「次は家だな」
「家なの? アパートみたいなのはないの?」
「アパート? もしかして部屋を借りるってこと?」
頷くと、アルは考えるようにしながら答えた。
「ミコは自分の部屋が欲しいと言っただろ? それぞれの部屋に寝室とリビングとなると家になるぞ」
「そうなんだ」
相槌を打ちつつも、寝室は一つなんだと、こっそり照れた。
「ガーランドの屋敷の離れに住んでもいいけど、ミコは銀星亭からあまり離れたくないだろ?」
「うん、ありがとう」
「家となると使用人も欲しいところだけど、どうしようかな」
んんん? 私は思わずギョッとした。
「使用人?」
「まずは通いでいいと思うけど、ミコには細かいことさせたくないし、冒険者も続けていくだろう?」
「そうね。向こうの世界では、ひとり暮らしで、全てやっていたけれど」
「こちらは、割と気軽に人に頼めるから無理しなくていいよ」
そうして、いくつかの物件を見せてもらって、庭のある大きめの家を借りることになった。
「ちょうどいい家があって良かった」
アルは満足しているけど、ちょっとした屋敷みたいに大きい。人の多い街中から外れているけど、その分土地があるみたいなのは日本の街並みと変わらない。
貴族が別荘用に建てて、代替わりして使わなくなった建物だそう。手入れはしていたようで思ったより綺麗だ。
「これだけ大きいと使用人が必要よね……」
「だから、そのつもりなんだよ」
感覚が違いすぎて、言葉が出なかった。この家は借りてもいいけれど、気に入ったら買い受けることもできるんだとか。
「この広さだと住み込みでも大丈夫だから、その条件でギルドで募集してみるかな。庭師も欲しいだろ? 薬草を育てられるし」
「まあ! それはいいわね」
薬草畑に釣られてしまったけれど、これから広いところに住むのかと思うと気後れするのだった。
慣れなきゃいけないかしらね。
ギルドに寄ってから銀星亭に帰って報告する。
「そうなの、あの屋敷にしたのかい。ガーランドのお屋敷より近いし嬉しいね」
女将さんの言葉に、やっぱり屋敷だったんだと思った。乗せられたのね?
でも立地条件も良かったし、慣れよう。
「もろもろ、用意ができたら引っ越すけど、それまでよろしく頼む」
アルが説明してくれて、銀星亭での暮らしが残り僅かになったのを実感した。当初の予定の一ヶ月は超えているので、ちょうどいいかもしれないけど、寂しいな。




