第十六話 渾身のプロポーズ
リラちゃん達のお別れ会は、おじさんが作ったからあげや、カツやミニグラタン、サラダの他、女将さんが作ったマドレーヌやクッキーが並んだ。それから、バナナ。
リラちゃんが、「あまーい、なんかふしぎー」と言いながら食べていたので珍しい食感だったのだろう。完熟で美味しかった。
お別れ会だったので、私とアルの口数が少ないことに不審がられることはなかった。
その夜、アルは約束通りやってきた。夜食と紅茶。お酒は持っていなかった。その事がアルの誠実さを物語っていて、少し苦しかった。どんな話になるんだろう。
「お酒はやめておいたんだけど良かった?」
「うん、大丈夫」
「お酒の勢いとか思われたくないからね」
「うん……」
机に紅茶とクッキー、サンドイッチが置かれた。緊張で喉が渇くので、一口紅茶を飲む。
「俺ね、ミコが好きだよ」
いきなりの言葉に頭が白くなりそうだ。でも今日は絶対聞かなきゃ。アルの真意を確かめるように見つめる。
「グリードに保護を頼まれた時、綺麗な人だなと思ったんだ。守らなきゃって気持ちもあったけど、それとは別に本物の聖女をガーランドにってずるい気持ちもあった」
「うん……」
「だけどミコと話すうちに、どんどん好きになったし、今は誰にも渡したくないと思ってる」
それは、ただの独占欲? それとも本当の好き?
「すぐには気持ちがなくてもいい。俺と結婚してくれないか? 婚約からじゃない、結婚してください」
初めて会った時、かっこいいなと思った。なんて親切なんだろうって会えなくなるのが残念だった。でも、恋愛として好きかはわからない。
「アル……。私はアルのことかっこいいと思ってる。でも、歳も知らないし、まだ会って間もないし、好きかどうかもわからない」
「うん」
「でも、この世界に来て追放されてから、アルのおかげで今がある。守ってもらってたの。よく知らない王子の所へ行くよりアルがいい」
アルの瞳が期待を込めたのが、わかった。ちゃんと求めてくれてるんだ。
「そんな私でもいい?」
「もちろんだ。ミコがいい。ミコに求められるよう頑張るから」
アルは私の手にそっと手を伸ばした。暖かさが移るよう。触れられても嫌じゃない。これから夫婦の関係を築き上げられるだろうか。
「歳はあまり変わらないと思うけど26なんだ。兄貴と8つ違う。他にも知りたいことがあったら答えるから」
「2つ年下……」
「……頼られるように頑張る」
「うん」
なぜか涙が出てきた。頼ってもいいって心が弱くなりそうで怖い。でも、温かい気持ちになる。
「明日、もう一度屋敷に行こう。それから届けを出してしまおう」
「この世界にも婚姻届があるの?」
「希望者や貴族は、教会に届けることになってる。貴族同士だと国にも届けないとだけど、ミコはどうだろう」
私は平民だよね。というかそもそも私の戸籍はあるの? いや、戸籍制度があるの?
「アルは次男だから平民になるのよね?」
「それが……Sランク冒険者は領地はないけど伯爵の扱いなんだよね。縛りだけあるみたいで面倒だよね」
「な……な……なん……」
その日は頭がパンクして泣いて、アルに一生懸命なだめられて気がつけば朝だった。泣き寝入りなんて、大人なのに恥ずかしい。
離さなかったらしい手が繋がれたまま、アルはベッド脇にいた。なんということか、アルは私の部屋で一夜を過ごしたのだった。
起き上がった拍子に、手が外れアルが目を覚ました。まつげが揺らぎ、緑の瞳の焦点がゆっくりと定まっていく。
「おはよう、ミコ」
ふにゃっと笑った顔が甘くて、私は胸の動悸が止まらなかった。
「お、おはよう」
ぎくしゃくと返事をすると、アルはハッと気づいてから、もう一度微笑んだ。
「部屋で着替えてくるよ」
「うん、私も着替えるね」
慌てて着替えると、銀星亭のに1階に向かった。今日はリラちゃんを見送る日。なんとか間に合った。
早朝だから、リラちゃんはまだ眠っていてレバンスさんに抱っこされていた。マチルダさんに手紙を書く約束をして別れの挨拶をした。
「ミコ、また会えるから。それに俺はずっとそばにいるから」
涙を拭われて、私は泣いていたことに気づいたのだった。
改めて、ガーランドの屋敷に行くと、辺境伯は興味深そうに笑った。
「昨日の今日で結婚を決めるとはな。焚きつけたかいがあったというものだ」
「これから教会に行ってくる」
「私達ももちろん行きますよ」
「母上?」
「さあさ、ミコトさんは着替えていらっしゃい。アルのことは皆わかってますよ」
夫人は、「私の着たもので悪いわね」と言ってシンプルで質の良いウエディングドレスを着せてくれた。素敵……。
今日からはお母様と呼ぶんですよとも言われた。もう会えないお母さん……私、異世界でお母さんができました。
「ミコ……」
部屋を出ると、そこにいたアルは名前だけ呼んで、それから泣いてしまった。綺麗だと褒めてほしかったけれど、これはこれですごくいい。私の旦那さんがかわいい。
「落ち着いたら行きますよ」
お母様の言葉で皆が動き出し馬車に乗った。
教会では誓いの言葉を司祭さんの後でそれぞれ復唱する。そのあとは、婚姻宣誓書に署名をした。
最後に、貴族ではよくあるらしいことだけども、宣誓書に魔力を流した。そうすることで結びつきを強くするらしい。これって物語に出てくる魔法契約じゃないの!?




