第十五話 辺境伯家での誘い
翌日、私はアルに頼み込んで服屋に寄ることにした。格式張らないと聞いていても、普段着は躊躇したからだ。前にリラちゃんと行った店に行こうとしたら、クッキーの店の近くの服屋に行くことになった。
「お似合いですよ」
店の人が勧めてくれたのは、品が良いワンピースだった。細かいフリルがついているものの派手ではなく、ペールグリーンの爽やかな色合いで、スカートも広がりすぎない。試着してみると、ちょうど良かった。
「うん。すごくいい」
アルは、言葉少なに褒めてくれた。こちらを見つめるアルの瞳が緑色なことに思い当たって、恥ずかしくなったけれど今更違うものにとも言えない。
店の人が軽く化粧をしましょうというので任せたら、思いのほか素敵に仕上がった。感謝だ。
なぜか靴まで揃えられて、馬車が迎えに来ていた。どういうこと?
「アルもかっこいい……」
「ありがとう」
私が化粧をしている間に着替えたらしいアルも、黒を刺し色に使ったライトグレーのキレイ目の格好になっていた。
まるで用意していたみたいだ。まさかね……
そうして会ったガーランド辺境伯は、年の頃は50代くらいの朗らかで元気そうなおじ様だった。夫人も優しそうだ。物語の辺境伯ってもっと軍人一家なイメージだけど、ほわっとしていてホッとした。
でも中学生くらいの美少年には驚いた。
「ルシアーノです。ミコさんに会いたかったです。父から話は聞いておりまして。」
「ガリアーノさんの息子さんって大きい!」
「口から全部出ているよ、ミコ」
アルの突っ込みに辺境伯が笑い出す。
「ガリアーノの長男でな、おそらく次期辺境伯だ。まあ私が元気だからね」
辺境伯は、まだお若いので一代飛ばすようなこともあるのかと思った。日本の天皇とは継承順が違うらしい。
「お元気なのは良いことです。ルシアーノ様も冒険者修行をされてるんですか?」
「僕はまだAランクですが冒険者はしています」
「Aランク!?」
私が驚いていると、辺境伯が説明してくれた。
「騎士団の訓練だけではこの地を治めるのに足りないんだよ。強い冒険者もいるからね。ガリアーノはギルド長が楽しくなったみたいだけど」
「僕は王都に行く前、あと二年のうちにSランクにならないといけないんです。学校があるから」
「学校って、家庭教師じゃだめなんですか?」
「今のところ貴族は皆、王都の学校に行くしかないんだよ」
乙女ゲームの物語みたいだけど、あれかな、江戸時代の参勤交代みたいにお金を使わせたり軽い人質扱いで、貴族に力を持たせすぎないようにするのかな。
「さあ、ちょうど良い時間ですから昼餐にしましょう」
夫人が声をかけてくれて、私達は食堂に移動した。
「ミコさんは、聖女様だけどこれからも冒険者をするのかい?」
「はい、その予定です。駄菓子屋も軌道に乗ってきて楽しいですし」
そうなのだ。いまさら聖女の仕事をしろと言われても困る。どういう仕事かもわからないけど。辺境伯の質問に答える。
「駄菓子というものは、どういうものなんだい?」
「駄菓子は、子供が食べるような安価なお菓子です。私が元いた世界で、そういうお菓子やちょっとしたおもちゃを売る駄菓子屋というのがあったんです。ものは違うけれど、それをイメージしたような可愛い物を売りたいと思いまして」
「なるほどねぇ、それで赤いジュースに緑のジュースみたいな名前のポーションなんだね」
「そうなんです」
「実に楽しそうでいい!」
辺境伯も朗らかに笑った。
「このままルシアーノのお嫁さんにならないか」
「え? ルシアーノ様?」
どう見ても13〜4歳よね。
「それは……犯罪では!?」
「ミコ、その言い方は……」
「だって未成年と付き合ったら罰せられる世界から来たのよ」
辺境伯はふぉっふおっふぉっと、朗らかに笑った。
「では、アルベルトで手を打とう」
「父上、お戯れが過ぎます。それについてはなんとかします」
「もたもたしておれんぞ。王子は王太子だけじゃないのだから」
え? 王子が他にいる?
ということは?
「国王陛下が聖女様を探している。ミコさんまで辿り着くのも時間の問題だろうね」
「あ……」
確かガリアーノさんが言っていたわ。
「ガリアーノさんはまだ探せていないって」
「だから、時間の問題なんだよ」
私は何も言葉が出なかった。
「辺境伯家としては、匿うならガリアーノの後妻か私の妾の方が都合がいいが、形だけの妻など嫌だろう?」
やはり辺境伯は、ただの朗らかなおじ様ではなかった。妾が妻かはさておき、本当は直系が都合いいってことか。王家に請われにくいから。
「とにかく今日はその話はなしでお願いします」
アルが苦しそうに言った。私は何かを言いたかったけれど、どうしても言葉をうまく選べなかった。
「そうだな。今日は果物を取りに来たんだったな」
辺境伯が手を叩くと、使用人さんが黄色い果物を持ってきた。バナナ!? 南国のフルーツが栽培できるのね。
他国に亡命かと思い詰めかけた頭がバナナで呼び戻された。
「夜中にでも話をしよう」
アルがそう言ってくれて、なんとか帰ってきた。




