第十二話 森へのピクニック
銀星亭に戻ると、女将さんはあっさりとアルベルトさんを迎えた。
「アルベルト様、戻られたんですね。歓迎しますよ」
「アルでいいですよ。また冒険者をします。ミコもどうかアルと呼んでください」
「アル……」
アルは、満足そうに微笑んだ。
「ミコおねぇちゃん?」
リラちゃんがやってきたので、アルを紹介する。ガリアーノさんとは知り合いだったけれど、アルは知らなさそう。王都にいたからかな?
「アルお兄ちゃん?」
「うん。今日からここに住ませてね」
「いいよ。アルお兄ちゃんも遊んでね」
リラちゃんは私とアルの顔を見比べながら言った。アルが頷くので、ピクニックの話をする。
「時々、ピクニックがてら薬草摘みに行っているんです」
「じゃあ明日にでも行こう」
「女将さんに、ごちそうを頼もうね」
もうあと何回行けるかわからないから、持っていく料理をリラちゃんの好物だらけにしたい。
やり取りを聞いていた女将さんは、張り切って快諾してくれた。作るのは主におじさんかもしれないけど、女将さんの作るお菓子も絶品なのだ。
翌日、いつもより大きなバスケットをアルが持って馬車に乗り、少し遠い森の方まで行った。リスやうさぎのような動物もいてのどかだ。
動物は、こちらが何もしなければ襲ってこない。森の奥に行けばわからないけど。
まずは敷布を広げる。
「慣れているんだね。いつもここに?」
「よく行くのは丘の方なの。あちらの方が安全そうで」
「確かにそうだ。あのウサギみたいなの、ウサギじゃないしね」
リラちゃんがウサギと言われた方を向く。
「かわいいよ?」
「何もしないと襲ってこないけど、ツノや歯が怖いから、触ろうとしないでね」
「うん! わかった」
食事はいつものバターロールサンドみたいなパンと、からあげに卵焼き。果物にプリンとマドレーヌがあった。からあげはきっとアルがいるからだ。パンに挟んであるものもいつもより肉々しい。
「今日もおいしいね」
リラちゃんがニコニコしながら、一生懸命ほおばっていて可愛い。
「おばあちゃんのプリンはおいしいの」
スプーンですくいながら、誇らしげにリラちゃんが言う。
「ほんと、とろとろで滑らかで美味しいわ」
「マドレーヌはあとにして、少し動こうか」
「うん!」
私達は薬草を摘んだ。リラちゃんも慣れたものだ。あっという間にバスケットがいっぱいになる。
今日は三人なので、追いかけっこもした。そうしていると森からこちらまで勢い良くツノの付いたウサギが走ってきた。
「ウサちゃんっ!」
気付いたときには迫っていて焦ったけれど、あっという間にアルが切り伏せた。血が……
「ホーリー……」
「待ってくれ」
「え?」
「こいつは食べられるぞ」
私は思わず繰り返した。
「食べられる……」
リラちゃんも目を丸くしつつウサギ(仮)を見ていた。怖がっている様子はなかったので、安心した。
「それより、こいつが逃げてきたみたいなのが気になる」
私は森の方を見つめた。
「とりあえず荷物をまとめて帰る用意をして」
「はい」
私とリラちゃんは、荷物をまとめることにした。と言っても敷布をバスケットに詰めるくらいだけれど。
アルは森の方に行ったので私達はしばらく待つことにした。程なくアルがクマのような動物を引きずって戻ってきた。ちょっと困った顔をしている。
「どうしようコレ」
「食べられるの?」
「まあ、割と美味しいけど」
「じゃあストレージに入れて持っていくわ。ストレージ、血まみれにならないかしら」
アルは少しだけ驚いた。
「聞いてたけど、ストレージまであるのか。そのままの状態で保管できるから血まみれにはならないと思うよ」
なるほど、とストレージにしまう。
「帰りにギルドに寄るから、そこからは先に二人は帰ってて」
「うん、わかった」
森に何かあったのかな。報告に行くのだろうな。とは思ったもののリラちゃんもいるし、クマ(仮)とウサギ(仮)も気になるのでまっすぐ帰った。
女将さんはとても驚いたけれど、その日の夜はクマ肉が振る舞われた。なんかもうストレージの事とか隠してないな、と今更なことを思うのだった。美味しいものには勝てないよね。
その夜、アルが部屋を訪ねてきた。日本人の感覚ではたいして遅い時間でもなかったけれど、夜って何か意味があるのかなと身構えた。
「話したいことがあって……」
「……なかなか二人になれないし」
などとポツポツ言うので部屋に入ってもらうことにした。お酒とコップもちゃっかり持ってきていた。私が下戸ならどうするつもりだったんだ。
「お話っていうのは……」
「森の奥にS級ダンジョンがあるんだ」
「S級……」
「良かったら様子を見に行くのに付き合ってくれないかと思って」
S級は、まだ行ったことはなかった。ゴクリと喉がなる。落ち着くためにコップを手に取った。一口飲む。
「まだ行ったことないんです。どれくらい難しいんですか」
「今のランクは? 俺がいるから規則的にも問題ないけど」
「Dランクです」
アルは、納得したように頷いて、続けた。
「B級のボスを倒せばCランクにはすぐ上がれるけどっていうのは置いておいて、俺がSランクだから問題ない」
「Sランク! ひょっとして王都に行く前に?」
「うん、ちなみに兄貴もだよ」
ガリアーノさんもなんだ。でもギルド長なんだから強いわよね。
「それで、魔物がどれくらいあふれているか確かめたいんだ」




