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まほろばホテルには神々が住まふ  作者: かこ


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初仕事

 宿泊客がいないと言っても仕事がないわけではない。普段は手の回らない雨戸の汚れを掃除したり、玄関先のタイルを磨いたり、裏の落ち葉を集めたりしたら、とっぷりと日は暮れていた。

 九十九も零も働き者で、人使いが荒い。子供とは思えない力で物を持ち上げては運び、よく動く。飾り物の瓶や額縁を磨く手は細心の注意を払うが、柚葉には容赦がなかった。

 丁寧に扱っているつもりなのに、そんな扱いしたら傷ができるだろう、と眉間にしわを作る九十九に注意され、零には冷たい目でごみを運べと戦力外扱いをされた。

 長年、宿屋で働いてきた矜持は、目の前のごみのように燻っている。


「これはこれはいい頃合いだ」


 膝を折っていた柚葉の斜め上から声が降ってきた。場違いな呑気さに誰の声だとわかったので、好きにさせてやるというのは建前で、相手をしたくなかったのが本音だ。

 分厚い半纏にふわもこな襟巻きまで巻いた支配人がいそいそと灰の下に唐芋を埋め始めた。木の枝で掘るので、袖に煤がつきそうだ。

 柚葉もさすがに見ていられなくなったので、土を被せようと行動される前に落ち葉を箒でかき集めた。

 落ち葉の下から白い煙が立ちのぼり始める。

 ほくほくとした顔で火にあたり始めた支配人は、気軽な調子で声をかけてきた。


「どう? 初仕事は」


 柚葉はまぁ、と言葉を濁した。行く宛がないので、やっていく自信がない、とは答えられない。舐めていたわけではないが、やはり女将にと言われたのは冗談だったのだろう。自分よりも年下のものを呆れさせるなんて、物心ついた頃から働く柚葉に取って許せなかった。

 客を相手にできない分、裏方の仕事は人一倍頑張って来たというのに。

 一番星が輝き始めた空に煙がのぼっていく。白い線は何処かで溶けて、闇に紛れてしまった。

 支配人に火の番を任せて九十九や零の所に戻ればいい。

 頭では分かっているが、柚葉は気付かない振りをした。数が少なくなった落ち葉を無駄に集めてみたりする。

 支配人は鼻歌を歌っていたかと思えば船を漕いでいた。冷たい風にくしゃみをして、鼻をすする。首を胴体にうめた鳩のような重装備の割りに効果は低いらしい。

 半分寝ていた眼が、かっと見開かれた。

 心臓が跳ね上がった柚葉の横で、芋が掘り返される。


「はい、熱いから気を付けて」


 焼き上がった芋からは甘い香りがする。

 柚葉は悩んだすえに、遠慮するのも悪いかと受け取った。

 痛いほどの熱を感じながら横を見れば、二つに折った芋をあちちちと幸せそうな顔で食べている。

 赤茶色の皮に包まれた黄金色からは煙とは違う白い湯気。

 腹が空いていた柚葉も我慢できなくなって、少しずつかじった。満足そうなため息に盗み見れば、三本はあったはずの芋の姿がない。

 目を白黒とさせる柚葉が物欲しそうに見えた支配人は真顔で口を開く。


「もうないよ」

「いやいやいやいや、いりませんよ」

「ま、今さらいると言われてもないけどね」

「夕飯、食べられるんですか」


 思わず訊けば、もちろんと胸を叩いた。


「今日は何かな。柚葉くんは聞いてない?」

「むにえる? らしいですよ」

「さっそく、食べにいこう!」


 今日一日、頑張ったんだしさ、と付け加えた支配人は手を袖にしまいこんで歩き始める。

 勢いに負けた柚葉は丸い背中を追いかけるはめになった。

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