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まほろばホテルには神々が住まふ  作者: かこ


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料理人×2

 すいとんを食べ終え、早速、仕事に取りかかろうと扉を開けようとした九十九は身を翻した。

 勢いよく開けられた扉が、柚葉の前髪をさらう。風呂敷包みが突進してきたことを見てとった九十九は脇に逃げると同時に柚葉の手を引いた。

 大きな風呂敷に腕が巻き付いている。

 既視感を覚えた柚葉はすまし顔の九十九を見下ろした。

 新入りは、度胸比べをされるものなのだろうか。

 筋骨隆々とした腕に相応しい、上背のある男が柚葉達には目もくれず通り過ぎていく。

 料理長がおかえり、と声をかけると、浮いた風呂敷が調理台に着地した。

 男の顔を見た柚葉は悲鳴を上げそうになるのを寸前で飲む込んだ。

 尖った目は眼光がするどく、人を殺したと確信してしまうほどの威圧を放つ。角ばった顎や険しい眉も相まって、余計に恐ろしく見えた。

 叫び出したい形相を目の当たりにした柚葉は密かに反省した。顔の造形で決めつけるべきではないと身に染みてわかっているはずなのに、間違った行動をしてしまった。あからさまに顔に出しては失礼だ。

 念入りに肝に命じている横で恐れ知らずの九十九が口を尖らす。


「前見て歩いてくれんと、怪我するに」


 年輩者に対する口調ではないが、腹を割って話せる間柄なのだろう。卸売りにしては着やすいし、荷運びが調理場まで勝手に突き進むのも考えにくかった。だとすれば、料理人の二人の内の一人だろう。

 不躾に見るわけにもいかず、柚葉はちらりちらりと盗み見た。

 九十九の方へ顔を向けた男が首をかいて謝る。


「九十九殿、いらっしゃったのか。すまんの、痛む前に運ばねばと思い、つい」

「つい、で潰されたらたまらんっちゃ」

「まぁ、そう目くじら立てずに。九十九殿とワシの仲だろう」

「美味い肉食わにゃ、腹の虫がおさまらん」


 九十九が冗談混じりに言えば、男があい分かったと請け負った。

 失礼、と後ろから声をかけられたのと、再び袖を引かれたのは一緒だった。低い声に驚いた柚葉は振り返り、さらに目を丸くする。

 瞳に映るのは、九十九と話している男と同じ顔の男だ。髪を項で結んでること以外、寸分の狂いもない。

 目と口を開いたまま、柚葉は背後の男を振り返り目の前の男に視線を戻した。やはり、全く一緒の別人がいる。もう一度、零に袖を引かれ端に寄った。

 髪をしばった男が肩の荷を下ろす。ビチリと跳ねた中身は、魚らしい。

 すいとんをよそっていた料理長は、散切り頭の料理人に支配人に持っていくように声をかけて、魚を品定めする。


「いいのが獲れたね」

「運がよかっただけでしょう」


 妙な所で謙虚だねぇと笑った料理長が包丁を取り出してきた。慣れた手付きで刃を入れて、下処理を済ませていく。

 男は洗い物を始めた。二人の料理人がいると聞いていたが、下積みらしい。

 二人の方が、よほど料亭の料理長のような風格なのに、と考えた柚葉は自分を諫めた。先程、見た目で判断しては駄目だと誓ったばかりなのに片寄った見方が胡座(あぐら)をかいている。

 九十九は今にも踊り出しそうな勢いで料理長の手元に目を輝かせる。


「今日の晩飯は焼き魚け?」

「ムニエル、てやつに挑戦しようかね」

「むにえる! ようわからんけんど、うまそうだ! はよ仕事終わらせてしまお」


 九十九にも零にも袖を引かれ、柚葉は調理場を後にした。



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