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第8話 家族

 



 しばらく歩いて、広場に着いた。

 人が溢れていて、みんな避難してきたってことだろう。


「―――ミーヴ、大丈夫だったか!? 怠惰級ベルフェゴールが出たらしいじゃないか!」


 その中の、ソワソワした様子の1人の男が駆け寄ってきた。

 緑色の短髪が印象的で、温和な顔立ちは、焦りと嬉しさが混ざっている。


「お父さん!」


 ミーヴが駆け出す。お互いに抱き締め合って、喜びを確かめ合っている。




 ―――怠惰級ベルフェゴール、か。

 あの神官は憤怒級サタンと言っていたけど、そうか、俺以外はまだ聞いていないのか。


 よく分からないけど、あれは相当ヤバい状況だったんだろう。

 実際、かなりヤバかった。


「―――ん? 誰だい、この子?」


 ミーヴのお父さんが、後ろで見ている俺に気づいた。


「アルタだよ、悪魔に立ち向かって私たちを守ろうとしてくれたの」


「こんにちは、アルタです」


「おぉ、娘を守ろうと? それは、ありがとう、本当にありがとう」


「いや、あのままだったら負けてましたよ。神官様が来てなかったら今頃......」


「神官様が......? いや、今は助かったことが大事だ。―――ミーヴ、今ナリアを呼んでくる、ここで待ってなさい」


 そう言って、ミーヴの父さんが人混みの方に走っていく。


「ナリア......っていうのは、姉妹?」


「え? あぁいや、違うよ、ナリアはお母さんの名前。お父さんはそう呼んでるの」


 へぇ、ミーヴのお母さんか。綺麗な人なんだろうな、娘のミーヴが綺麗な顔立ちだもんな。

 さっきまで倒れていたから、今はちょっと汚れてるけど。


「あれ? お父さんの名前は?」


「バルシーだよ」




 ▶▷▶▷▶▷




 ミーヴに色々と質問攻めしてたら、バルシーが1人の女性を連れて戻ってきた。


 あの人がナリアか。

 思ってた通り、綺麗な人だ。

 青色の髪は、ミーヴよりも深く、みつあみに纏められている。




「―――ほら、こっちだ。言ったろ、ミーヴは生きてるって」


「ミーヴ! 良かった、本当に良かったわ......」


 ナリアが駆け寄ってきて、ミーヴを抱き締める。

 ミーヴの方はというと、ナリアの頭をポフポフ撫でたりしてる。



「―――あなたがアルタくんね。バルシーから聞いたわ、娘を守ってくれて、本当にありがとう」


 ナリアがこっちに向けて頭を下げた。

 そのあとにバルシーも来た。




「アルタくんのご両親にも会いたいな、是非感謝を伝えたい」


 バルシーが言った。両親に会いたい―――俺もできることなら会いたい。


 広場に一瞬冷たい風が吹いた。


「死にましたよ......2人とも」


 なるべく悲しみを出さないように話したつもりだ。

 それでも、やっぱり完全に隠すことはできなかったらしい。

 バルシーもナリアも、表情が一瞬で曇った。



「それは......残念ね。でも、あなただけでも生き延びたんだから、ご両親の分も生きましょう?」


 生き延びた? ―――あぁ、あの悪魔に殺されたって解釈したのか。

 まぁ1回死んだけど、「生き延びた」ようなものだし、直さなくてもいいかな。


「いや、もう気持ちに区切りはついてますよ。気にしないでください」


 気持ちに区切りがついてるなんていうのは嘘だ。

 なんとしてもあの天使に復讐する。そうしないと気がすまない。このチャンスは逃したくない。


「アルタ? どうかしたの?」


 ミーヴが口を開いた。その声で我に返り、拳に力がこもっていることに気づいた。


「―――それなら、うちの村で暮らさないか? 改めてお礼もしたい」


 バルシーがそんな提案をしてきた。

 いいかもしれない。それなら宿を借りる必要もなくなるし、自分1人だけだと不安なこともある。

 あ、でも―――


「俺はいいですげど、ミーヴの意見も―――」


 俺はミーヴの方に目を向ける。

 そうすると、


「私は全然いいよ?」


 ミーヴはあっさり了承した。



「あら、馬車が来たわ。そろそろ帰りましょ」


 ナリアが見ている方から馬車が来た。

 馬車に乗って、ミーヴたちの住む村まで向かう。





 馬車に乗っている間に聞いたことだが、バルシーもナリアも、ミーヴがいじめられていたことは知らなかったらしい。


 その事について聞いたとき、また抱き締めていた。




 ▶▷▶▷▶▷




 ミーヴの家に来て、1週間くらい経った。

 村の人たちにも紹介してもらって、いい感じに生活できている。


 そんなあくる日、ミーヴの魂術の練習に付き合っていた時のこと。



「―――え、待って待って。今までどうやって生きてきたの? 知らないこと多すぎない?」


「いや、えっと......昔から世間知らずでさ、俺」


 ミーヴに魂術とその他諸々について質問攻めしてたら、彼女の口からそんな言葉が飛び出してきた。


 もともと、ミーヴに聞くんじゃなくてバルシーに本を借りて常識を身に付けようと思ってたけど、なんか小難しいことしか書いてなかった。


 だから仕方なくミーヴに聞くことにしたが......いけない、もっとゆっくり個別に聞くべきだったか。



「いや世間知らずだとしても―――分かったよ、教えてあげる。ちょっと長くなるけど、いい?」


「あぁ、教えてくれ」


 本をめくりながら説明を始めるミーヴを凝視する。


「じゃあまず―――」




 説明を要約するとこうだ。


 まず[天使の三術]。

 これは体術、刃術、魂術の3つの術のことで、ミーヴは魂術使いを目指しているそうだ。


 体術は己の肉体のみで戦う術で、俺は体術使いにあたる。


 刃術は刃がついたもので戦う術で、例えば剣とか、槍とか、斧とか、あとはナイフとかも刃術使いにあたる、使用者が1番多い術らしい。


 そして、魂術。ミーヴはこれについては他2つより熱心だった。

 なんでも、魂を取り囲む[魂気]というエネルギーを使って超常現象を引き起こす術だとか。

 やっぱり、前世で言う魔法みたいなものだ。



「天使の三術ね。おっけ、分かった。これからも聞きたいことあったら聞かせてもらっていいか?」


「うん、いいよ―――あ、できた!」


 ミーヴが白い歯を見せて微笑んだ。

 その後、喜びと同時に焦りを見せる。




 その時俺は、ミーヴが放った魂術が頭に当たっていた。




 ▶▷▶▷▶▷




 月がよく光る夜、俺は家の玄関にこっそり向かう。

 何故か? 神殿に行くからだ。生命神はいつでも来ていいって言ってたし、大丈夫......だと思う。


 まぁダメそうだったらすぐに帰ればいいだろう。


 バルシーとナリアには、朝居なくても気にしないでと言ってあるから、遅くなっても問題ない。


「行ってきまぁす......」


 ドアの開く音と一緒に、小さめの声で呟いた。

 あの街からこの村まで来るのに乗った馬車は、夜も運行されてるらしいから、それに乗ればすぐに着く。


 ズサズサと、舗装されてない道に足音を立てる。

 この道は、前世で父さんと歩いたあの道に似ている。


 横に畑があって、昼間にここを通れば、村人たちが挨拶してくれる。


 もっとも、前世の場合はあの老父1人であの畑を受け持っていた―――いやあの人すごいな......70歳くらい行ってただろうに。



「よし、着いた」


 前に馬車を降りた場所に来たが、馬車は無かった。

 まだ来てないのか。

 そう思ってると、ゴロゴロと遠くから音が聞こえてきた。

 音がした方を向くと、馬車がゆっくりとこっちに進んできた。


 馬車は目の前に止まった。

 乗ると、中には俺の他に3人しかいなかった。こんな夜だし、当然と言えば当然だ。


 ゴロゴロという音が、再び響き出す。空には月が輝いていた。




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