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第9話 神のみぞ知る

 



 アルタが、ミーヴの魂術の練習に付き合っていた頃。




 ▶▷▶▷▶▷




「―――、73番世界、日本に生まれる。周囲との関係は上手く行かず、小さな悪行も数多く―――」


 全体的に赤い部屋、そこで淡々と資料を読む男がいた。

 ペンを持ち、赤い部屋とは対照的な青い目が、左から右へ左から右へと動く。


「―――最期はトラックに轢かれて死亡、と」


 男―――閻魔神が、最後の行を書き終えた。


「なぁ! アンタ! 俺は転生とかするのか!?」


 さて、その空間には、もう1人男がいた。体型は肥満で、髪はボサボサ。ついでに剃っていない髭が不規則に生えている。



「まぁ、そうですね。少年期などは善行もゼロではありませんし......」


 閻魔神が答えた時。

 最後まで言い切る少し前。


「おッしゃぁあ!」


 男が、飛び上がって喜びをあらわにした。


「キミ、ちょっとうるさいよ。転生すんならさっさと頭出して」


 部屋の隅で閻魔裁判を聴いていた生命神が、男の方に歩いてきた。


「お? この流れはチート選択か? そうだなぁ、どんなのがいいか―――」


「何言ってんの、そんなもんないよ」


 その言葉に、男の表情が一気に青ざめる。

 男は震えた声で言う。


「......は? い、いや、俺は転生するんだろ? それならチートが―――」


「なんでそうなるの」


「前世の記憶とチートで無双......」


「記憶? あぁ、無くなるよ、転生したら、記憶」


「......は?」


 男の表情は、もはや青ざめるなんて言葉では足りないほどになった。


 男は逃げた。

 この部屋に来た時に見た、反対側のドア。

 日頃の運動不足を感じさせる足取りで、そこに逃げ込む。


「手間かけさせないでよ、まったく。じゃあ始めるよ」


「ア、あガ、オぁ」


 いつの間に目の前に立っていた生命神の手が、男の頭を掴んでいた。

 男は何とか抵抗するが、その手はビクともしない。


 男の体が消え始めた。足、膝、腰、胸―――やがて頭まで消え、男の魂は跡形もなく消えた。




「73番世界には変な人間が多いですね。この間も似たようなことを言う者がいませんでしたか?」


「そーねー。そういえば、あの世界に遊びに行ったときにそういう漫画がいくつもあったよ」


「だからですか。だったら随分と転生についてナメられてますよ」


「ホントだよ。命のなんたるかを分かってない」


 仕事が1つ終わり、2人の神が談笑している。

 死者の溜場に続く扉は、まだ開かない。


「―――アルタさんの両親のこと、伝えていないそうですね」


「......」


 閻魔神のそんな問い掛けに、生命神か一瞬固まる。


「私にはよく分かりませんが、あの者の魂は天使に似ているのでしょう? ならば―――」


「......親の片方は天使、でしょ? 分かってるよ」


 生命神は、閻魔神の反対側に視線を落とす。


 分かっていたことである。アルタの親、片方は天使だ。

 そうでなければあんな魂の存在はあり得ない。


 しかし、生命神はそれを伝えなかった。

 同時にこう考えていたのだ。


 この事を話しては悪い、と。


 前例の無い天使と人間のハーフに興味が湧いたという都合で、知る必要の無い真実を伝えるのは良くない。


 アルタは両親の転生を信じている。


 勝手な理由で生かして、本来知らずに済んだことをわざわざ伝えてしまうのは酷だと思っていたのだ。


「もう1週間が経っています。この分だと、人間の方の魂も既に消滅してるでしょう」


「そうだよね、う~ん......やっぱり伝えた方が良いかな?」


 生命神が、うつむいて言う。


「それはあなた次第でしょう。私は干渉しませんよ」


「え~」


 生命神は悩む。

 腕を組み、普段の楽観的な態度とはうって変わって考える。


 本来知らずに済んだことを、わざわざ伝える必要はあるのか。

 しかし、アルタは何かやることがあると言っていた。

 内容は知らないし、特段知るつもりもないが、しばらく天世界で過ごすだろう。


 それならいつか伝える時は来る。

 早いうちに伝えた方がいいかもしれない。


「―――分かった、伝えるよ、ボクの口から」


「それがいいでしょう」


 部屋に2人分の声が響く。


 溜場に繋がる扉の向こうでは、数多くの天使が死者を探している。




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