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第7話 悪魔

 



 街の大通りまで来た。雰囲気としては、前世で何回か行った、王都に似てる。


 少女の表情も、さっきより明るくなった気がする。


 あ、というかまだ名前聞いてなかったな。


「そういえば、名前は? 俺はアルタ」


「あ、まだ言ってなかったよね。私、ミーヴ」


 少女、ミーヴはそう言って微笑んだ。

 俺はまだ訊きたいことがあるので、質問を続ける。


「あのさ、さっき使ってたあの[魂術]っていうの、あれ何なんだ?」


 俺がそう訊くと、ミーヴは不思議そうな顔をした。


「......? えっと、私、波動現象フェノミンとあともう1つだけ使えるけど、他のはまだ使えなくて......」


 あんまりよく伝わらなかったようだ。

 その[魂術]っていうのが何なのか訊きたかったんだけど。


 まだ魂術が何なのか分からないまま、俺たちは1つの露店に着いた。


「おじさん、これ下さい。あとこれも―――」


 ミーヴと、商人らしいおじさんのやり取りを聞きつつ―――いや、おじさんといっても、外見は30代前半くらいだ。


 俺は街の方を見てみた。


 たくさんの通行人がいるが、その全員に羽は生えていない。


 やっぱり、普段は羽を出さずに生活しているってことなのか。


 おかげでミーヴは羽が無いことがバレていない。



 それと、人々の服装は前世と変わらない。

 もしかしたら、常識もそんなに変わらないかもしれない。


 それだったらありがたい。新しく常識を覚えるのは大変そうだからな。




「―――ねぇ、おじさん。おじさん?」


「あ、ア、うご......」



 何かおかしい感じがしたのでミーヴたちの方を向くと、心配そうにおじさんを見ているミーヴと、何だか苦しそうなおじさんが目に映った。


 うつろな目で、焦点が定まっていない......


「あ、あの、おじさん、大丈夫ですか? 誰か呼びましょうか?」


「ぐァ......ごゴ」



 グチャ、バキッ......バキッ



「ヒッ!」


「おわっ!」


 おじさんの体が、嫌な音を立てて左右に裂けた。

 中からは黒く、禍々しい腕が出てくる。

 続いて足、胴、頭が出てきて、それ(・・)が姿を現した。


 俺はミーヴの手を取って後ろに飛び退く。

 何事かと思って、周りの天使が集まってきた。


「......随分と集まっテるナぁ」


 それ(・・)が言葉を発した。その言葉には圧倒的な威圧感があった。



「悪魔だ!」      


「今喋ったわ!」

「知性個体だ!」


「逃げろ!」


 通行人たちが、我先にと逃げ出す。


 他の人を押し退ける者。

 子供を抱き抱えて逃げる者。

 彼らは10秒とたたないうちに、ほとんど見えなくなってしまった。


「ハッ、ハッ、あァ」


 ミーヴは腰を抜かして、その場にへたり込み、過呼吸になってしまっている。


「よっと!」


「へぁ!?」


 俺はミーヴを担いで、一目散に逃げる。

 なんとなく、あの天使よりは弱い気がする。

 それでも今は逃げるしかない。

 あの天使より弱くても、俺よりは強い。

 それに今はミーヴがいる。早く逃げないと―――



 ドォォォン!



 背後から爆発音が聞こえた。次の瞬間、凄まじい爆風が襲い、その場にいた全員が建物の壁に叩きつけられる。


「ごはっ!」


 俺の体は壁にぶつかり、痛みが全身をめぐる。

 悪魔と呼ばれたモノが、カタカタと足音を立てて近づいてくる。


「......ぐっ、ふっ!」


 何とか立ち上がり、体に何とか力を込める。

 ミーヴは気絶して、視界の端に映っている。

 他の人は、何人か意識はあるようでも、動けずにその場に倒れている。


「ンだ? 動けたのはオまえだけかァ?」


 悪魔が口を開く。口の中の、白色の宝石が輝いている。


 ―――やるしかない。奴はもう目の前まで来てる。今から逃げても間に合わない。


 俺は1歩踏み出し、構える。

 悪魔は構わずカタカタと歩いてくる。足音の1つ1つが、頭の中に響く。



 1歩、また1歩。



「何してるんだ......怠惰級ベルフェゴールだぞ......動けるなら逃げろ......!」


 倒れているうちの1人が、捻り出したような低い声で俺に向けて叫ぶ。

 悪魔がその声に振り向く。腕を振り上げる。その腕が声の主に振り下ろされ―――



「―――ふっ!」


「ダっふ!」


 何とか間に合った。

 俺は悪魔を蹴り飛ばした。


「チっ......気ぃ抜きスギたかぁ? おマえ、オもしれエことすんジゃねぇ......かァ!」


 悪魔が動いた。

 速い! 父さんよりも格段に―――


「ごべぁ!」


 悪魔の拳が、腹に食い込む。さっきの爆風とは比べ物にならない激痛が体を襲う。

 吹っ飛ばされて、悪魔この距離が遠くなる。しかし悪魔は目の前まで一瞬距離を詰めてきた。


 ん? あれ、でも―――



「ごブっ!」


 俺は悪魔の追撃を流して、自分の拳を叩き込む。

 さっきは見えても反応できなかったのに、今度はできた。

 でもなんでできたかは後だ。とにかく、奴の動きがさっきより遅く見えた。

 今はそれでいい。


 がら空きになった腹にもう一発、渾身の一撃を決める。

 悪魔は後ろに2、3歩よろけて、飛び退く。


「......やるジゃねぇカ。おマえ、他とはちっとチゲぇなぁ? ―――いイだろウ」


 そう言い終わってから、悪魔の体が変形し始めた。


 頭が裏返り、口の中があらわになる。

 白色の宝石が黒く染まっていく。

 1秒、2秒、3秒。黒い体が深みを増していく間、俺は何も動けなかった。


「......っだはぁ! いいネェ、チカラを解放すルのは!」


 その瞬間、とてつもない殺気が周囲を襲う。


「あ、あの色......まさか、そんな......」


 まだ意識を保っていた1人が、そう言った後に気絶する。


 ―――分かる。勝てない。さっきのとは全く別物だ。


 俺は膝から崩れ落ちた。身を包む圧倒的な殺気に耐えられなかった。


「ヒャヒャヒャヒャ! どうしタ? もう立てナいのかァ!?」


 悪魔が大声で叫ぶ。

 遠くにあった悪魔の足が、目の前に飛んできた。


 ヤバい、死ぬ。


「―――すまなかったな、少年。よく1人で耐えた。あとは任せろ」


「え?」


 視界は、白く輝く羽に染まっていた。

 その羽の持ち主は、金髪の髪をなびかせ、銀色の剣を持つ女天使だと分かった。

 その天使の服装は見たことがある。

 それはタディスと同じものだった。


「あァ? 誰だ? オまえ」


 悪魔の足が、斬られていた。いつの間に飛び退いていた悪魔は、斬られた右足を再生させながら言う。


「私は時空神様の神官天使だ。その黒の色石、憤怒級サタンだな。今からお前を殺す、覚悟しろ」


「何が神官だぁ? ここにいる全員、オれの糧にしテクれ―――」


 一瞬だった。何も見えなかった。


 剣を持ち、構え、走りだし、斬る。

 その間の工程を全部すっ飛ばしたように、女天使がバラバラ(・・・・)の悪魔の先に立っていた。


「ぐ......ギぎ......そん......バカ......な」


 悪魔はそれだけ言って溶けだした。シュワ~と音を立てて、ひび割れた道に白い煙を立たせる。


 剣を鞘にしまって、女天使が歩いてくる。

 俺の前で、膝をつく。


「じっとしてろ。魂術『鎮痛現象ペインリーフ』」


 その瞬間、体がお湯に包まれるような暖かさに撫でられる。

 全身から痛みが引いて、出血も止まり、体が楽になる。


「すまない、私にできるのはそれだけだ。じゃあな、少年」


 そう言って女天使は飛び去る。


 助かった。本当に危なかった。あの人が来なかったら、多分死んでいた。

 さっき時空神の神官天使、とか言ってたし、神殿に行ったときに会えたらお礼を言いたい。



「んぅ......?」


 ミーヴが起きた。俺はすぐに駆け寄る。

 その間に、他の人も次々に起きた。


「ミーヴ、大丈夫か?」


「あ、アルタ。うん、大丈―――うわっ!」


 ミーヴが後ずさった。

 それもそうか、今の俺はズタボロ。

 傷だらけで、むしろこっちが大丈夫か訊かれるのが自然だ。


「何その傷......そっちこそ大丈夫なの?」


「あぁ、うん。俺が戦っていて殺されそうになった時に、神官......様?が来てくれて、悪魔を倒してくれた」


「そっか、神官様が......でもアルタも守ってくれてたんだね。ありがとう、2回も助けてくれて。その傷、治すよ」


「治せるのか?」


「うん、もう1つ使えるって言ったでしょ?」


 そう言ってミーヴは手を向ける。

 目を瞑って、集中しているみたいだ。


「―――魂術『治癒現象ヒーリング』」


 ミーヴ言い終わると、傷が緑色に光った。

 その光はだんだんおさまって、光が完全に消えたときには、傷も消えていた。


「ふぅ、ふぅ、これで大丈夫だよ」


 傷が治ると、ミーヴは息切れしていた。

 空き地で魂術を使ったときも疲れたみたいだし、魂術って使うと疲れるらしい。

 前世の魔法みたいなものか。


「ありがとうな」


 ひび割れてボロボロになった大通りに、白い煙が昇っていた。




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