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第5話 別れ

 



 神殿ここに来てから3日たった。

 さっき仕事から帰ってきた生命神から、ちょくちょく質問しつつ、また話を聞いた。


 ここまでで印象深かったものというと、


 Q俺は絶対に転生できないのか。

 A分からない。完全に天使の魂じゃないから、頑張ればできるかもしれない。


 Q父さんと母さんは見つかったか。

 A見つかっていない。もう魂が消滅している可能性もある。


 Q生命神、と呼んでいるが、名前は何というのか。

 A無い。天世五魂神になった天使は、元の名前を失い、天使だった頃の記憶を忘れる。


 といったところか。


 転生できる可能性を聴いたとき、俺は胸に喜びが湧いた。しかしその喜びは、すぐに沈み、代わりにあせりと恐怖が湧いた。


 父さんと母さんは見つかったか。というの質問に、生命神は見つかっていないと答えた。

 しかも、もう魂が消滅している可能性もあるとか言われた。


 そもそも、俺が溜場あそこに行ってすぐに連れていかれたのは、偶然近くに天使がいただけで、彷徨うだけ彷徨ってそのまま消滅することも少なくないらしい。


 消滅には時間がかかるが、それでもあせる気持ちは止まらない。


 そして、生命神について。

 ずっと生命神と呼んでいて、本名が気になっていたが、なんと名前は無いそうだ。


 五魂神になった天使は名前を失い、家族の事も忘れるとのこと。


 嫌じゃないのかと訊いたら、「なりたくてなったし、文句はないね」と言われた。




 ▶▷▶▷▶▷




「―――え? 出ていきたい?」


「はい、どうしてもやりたいことがあるんです」


 さて、今は生命神と夕食を食べに来ているところだ。俺の言葉に、生命神は驚いた様子で言った。


「なんで? やっぱりタディスのこと?

 だったら―――」


「いや、そういう訳じゃ―――それも少しありますけど、これは自分でやらないといけないことなので、それで気持ちに区切りをつけるために。ただ―――」


「ただ?」


「それが終わったら、俺を転生させてほしいんです」


「......ふーん」


 ―――まずい。怒らせてしまっただろうか。

 タディスに聴かれたら人間の分際で、とかで怒られそう(殺されそう)だからここで話したが、やっぱり神に願うなんておこがましいのか。


「―――分かった、いいよ。でもいきなりだと無理だから、定期的にここに来てよ。話はつけとくからさ」


 思い違いだったらしい。

 生命神はいつもと何ら変わらない声色で言い放った。


「分かりました。では明日にでも出ていきたいと思います」


「うん。あ、お金必要だよね? いっぱい用意しようか?」


「いや、1人がしばらく生きていけるくらいの額で結構です」


「そっか。分かった、じゃあ明日ね」


「はい、色々とありがとうございました」




 ▶▷▶▷▶▷




 話を終え、夕食も食べ終えた俺は、部屋に戻り、部屋を掃除していた。


「カーテンはこれでいい......か」


 掃除といっても、そんな大層なものではなく、見回して気になるところを少し直す程度だ。

 そもそも、そんなに汚れまくる程ハチャメチャなことはしていない。


「はー......ふう」


 俺は明日、ここを出ていく。

 生命神は少し寂しそうだった。命の神として、天使の魂と似ている俺の魂は興味をひくらしい。


 それでも、俺にはやること事がある。

 家族殺しの天使(あいつ)を殺す、俺の手で。


 父さんと母さんの魂は、まだ見つかっていない。


 もう魂が消滅している可能性もある―――いや、考えるのはよそう、きっと見つかる。


 そう、見つかるんだ。

 普通に、全うに生きていたのに、それで殺されて人生終了。そんなの許せない。


 父さんも母さんも、どこか別の世界で違う命として生まれても、その方がまだいい。


 俺もどこか違う世界に、いつかは転生する。



 考えていると、まぶたが重くなってきた。月明かりの通った部屋の天井が黒く染まっていく。


 今頃、生命神から話を聴いたタディスが喜んでいることだろう。




 ▶▷▶▷▶▷




「―――アルタ様、生命神様からこれを」


「はい、ありがとうございます」


 目が覚めて、身支度を整えた俺は今、1人のメイドから、資金を貰っているところだ。

 生命神本人は、仕事で今は閻魔神のところに行っている。



「他には何か?」


 メイドが問い掛けてきた。

 でもそれは善意というより、

「もうこれでいいよね?」って感じだった。


「......じゃあ、『今までありがとうございました』と生命神様に伝えてください」


「かしこまりました。では、出口までご案内いたします」


 メイドはクルっと後ろを向き、落ち着いた足どりで歩いていく。俺も後ろを着いていく。


 ちなみにこのメイドは実見た目の4倍くらいの年齢があるらしい。


 朝、生命神から聞いたことだが、天使はたまに

「長命種」という寿命が長い者が生まれるそうだ。


 普通は人間と変わらない100年くらいの寿命だが、千とか万とか、何なら億とか生きるものもいるとか。



 広間を抜け、階段を降りる。

 正面玄関を出て、石造りの道を歩いて行く。


 すれ違ったメイドが何人かいたが、みんな俺を見たら少し眉をひそめた。


 歩いた先には5本の柱で囲まれた円形の石があり、その上に、黒で不思議な模様が描いてある。



「こちらです。どうぞお乗りください」


 メイドが言った。俺は言われた通りに3段ほどの階段を上り、メイドの方を向き直った。


「―――あなたに五魂の加護があらんことを」


 そう言ってメイドは、その羽を体の前側に回し、一礼した。これは天使の正しい挨拶で、この2日で何度も見た。


 その挨拶も、言われたからやるだけで、自分の意思じゃないように見える。

[五魂の加護]というのも、なんかあんまり感情が籠っている感じがしなかった。


 天使の羽については、もう怖いと感じない。

 3日間見続けていたし、天世界ここで生きるなら、羽を見るたびにいちいち怯える訳にもいかない。


 そこで黒い模様が光だした。視界が1秒ほど白く染まり、少しずつ晴れてきた。


 視界に映っていたのは、木々が生えそむる森と、そのなかを続く一本道だった。




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