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第3話 人間

 



 目が覚めると、俺はベッドで寝ていた。


 夢だったのかと思ったが、その考えはすぐに捨てた。


 どう見ても俺の部屋じゃないからだ。

 今は夜のようだが、月明かりが通っていて、ある程度なら見える。

 部屋は全体的に白くて、綺麗にされている。


 俺の部屋は汚くなかったとは思うが、綺麗とは言い切れない。


 俺の部屋じゃないということは、転生したのか。


 だが記憶がある。

 生命神の話では、転生したら前世の記憶は無くなるとのこと。

 たまに記憶が消えない者もいるらしいが、そもそも俺の体は15年間見慣れた物と変わっていなかった。


そのとき、部屋のドアが開けられた。


「......起きたか」


 そこには1人の天使が見えた。

 金髪碧眼と、刃物より鋭い目の男。

 その声は不機嫌さを隠そうともしていない。


 一見普通に立っているが、気を抜けば今にも襲い掛かってきそうだ。

 彼は冷淡な目でこっちを見た。


「......えっと、ここはどこですか?」


 だが彼は俺の態度が気に食わなかったのか、「チッ」と舌打ちをし、ますます不機嫌そうになった。


「俺には敬語か。......今すぐ起きて正座して待っていろ」


 彼はバタンっと音を立ててドアを閉めて出て行った。

 そのとき彼の背中の羽が目に映り、俺は身震いした。

 やっぱりあの羽は怖い。


 彼の態度についても相まって、言われた通りに急いでベッドから降りて正座した。


 改めて部屋を見てみると、綺麗にされていると思っていた部屋は、パッと見はやっぱり綺麗だ。

 でも、よく見ると所々に雑物が目立つ。


 そんなことを考えていたら、部屋のドアが勢いよく開けられた。


「起きたー?」


 ドアが開くと同時に見えたのは、あの生命神だった。

 しかし溜場で会った時とは違って、ネグリジェを着たラフな格好をしている。


 彼女は手近なクッションにポンと座り、続いて彼も入ってくる。


「えっと、俺は転生したんじゃ―――ヒっ!」


 俺が質問しようとすると、ドアの近くに立っていた彼がおぞましい程の殺気を放っていた。

「俺には敬語を使うんだな」ってのはこの事か!?

 あまりの圧に、一瞬フラっとした。


「やめてタディス。ボクはなんとも思ってないから。この子消滅しちゃうでしょ」


 殺気ダダ漏れの彼―――タディスを、生命神が止めた。

 一瞬、キッと睨んだ後、タディスの殺気が小さくなっていく。


「えっと、俺は転生したはずでは......?」


 慎重に言葉を選び、質問した。

 タディスの方は「まだマシか」といった感じでため息をついた。


 完全には許してくれないらしい。



「転生ね......それがさ、キミ、転生できなかったんだよね」


「できなかっ......?」


 思わず聞き返した。

 俺は転生することになって、生命神が俺を生まれ変わらせた。そういう話だったはず。


「うん。ボクもあんなイレギュラーが起きたのは初めてでさ、倒れたキミを放置する訳にも行かないから、とりあえずウチ連れてきたの」


「は、はぁ」


 困惑している俺を差し置き、生命神は話を進める。


「ま、いきなりこんなとこに連れてきた責任はボクが持つさ。しばらく泊まってくれよて構わないぜ?」


「は!? よろしいのですか!? このような無礼者」


 生命神の泊まれという提案に反対したのは、さっきから俺を冷たい視線で刺し殺していたタディスだ。


「うん、別に今から追い出すのも酷だしね。ボクもそろそろ寝るから、部屋用意して」


「......承知しました」


 彼は不満そうに言い、部屋を後にした。


「―――あ、もう正座やめていいよ。タディスはボクへの敬愛がすごく強いんだ。ボクへの不敬は許さないんだって。それで何回か天使を殺しかけたこともあるしね」


 唖然とした俺の個とが見えてないような勢いで、生命神は言う。


「そのベッド使っていいよ。大丈夫大丈夫」


 それだけ言って、生命神は部屋を出た。


 眠い。さっきまでも気絶《寝て》いたが、どうしたものか......

 生命神は大丈夫って言ってたが、やっぱりタディスは怖い。


 俺は迷った挙げ句、最終的には床で寝た。




 ▶▷▶▷▶▷




「うぅ......ふぁあぁ」


 窓から射し込む日光に晒され、俺は目が覚めた。


 ここは......そうだった、転生できなくて、生命神に引き取られたんだった。


 イタタ......迷った挙句、結局床で寝たので、体の節々が痛い。

 まぁタディスに殺されるよりはいいか。


 ふと机の方に目を向けると、「これどうぞ」と書いた紙と服が置いてあった。


 そういえば俺は今服を着ていない。昨日は無かったし、生命神が置いていってくれたのか......

 あれ? 俺裸であんな子と話してたの? 



 ガチャン 



 俺がガサゴソしながらショックを受けていると、ドアが開いた。

 一瞬身構えたが、その必要は無さそうだった。


「おはよ。あ、その服着てくれた? 裸じゃ悪いもんね。朝ごはんできてるから、早く食べに行こ」


 入ってきたのは生命神だった。今度はネグリジェではなく、溜場であった時の格好をしている。


 幸いズボンは履いていたので、恥ずかしさは薄かった。

 俺は急いで袖に手を通し、彼女の案内に着いていく。


「あの......」


「ん?」


「俺ずっと裸だったんですか?」


 彼女は「あ~」と言って上を向いた。


「魂はあの状態が超自然だからね。言われなきゃ気付かないくらい馴染んでたんだよ」


 そういうものか。



 部屋を出ると、豪華な作りの廊下だった。

 白い壁にたくさんの柱が並んでいて、床には紺色のカーペットが続いている。


 その廊下を出て、広間を抜け、俺たちは食堂に着いた。見てみると、閻魔神ともう1人知らない女が、既に朝食を食べていた。


「おや、その人も連れてきたのですか」


 こっちに気づいた閻魔神が、話し掛けてきた。


「うん、ついでに話したいこともあるしね―――」


 その後も彼らは話していた。

 そんな時、メイド服を着た天使が近づいて来た。


 つまみ出されるのかと思ったが、そんな考えとは裏腹に「只今食事をお持ちします。お掛けになってお待ち下さい」と言って椅子を引いてくれた。


 だが、なんだか俺を見ている時の表情がほんの少し険しいような気がする。

 気のせいだと願いたい。


 俺は少しおどおどしつつも腰掛けた。


「―――分かってるって。お待たせ、さ、食べよ食べよ」


 閻魔神と会話を終えた生命神が俺の向かいの席に座った。同時にさっきのメイドと他数人が料理を持ってきた。




 ▶▷▶▷▶▷




 ―――めっちゃ美味しかった。

 最初は緊張していたが、生命神に勧められてひと口食べたらもう止まらなかった。


 食べ終わってから食事のマナーとかを気にしてしまったが、生命神を見たらなんか大丈夫そうだった。


「―――ごちそうさま。食べ終わったところで、キミに話があるんだ」


「はい?」


 生命神も食べ終え、メイドが食器を片付けていく。

 閻魔神は既にいなくなっていて、あの女は今から出ていくところだ。




「キミ......」


 生命神が口を開いた。




「人間じゃないよ」




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