鈴の音は唯一の愛を響かせる
「ねぇ大地くん、ちょっと話いいかな?」
「もちろん構わないよ」
優輝がこの世を去ってから数日後の放課後。ちょうど夏休み直前の期末テスト真っ最中だったと思う。
オレは鈴奈と話をすることになった。
「少し、場所を変えよっか」
そう言うと鈴奈はオレの前を歩き出した。
「いいけど、どこにする?」
「屋上かな」
「あそこ鍵しまってるけど」
「でもハサミで簡単に開けられる……でしょ?」
「……そうだね」
オレはその言葉を聞いて内心驚いていた。
そのことを知っているのはオレと恵美だけだと思っていたからだ。
「私には《世界の記憶》があるからね」
オレの疑問を見透かしたかのように鈴奈は答える。
階段を登りながら鈴奈は話を続ける。
「あそこには、たくさんの記憶があるの。私じゃない私の思い出がたくさん詰まってる」
「そっか」
「この学校は《世界》によって高校だったり中学だったり小学校だったりするの。内装はそれぞれ若干違うんだけどね」
そうして一番上までたどり着くと、鍵を開けて屋上に出る。
鈴奈は屋上の端まで行くと、胸に手を当てて言った。
「綺麗な景色……私が来るのは初めてなんだよね」
オレの地元は北と南の高低差が激しい。
北に行けば行くほど高く南に行けば行くほど低いのだ。
学校は町の北側に位置しており、屋上から町が見渡せる。
「……あっ」
突然吹いた風に、黄金の髪がなびく。
鈴奈は手で髪をかき上げながら、俺の方に振り返る。
そのあおい瞳は、オレの心を見るように、真っ直ぐオレの瞳を見ていた。
「………《この世界》のテルくんは、私の事をどう思ってたのかな?」
あおい瞳を、長い睫毛を、黄金の髪を、オレは知っている。
「優輝が事故にあったあの日、あいつは、鈴奈の事を好きだってオレに言ったよ」
「………そっか」
流れる涙の意味を、オレは知っている。
「その言葉を聞けてよかったよ。それだけで、私はこの先七十年、一人で生きていける。それ以上は……ちょっと難しいかもだけど」
「……そうか」
悲しい微笑みの意味を、オレは知った。
「重いって、テルくんに言われないかな?」
「……そんな事はないよ。あいつも、鈴奈しか見てなかったよ」
「そっか……そうだったら、うれしいな」
鈴奈はもう一度、オレに背を向けて町を見渡した。
その姿は、オレの中で誰かと重なった。
「鈴奈……君はもしかして……」
鈴奈は振り返らなかった。
ただ真っ直ぐ町を見渡す彼女に、オレは言った。
「ルーシーなんじゃないか?」




