《その日》ifルート
「うっ……」
気がつくと僕は大の字でビルの屋上でに倒れていた。
「……ここはどこだ?」
ぼんやりとした意識の中、辺りを見渡しすと自分がビル屋上にいることを把握した。夜だったが夏なので暑く、汗もかいていた。
『あれは夢だったのか……?』
僕はふらつく足に力を込め強引に立ち上がった。立ちくらみで少しフラフラした。
「……病院に帰るか」
頭がぐらつくのでどれぐらい寝ていたのか心配になりケータイの時計を見た 。
「あれ?」
しかし時計を見ると病院を出てからそう時間はたってなかった。
『ルーシー?』
僕はもしやと思い、夢に出てきた神の名を呼んでみたがなにも起こらなかった。
『やっぱり夢だったか……』
病院に帰った僕は優輝の所にいくことにした。
しかしそこに泣いていた恵美はいなかった。それだけではない。手術中の優輝もいなかった。
『どういうことだ?』
訳が分からなくなった僕は一度病院を出てから恵美に電話することにした。よく考えたら恵美が病院内にいたら電話が出来ない事に気がついた。しかし恵実からすぐに反応があった。
「もしもし、僕だけど」
「ん、どうしたの?」
恵美の妙に明るい声に僕は戸惑ったがそのまま質問することにした 。
「えっと……優輝は?」
「うん? 優輝がどうかしたの?」
「いや、えっと……」
どういうことなのか、サッパリわからなかった。頭を回転させようとするが空回りばかりした。
「大丈夫?」
「……え、ああ」
戸惑う僕に恵美は不安になったようだった 。
「とりあえず優輝に電話してみたら?」
「……そう、だな。そうするよ」
僕はお休みを告げ電話を切った。
『もしかして……』
一つだけこの現象を説明できる可能性があることを思い出した。僕は心を落ち着けてから優輝に電話した。ボタンを押す手がプルプルと震えた。
プルルル……プルルル……
そんな音が一時間にも二時間にも感じた。ドクンドクンと心臓の音が馬鹿みたいに大きく聞こえた。手がびしょぬれになるぐらい汗がにじんだ。落ち着けたはずだった心はすでにどうしようもないぐらい熱くなっていた。
「どうした? 相棒」
心臓が弾け飛ぶかと思った。僕は声が震えないように注意してゆっくりと答えた。
「いや、なんでもない」
「……声震えてんぞ。何かあったのか?」
僕の異変を一発で看破されてしまった。一体なんなんだこいつの鋭さは。やっぱり優輝には敵わないと思った。声が震えている事がばれてしまっては誤魔化しづらいので少しだけ事情を話すことにした。
「……死んだと思ってた友人が生きてたんだ」
語尾がまた少し震えてしまった。情けないな。
「そうか……よかったな」
涙と鼻水でボロボロになった顔で僕は微笑んでいた。
「ああ……本当によかった」
優輝との会話を終え僕はふたたび彼女を呼ぶことにした。
『いるんでしょう? ルーシー』
『サプラーーイズ!! どう? 喜んでくれた?』
今度はすぐに返事が返ってきた。言葉だけでニコニコしてることがわかった。なんていうか、本当に《創造》を司る者か?と疑いたくなった。
『……』
『あれ……? もしかして不機嫌……かな?』
安心のルーシークオリティだ。突然別の《世界》に連れてこられた身にもなってほしい。
『別に怒ってませんよ。むしろ感謝してます』
『本当に? よかったー』
ルーシーは安心したみたいだった。こういう時は子供っぽい。うん? 大人っぽさが少ない? なに、気にすることはない。
とりあえず僕は家に帰ることにした。自室に戻ると僕は状況の整理を始めた。
『ここが《向こうの世界》なのは優輝がいる時点であきらかだ。分からないことは元の世界と何がどのように違うのか、だな……』
『ルーシー曰くここは僕が望んだ《世界》だから僕の望みがなんなのかを理解してから明日から違いを調べればいいだろう』
自分の望みを理解する事は簡単なようで難しい。深層心理まで読み切れないからだ。人間とは素直じゃない生き物だ。
しばらく自分の望みを考えモンモンとしているとふと別のことが気になってきた。
『ルーシー、思ったんですけど《向こうの世界》って呼び方は変じゃないですか?もうすでにここにいるので《向こう》では無いですし』
『じゃあ名前を考えてみたらどう?』
『そうですね。《向こう》とか《こっち》とかややこしいし』
ということで《向こうの世界》の名前を考えてみることにした。ややこしいな。
『うーん……《裏世界》』
『移動した時見たと思うけど《世界》の形は球体よ。裏も表も無いわ』
『じゃあ《セカンドワールド》』
『あなたにとっては二つ目だけど私にとっては違うわ』
ルーシーは文句ばっかり言っていたがその通りなのでしょうがない。彼女が創った世界だし、拘りもあるだろう。
『ルーシーは何かアイデアはないですか?』
『うーん……《イチオクゴセンキュウヒャクナナジュウゴマンヨンセン……』
『長いです』
どんだけ《世界》創ってるんだ。フリー○様の戦闘力より高い。
『確かにそうね……』
『うーん……他にも考えてみよう』
他にも色々二人でアイデアを出しあった。テセ○ラ、アインクラ○ド、エレ○ピオス、ソウルソサエテ○、精神と時○部屋、分子世○…おっとこれ以上はやめておこう。ともかく、どれもしっくりこなかった。パクリだし。
何かいいアイデアがないか、と部屋を見渡してみたらゲームの攻略本が目に入った。そのゲームはマルチエンディング(結末が複数ある事)だった。そしてマルチエンディングではもしものエンディングの事をこういうことが多いのだ。
『ifルート、なんてどうですか?』
『if、もしも……ね』
ルーシーは少しだけ悲しい顔をした。この時の僕はその顔の理由はわからなかった。
『そうね。そうしましょうか』
『そうなると僕のもともといた《世界》はなんて呼びましょう?』
『うーん……普通に《元の世界》でいいんじゃない?』
『それだと《元の世界》に帰った時に不憫じゃないですか?』
『あなたが《元の世界》に戻った時は私と別れる時よ。その後の心配は必要ないよ』
『……そっか』
僕は少しさみしいと感じた。ルーシーと別れることはもちろんだが、彼女は何億もこの出逢いと別れを繰り返してきたのだ。それは辛いことだろう。この感情も、勿論ルーシーに伝わった。
『優しいね。それとも寂しがりやさんなのかな?』
少し茶化すようにルーシーは答える。
心配するなと言うように。
子供を落ち着かせる親のように。
自分は大丈夫だと言うように。
『さあ、どうでしょう』
『……そろそろ接続を切るね。ずっと心が繋がってるのも不憫でしょ? おやすみなさい』
『おやすみなさい』
最後にルーシーは少し嬉しそうに付け加えたのだった。
『ありがとう』




