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ifルート《あおい空から始まる物語》  作者: 三角
外伝《あの頃と今》
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曖昧な少女

 クラスで一人か二人、必ずいる、居るのか居ないのかわからない、存在が曖昧な人。私はソレになりたかった。

 私は生まれながらにして《世界》の存在を知っていた。あらゆる世界の自分の記憶、《世界の記憶》が共有できた。どうして《世界の記憶》を私が持っているのか、理由は分からない。

 当然だがこの力の事は誰にも信じてもらえない。信じれる方がすごいと思う。それこそ、《世界》の存在を知ってる人でもなければね。

 意外なことかもしれないが、私は他の人たちが《世界の記憶》を持っていないと気づくのに時間がかかった。具体的には幼稚園で気がついた。みんな知っていると思って話していると変な目で見られたものだ。

 だからお母さんに相談した。


「みんなは《世界の記憶》を持っていないの?」


 どうやらお母さんはビックリしたみたいだった。

 当然だ。自分の娘がそんなことを言い出したら普通驚く。

 お母さんは少し悩んだ後、真剣な眼差しで答えた。


「それは誰にもない、鈴奈だけの力なの。だから他の人に話しちゃダメよ」


 お母さんは私の力を、言葉を信じ、否定することなくそう言った。

 それからお母さん以外には誰にも《世界の記憶》を話さなかった。その代わり、お母さんにはいっぱい《世界》の事をお話した。お母さんはどんな現実離れをした話でも絶対に信じてくれた。

 そのことがたまらなく嬉しくて毎日のように《世界》の話をした。

 ところが小学校五年生の時だ。私は《世界の記憶》をこちらの記憶と勘違いし半ば未来予知紛いな事をしてしたしまった。

 その予知紛いな行動は私をクラスのヒーローにした。

 調子にのった私はお母さんには内緒で次々に未来予知紛いな行為を繰り返した。

 最初はヒーローになったような気分になれた。

 だけど次第にみんなは私の力の異常性に無意識に気がつき始め、私を避けていった。

 当然だ。未知の力には恐怖がまとわりつく。誰だって知らないモノは怖いし、関わりたくない。


 そうして、私は孤立した。


 私が登校して席につくとみんなが影で囁くのだ。バケモノ、アクマ、キモイ、ドッカイケ、マジョ、シネ。そして机にはサインペンで大きな文字で……


「もう嫌だ、聞きたくない。見たくない!」


 学校に行かなくなった私は家を飛び出した。どこかに逃げよう、誰にも見つからない場所で静かに過ごそう、そんな思いを抱きながらとにかく走った。

 気がつくと森の中だった。夢中になって走ってる内に迷ったらしい。

 しばらく歩いていると流石に疲れてしまった。

 適当に倒れている木に腰掛けると空腹でお腹が鳴った。

 暗い、どこだか分からない森。幼い私の心を不安感が満たしていく。とうとう私は耐えきれなくなって大声で泣き出した。

 もう、自分の居場所は無いと、そう思った。

 その事実が耐えられなくて私はまた歩き出した。なんとかして家に戻ろうと。お母さんのいる家へ帰ろうと。

 だけど完全に迷子になっていた私は家の場所も、ここがどこなのかも分からずただ闇雲に歩くしかなかった。なんとか森を出ることができた私は暗い夜道をトボトボと歩いていた。全く知らない道を独り歩いていた。

 このまま一人、誰にも見つからないまま死んでいくのかな……そんな考えが心にこびりつく。それから、私は歩みを止めた。諦めたくなった。自分が歩く意味が、分からなくなってしまった。だって、あそこに戻っても、何があるわけでもないでしょ?


 そんな時だ。()が現れたのは。


「どうした?こんなところで。迷子か?」


 真っ暗な夜道、街灯の光に照らされながら無邪気に微笑む少年がいた。少年の見せたその真っ白な笑顔に私は惹かれた。純粋に笑う人の顔を、久しぶりに見た気がした。

 しかし、私は久しぶりに向けられた他人からの善意に、少なからず困惑した。向けられた善意をどうやって受け止めればいいのか分からずに、私は善意を拒んだ。扱い方の分からない何かを、私は拒んだ。


「……ほうっておいて」


 自身の知りえないモノに、分からないもモノに、人間は自然と恐怖心を抱く。たとえどんなに自分に有益なモノでも、正体がわからなければ、それは自身の害になる可能性を内包したままだからだ。

 そう、人は善意にさえ恐怖を抱く。

 しかし私のそっけない言葉に、少年はヘソを曲げることなく話を続けた。


「そういう訳にはいかないな。だって困ってる人を助けるのが正義の味方なんだぜ」


 少年はそう言うと、ゆっくりと私に向かって歩き出した。街灯の光から離れた少年は私の元まで来るとまた、あの笑顔で微笑んだ。


「そんじゃ行こうぜ。家まで送ってやるよ」


 そう言った後、少年は私に手を差し伸べてくれた。


「……帰りたくない」


 だけど、私は手を取ろうとしなかった。少年の気持ちはすごく嬉しかった。見ず知らずの私を助けてくれると言ってくれたし、ここまで優しくしてくれる他人は、他にいなかったから。

 だけど、彼の手を取る事はあの孤独に戻るという事だ。

 少年は私の表情を見て察したのか手を戻す。それから道路のブロックに腰を下ろすとポンポンと自分の隣のブロックを叩き、私に座るように促す。私は歩き続けた疲れもあり、素直に彼の横に座った。


「何か嫌な事でもあったのか?」


 少年は星のない夜空を見上げながら優しい口調で私に言った。

 普段の私なら答えることは無かったと思うが、この時は心も体も疲れきってしまっていたのでつい全部話してしまった。信じてもらえるとは思わなかったが、二度と会うことはないと思ったのでどんなことを言っても構わないと思ってしまった。


「なるほど……《世界の記憶》か……」


 しかし、彼は当たり前のように私の言葉を信じてくれた。

 その事に驚いた私は少年へ質問をした。


「……キミは人を疑わないんだね」

「そんな事はない。ただ、その《世界》ってやつの存在は俺も知ってた。実際に見た事はないが、存在は信じてる」


 でなければ、俺はここにいないだろう。


 そう彼は寂しげに呟いた。その言葉の意味はわからなかった。ただ、何か大切なものを失ってしまったかのような、その表情に私の心は大きく揺れた。


「話がそれちまったな」


 少年はそう言うと月が綺麗な夜空を見上げて言った。


「大丈夫だ。お前の周りにいる人は別に敵じゃあない。ただ知らない何かに怯えているだけだ。さっきまでのお前みたいに」


 そう言うと、少年は勢いよく立ち上がった。それから私の方へ手を伸ばしながら言った。


「お前はいいやつだ。本当の自分をもっと出してみろよ。そうすれば、きっとお前にも友達ができるはずさ」

「どうしてそんな事わかるの?」

「わかるさ」


 少年は私の手を掴み、引っ張り上げる。


「俺はもう、お前の友達だから」


 その言葉は私を闇から救い出した。触れ合った手はお互いの温度()を伝え合う。


 あぁ、きっと、私は彼に逢うために生まれてきたのだろう。そう思えた。

 だから、私は曖昧な人になるのをやめた。曖昧ではあの少年の隣にはいられないから。



 ◆



「それが鈴奈と優輝くんの出会い?」

「うん! かっこいいでしょ〜」


 目の前に座る金髪碧目の少女、鈴奈は嬉しそうにニコニコと無邪気に笑う。

 私こと(こう)は小学校からの友人である鈴奈と高校の食堂でランチをしていた。

 彼女には《世界の記憶》と呼ばれる特別な力がある。

 だからと言って彼女自身が特別かと言われるとそう言うわけではなく、ただの恋する天然少女だったりする。二年生になった今でも変わらず『テルくんと一緒の高校に行きたかったー』と日々嘆いている。

 ついでに私の思い人こと蒼也さんと、鈴奈の中学時代からの友人の優輝くんと大地くんは同じ高校に通っているらしい。鈴奈が三人と同じ高校に通えなかった理由は男子校だから。同じ学校に行けないのは当然と言えば当然かな。


「かっこいいけど、正直謎だらけだね。なんで優輝くんは《世界》の存在を知ってるんだろ?」

「確証は無いんだけど、きっとこの《世界》が《ifルート》なのが鍵かもしれないね」


 鈴奈の言葉に私は首をかしげる。


「でもこの《世界》を創ったのは大地くんの願いなんでしょ?」

「うん。でも、同じことをテルくんがしてたら?」


 その言葉の意味を、私はイマイチ理解できなかった。《ifルート》は大地くんの願いでルーシーが創り、《元の世界》はルーシーが自分で創った《世界》。それなら優輝くんは《世界の創造》には干渉してないってことになる。


「あれ?」


 一つ、大きな違和感を感じた。そのことを言葉にしようとしたがやめた。なぜだか、その先を知ってしまうと、誰かが悲しむ気がしたから。


「……もうこんな時間」

「そろそろ教室に戻ろっか」


 食堂から教室に戻る途中、窓から空を見上げた。この空の向こうに別の《世界》があって、別の私たちが生活をしてる。そう考えるとなんだか変な気分だ。


「私と蒼也さん、別の《世界》でも仲良くできてるといいな」


 運命の赤い糸、なんてロマンチックな物はないかもしれない。けれど、鈴奈と優輝くんを見ていると信じてみたくなってしまう。


 人と人との繋がりを、信じたくなってしまう。

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