どうでもいい思い出話
「ナンパしよう」
全ては優輝の一言から始まった。
「……優輝はなんでいつもそう突然なんだ」
ため息を一つ、大きな物をして大袈裟にイヤデスアピールをしてみる。この時、確か中学最初の金曜日の昼休みだった。弁当の……なんだったか忘れたが適当な物を口に放り込んで僕は言った。
「とりあえずなぜそんな事を思いついたのか話してみてくれ」
「いや〜俺たちようやく中学生になったわけじゃん? だったら大人の階段を一歩登ってもいいかな、と思いました」
そこでナンパをチョイスする優輝のセンスが分からないが動機はつかめた。大人になった気でいるあたりやはりあの頃の僕らは確かに子供だったんだな、と思う。
とにかく僕はナンパなんてしたくなかったのでなんとか優輝を説得してみる事にした。
「いやいや、僕らは入学したてなんだよ。つまりほぼ小六だ。普通に考えて大人の階段を登るにはちと早すぎるんじゃないか」
「善は急げ、だぜ」
「世の中には急がば回れ、っていうことわざもあってだな」
「男は常に全力疾走!」
「スピードじゃなくて道のりの話をしてるんだよ」
「お前はいつまでたっても堅物だな〜」
「これが普通なんだよ」
優輝は両手を大袈裟に広げヤレヤレダゼ、と首を振る。
「お前、中学生となったんだからちょっとは自分を変えてみようって思わないのか」
当時の僕はまだ普通になりたいと考えており、自分の中では普通に変化していると思っていたので地味に優輝のセリフは傷ついた。
「……自分に合わない変化はしたくないだけだ」
「そこだよ!」
僕に向かって真っ直ぐ箸を差しながら優輝は真剣な口調で言った。行儀悪い。
「お前はもっとフレンドリーに振る舞えたほうがいいんじゃないか? ただでさえ人見知りで心の壁作るタイプなんだしさ。これを機に自分を変えてみたらどうだ?」
「う〜ん、一理あるか……な? 確かにもう少しスキンシップを上手くするのが普通か」
ない。だいたいナンパで自分を変えようという発想がどうかしてる。が、当時の僕はやすやすと優輝の都合のいいセリフに騙された。
「そうとなれば練習してみっか。おーい恵美。ちょっと練習台になってくれ」
「え……」
何故そうなるのか。僕と優輝は出席番号順なので席が近かったが恵美は少し離れていた。恵美は優輝に呼ばれると弁当を持って僕らの席まで来た。ちなみにこの時はまだロングヘアーだな。事情を知らない恵美に優輝が事情を話すと彼女はため息をついた。
「あんた馬鹿なの?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。さて始めるぞ」
不満げな恵美は僕を見て言う。
「止めないの?」
「僕じゃ無理だ」
む〜、と恵美は可愛らしく唸っていたが優輝は気にせず始める。
「んじゃ相棒からな」
「えぇ! こういうのは普通言い出しっぺからじゃないのか!?」
「じゃあジャンケンな」
「よし!」
僕ら二人はコォォォォォオ、となにか特別な呼吸法をしながら気合を溜める。
「なんで男子はジャンケンにここまで本気になれるの」
『負けるわけには……いかないッ!!』
「「最初は─────!!」」
落とされた火蓋。二人の勇者は見守る姫の秘めたる想いとは裏腹に今、激突する……‼︎
「……やっぱり僕なのか」
ハイ、負けました。もちろんジャンケンは常に平等なので文句は言えない。恵美でナンパの練習をするのは正直罰ゲーム以外の何物でもないが仕方がない。全力を尽くすのみだ。そんな訳でナンパの練習が始まった。
「えと、その〜」
「……なによ」
「いえ、その、あの………そう! そこのカフェでお茶でも飲みませんか?」
「遠慮しておきます」
「デスヨネー」
「ダメダメだな」
優輝の言う通りだ。相手が恵美だというのにこの体たらく。知らない人相手にナンパするのに知ってる人相手でコレじゃ無理だろう。
「相棒の仇は俺が取ってやろう!」
「僕的にはこんな事をさせた原因であるお前が仇なんだが」
元気よく始めようとする優輝を見る恵美の顔は少し赤く染まっていた。僕は少し胸が痛くなるのを感じたが、気づかないフリをして自分を騙すことにした。いや、騙せた事にした。
そしてついに優輝のナンパが始まった。
「ヘイ! そこの彼女! そこのイカした茶店でティーをシェアしようぜ!」
迷言誕生の瞬間である。
「「ぶふぅッ!!」」
「な、なんだよ二人揃って吹き出したりして…」
「いや、だって……ぷっ」
「酷すぎる……ヤバい堪えられない……っ!」
僕らは耐えられずに声を上げて爆笑してしまった。自信満々に演技した優輝は笑われているわけがわからなかったようだ。
「何がおかしいんだよ!」
「だって、優輝とキャラあってないし…あはははは!!」
「ティーをシェアしちゃダメだろ! ティータイムをシェアしろよ!」
「う、うるせー! ちょっとバカっぽい方がモテるんだよ。で答えはどうなんだよ恵美!」
「遠慮しておきます」
「デスヨネー」
そんなこんなで昼休みを丸々バカな事に費やし、挙句帰路まで続けバカなノリのまま土曜日になった。
「別に恵美までついてくる必要はないんだぞ……」
「あんた達だけじゃ心配だからついてきてやっただけよ……変なオンナに捕まらなければそれでいいし」
どうやら恵美は本気で実行するとは思ってなかったのか、少しご機嫌斜めなようだった。
「……さて、誰をナンパするんだ?」
場所は駅の近くの繁華街。僕はナンパのセオリーを知らないがまぁ悪いところではないだろう、たぶん。
優輝は辺りを見渡すとある一人の女性を指差した。
「よし、あの人からやってみよう」
制服を着た女性だった。スタイルもまぁまぁいいし、顔立ちも整っている。
「高校生かな?」
「まぁ初陣だ、当たって砕けるか」
「そうだね」
僕は恵美の事が好きだったし結果はどうでもよかった。いや、まぁ冗談でやってることだし上手くいくわけがないと知っていたので本当に僕はボケっとしていた。
しかし、現実は僕らの想像を凌駕した。
「ヘイ! そこの彼女! ちょっとティータイムをシェアしない?」
謎の口調をそのままにセリフを少しだけだけアレンジして挑む優輝。だらだらと冷や汗をかきながら硬直する優輝は見ていて新鮮なものだった。優輝の声に振り向いた女子高生はじっと優輝の顔を見つめる。優輝の顔を見てついて行くか否かを判断しているのか……そう思ったその時だ。誰もが予想できなかった言葉が返ってきた。
「あれ? 優輝くんよね? うちの生徒の」
何故他校の制服を着ているのに優輝の事を《うちの生徒》と呼ぶのか疑問に思った。しかし、その後の一言が僕らをさらなる奈落へ突き落とす。
「ん、分からない? 私よ私。ヒントはあなたのクラスの担任やってる」
その瞬間、僕ら三人は状況を理解し同時に凍りついた。教師が生徒がいる可能性のある街中でコスプレなんてしないでください。いやいや、それ以前にいい年して高校生の格好なんてするなよ。
「……ヒトチガイデスヨ」
優輝はなんとか言葉を捻り出すが逆効果だった。先生はニヤニヤと笑いながら優輝の顔を覗き込む。
「……ふんふん、なるほど。人違い、か。なら問題ないわね。あなたの言う通りそこの喫茶店でお茶でもしながら話しましょうか。お友達も一緒に」
「……マジか」
まさか僕らの存在に気がついてたとは思いもよらなかった。バレてしまっては仕方がないので僕と恵美も表に出た。
「あ、やっぱりいたんだ。学校で三人一緒に固まってるのを見たんでもしやと思ったらアタリね。おっと、人違いだったんだっけ?」
愉快に笑う先生に僕らはもう呆然と立ち尽くすしかなかった。
「まぁまぁそんなにビビらなくても大丈夫よ。学校にも報告しないし。ただ私のこの姿を見られたからにはタダでは帰らせないけど……ね」
不敵に笑う先生。これから起きるであろう惨劇を想像し僕らは同時に叫んだ。
「ま、魔王だ────!!」
これが僕らと担任の先生、通称魔王との出会いだ。
外伝第一回は魔王との出会い。本編でもっと魔王を活躍させてあげたかったんですけど話に深く関われないキャラなのであまり活躍の機会があげれませんでした。
正直今後の外伝でもあまり出番は無いかも。好きなキャラではあるんですけど仕方がないですね。




