《狭間》特別だった少年
死に直面した少年は、自らのその特別さを誰よりも嫌った。
他の人間と違うから嫌われる。誰とも違うから避けられる。だから他の人間と同じに、誰とも同じに……
何もかもが普通の人間になりたかった。
その願いはどんな願いよりも歪みで、歪で、歪んだ願いだった。
もちろん、普通になりたいと言う願いは誰もが抱く当然の願望だ。しかし、少年の願いには個がなかった。自分はどう在りたいか、その思いが完全に欠落していたのだ。自分の願いのない人生など、自分の人生とは呼べない。ただの偽物にすぎない。
そんな歪みな少年を人は避けた。どこかがおかしいと無意識に感じ取ったからだ。
そこからは泥沼だ。少年は避けられれば避けられるほど普通になろうと足掻き、少年が普通になればなるほど人はより一層避ける。
しかし、少年はその事にいつまでたっても気がつかない。特別な環境下で普通に過ごすことは、何よりも異常な状態なのだということに気がつかない。
ではどうしたら少年は普通になれたのだろうか。答えはとても簡単で、それでいてなぜか難しい。
そう、
少年はただ一言「つらい、助けて」と救いを求めるだけでよかったのだ。それだけで少年は普通になれた。それだけで人と繋がれた。それだけで自分を知ることができた。
それだけで少年は自分を手にできた。
◆
「……ここは?」
気がつくと真っ白な空間に僕は浮いていた。周囲が真っ白な所為で距離感がまったく掴めず、無限に広がっているようで手を伸ばせば壁に届きそうな不思議な空間だ。
「目が覚めた?」
気がつくとルーシーが目の前にいた。どうやら少し眠っていたようだった。内容は思い出せないが何か夢を見た気がする。
「うん。いい夢が見れたよ」
「そっか。早速だけど本題に入ろう」
ルーシーは僕に背を向けると左手を伸ばした。すると指先が触れた何もない空間にトビラができる。右手も同じ動作を繰り返し、僕の目の前に二つのトビラができた。ルーシーは僕の方へ向き直ると澄んだ声で言った。
「これが君の答えで、君の願い。そして君の結末」
ルーシーは冷たい青い瞳と暖かい赤い瞳で僕を見た。いや、正確には僕達を見た。
「さて、君達の《物語》はどんな続きを見せてくれるのかな?」
いつの間にか、僕は二人になっていた。その事に驚く暇もなく、僕達は別々のトビラへ徐々に近づいていった。もう一人の僕とは恐らく、最初で最後の顔合わせだと思ったので僕はとりあえず挨拶をする事にした。
「はじめまして……なんて言っていいのかわからないけど、自己紹介をしておこうかな」
自分に自己紹介と言うのはとても変な感覚だ。だけど、何故だか悪い気分ではなかった。
「僕の名前は大地。たぶん、もしもで生きる為に生まれた僕だ」
僕の言葉に目の前にいる人間はニッと笑うと僕の額にデコピンをかましてきた。
その行為に僕はつい苦笑いを浮かべてしまった。親友を真似たその行為に、似合わないと思ってしまった。目の前の人間もその事は自覚しているみたいだった。
しかし、彼は僕とは対照的にイタズラな笑みを浮かべながらこう言った。
「僕の……オレの名前は大地。オレは《元の世界》で生きる為に生まれた」
そう、これが僕の答えで、僕の願い。そして僕の結末。
結局のところ、僕はどちらの《世界》でも生きたかった。ただそれだけの、つまらなくて欲張りな結末。なんとなくだが僕らは気がついていたんだと思う。自分の出す結果に、辿り着く結末に、目指すべき道に。
「……じゃあ、頑張れよ」
「お互いにな」
最後にそれだけ言葉を交わすと僕らは自分のあるべき《世界》へと続くトビラに入っていった。
願いを叶えたもう一人の大地はルールに従い《元の世界》へ。《ifルート》で生きたいという願いから生まれた僕は《ifルート》へ。僕たちはそれぞれの望む《世界》へ旅立つ。
後ろを振り向くと、トビラの隙間からルーシーが見えた。ルーシーも僕の視線に気がついたようで軽く手を振ってくれた。
サヨナラ
なぜだか、そう言われたような気がした。この別れは永遠なのだろうか……いや、そんな事はない。どうしても納得できない。もっとルーシーの事を知りたい。もっと仲良くなりたい。もっと一緒にいたい。僕らの繋がりはできたばかりで、これからのはずじゃないか。
気がつけば自然と口が動いていた。
「ありがとう。また会えるよ」
◆
これで僕の話は終わりだ。結構長く喋ってたね、申し訳ないけど少し休憩させてもらうよ。……とは言ってもただ単に暇をしていてもつまらないね。
そうだね……それじゃあ次は君の話を聞かせてもらえるかな?




