《7日目》人生ゲーム
「自分で言うのもなんだけど、僕の勘は優輝程じゃないがよく当たる方だと思う。このゲーム……死の匂いがする」
「同感ね。間違いなく死者が出るわ」
「ひでぇな二人とも!キッチリまともなゲームだって!」
優輝はそう言うがその言葉を僕と恵美は一切信じていなかった。信じられるわけがない。鈴奈は苦笑いをしながら僕らのやりとりを見守っていたが、ふと人生ゲームの盤面を見ると首をかしげる。
「この人生ゲーム、マスに数字しか書いてないよ?」
「手書きで文字書くにはマスが小さくて書けなかったんだ。それに何度も同じイベント書くのも面倒だったからイベントはマスの数字に対応した物をこの紙を見て行うことにした」
優輝はポケットから四つ折りにされた紙を取り出した。僕が内容を覗こうとすると優輝は紙を取り上げた。
「おっと、中身はお楽しみだ。紙は俺が持っておくからマスに止まったら数字に対応したイベントを読み上げるよ」
「……内容が分からないのは地味に怖いな」
僕は一つ適当にため息を吐いて考えてみた。僕のために用意をしてくれたわけだし、そんなに悪いものではないはずだ。何かサプライズ要素があるかもだし、バカみたいな内容でも絶対楽しめるだろうと結論付けた。
「分かった、やろう。なんだかんだで楽しめるだろうし当たって砕けるか」
「砕けるのは前提なのね」
「さっすが相棒!」
優輝は指をパチンと鳴らすとぱっぱと準備を始めた。机を端に寄せ邪魔なものは全て机の上に乗せる。さらに棚から優輝が自作した紙製の盤面(かなり広かった。多分A2サイズ)を取り出し床に広げスタート位置に四つのコマを並べる。コマの種類はバラバラでガチャガチャのキャラクター消しゴムだった。
「さて、ルーレットで誰から始めるかを決めるか」
優輝の言葉に従い四人全員がルーレットを回した結果、一番から順に僕、鈴奈、優輝、恵美となった。
「所持金は五千円からスタートだ」
「さて、僕からだな……四か、十まであるルーレットだから高いとは言えないな」
「序盤だし高い数字引いてフリーターになるよりいいんじゃないかな?」
「それもそうか」
鈴奈の言うことはもっともだが基本数字しか見えないこのゲームでは職業があるかどうかすら怪しいわけで。
「む、二手に分かれてるな。じゃあ上のルートで……マスに書かれた数字は七だ」
「七は……《刑務所を出所する、シン値がゼロになる。所持金がゼロになる》」
「僕は囚人だったのかよ! それよりなんだそのシン値ってのは」
「ゴール時にポイントが十以上なら強制敗北で地獄行き。シンは漢字で罪でルビがシンな。ついでに初期罪値は二だから」
罪をシンと読むなよ。絶対某クトゥルフ神話っぽく言いたかっただけだろ。そういうルールは事前に行って欲しいものである。
それより僕のスタートはどうやら第二の人生のスタートだったらしい。分かっちゃいたけど波乱の予感しかしなかったな、この人生ゲーム。
「じゃあ僕は初期罪値二をゼロにできた代わりに所持金を失ったってことか……きついな〜」
「次は私だね……下のルートに五進んでマスの数字は六!」
「六は……《主君に剣を捧げる。職業騎士となる》」
「やったー!」
「なに時代なの?」
世界観が分からない。中世辺りをモチーフにしているのだろうか。通貨単位が円なあたり優輝の知識不足が伺える。
「次は俺だな上に七……マス目は二か。《貴族の家に産まれる》」
「なんだか勝ち組の雰囲気ね」
「《貴族の腐った制度の中で育つ。罪値プラス1》」
「なんてこった」
「地獄に一歩近づいたわね」
貴族の家庭環境はあまりよろしくないらしい。
「次は恵美のターンだぜ」
「下に八進んで、マス目は十ね」
「《魔法使いの弟子になる。罪値プラス一》」
「わけがわからないよ」
ファンタジー要素もあるようだった。どんな人生になるのか不安だな。罪値が上がったのは魔女は異端の存在だったからかな。あと魔女恵美は絶対可愛い。
「今変なこと考えなかった?」
見破られたがポーカーフェイスで乗り切る。
「さてなんのことやら。次は僕だな。十進むか。二手に分かれた道が一つになってる……この感じだと残念なことにフリーターだな」
恵美はしばらく疑いの眼差しで睨んできたがどうやら誤魔化せたようだった。視線を盤に戻すの恵美は言った。
「数字は十六ね」
「《職業に就いているものは給料日。フリーターは金が無ければ、強盗をするかしないかを選べる》」
「絶対罪値上がるよな」
「《強盗すれば罪値プラス三で所持金プラス二万》」
「きついわね」
序盤だしそこまで焦ってお金にこだわる必要は無いだろう。そう僕が判断しかけたその時、またもや優輝がルールを追加した。
「ついでにこのゲーム、一文無しが二ターン続くと空腹で死亡する」
「無駄にリアルな人生ゲームだな!」
「一応救済処置として無銭飲食ができる。無銭飲食は最も軽い罪で罪値の加点1と1ターン休みで」
「このゲーム無駄に辛口なんだよな」
「そんなに無駄無駄言うなよ。実は吸血鬼じゃないのか?」
「うりー!」
「俺の彼女が吸血鬼のわけがない。かわいいけどな」
「別に無理して乗らなくていいのよ、鈴奈ちゃん」
実に奇妙な人生になりそうだな。うん、まぁ変な人生ゲームだったよ。
それはそうと話を戻すが強盗をするか否か。個人的には非道な真似はしたくないが生きるためには仕方がない気がする。餓死して最下位じゃ話にならないし無銭飲食は罪値プラス一で済むが一ターン休みなことを考えると相当キツイ。それにこの時の僕の罪値は最初にゼロになってるしプラス三されても大した痛手ではないだろうと判断した。
「じゃあ強盗するよ。ここで死んでもつまらないし」
「いい判断だ。さすが相棒」
「ゲームとしてはね」
「騎士として見逃すわけにはいかないね!」
女性陣はどうやら僕の判断はあまり良い評価は得られなかったらしい。逆に優輝からは良い評価を得た。意外かもしれないが優輝は死に直面したら罪を犯してでも生きろと言う。優輝自身にもその原則を適用して欲しいものだ
まぁ、所詮はゲームだしみんなそこまで深い意味で発言はしていないだろうがこういう所で性格が出てくるな。
「次は私だね。六進んでマスは13」
「《乗っていた馬車が衝突事故に合う。相手側と決闘でケリをつける。》」
「あら、このイベントはきっちりファンタジー人生ゲームっぽいわね。保険なんてないだろうし、妙にリアルで好感が持てるわ」
「有り難き幸せ」
貴族が魔女に頭を下げるなんて不思議な絵面だな。まぁ確かにこのイベントは割とファンタジー人生ゲームな感じのするいいイベントだ。ファンタジー人生ゲームってなんだよとか言わない。
それはそうと鈴奈は決闘と聞いて騎士の血が騒いだらしい。もしかすると別の《世界》で本当に騎士をしていてその記憶を持っているのかもしれないな。小さい拳をグッと握りしめて決意をあらわにする。
「騎士として決闘で負けるわけにはいかない!」
「騎士として交通ルールは守るべきかと。あと騎士なのに武力でケリつけようとか卑怯じゃないか?」
僕の言葉に鈴奈はたじろいだ。うん、この発言は少々大人気なかったな。反省してる。
「……あ、相手も騎士なんだよきっと」
「俺の彼女を責めるでない!」
「貴族の優輝さま。自分で作った事故なのを忘れるなよ」
僕が冗談めかして言うと優輝は一瞬考え込んだ後、イベント内容を物凄い早口で付け加えた。
「《鈴奈にぶつかってきた馬車は卑怯な事で有名な同期の騎士コソークだった。今回もどうやら卑怯な手でお金を巻き上げようとしていたらしい。あれこれとイチャモンをつけてお金を巻き上げようとしてくるコソークに鈴奈は決闘でどちらが悪かったかを決めよう、と提案したのであった》」
「長いわよ」
優輝は息継ぎもせず早口で追加イベント内容をまくし立てた。これだけの内容をすぐさま思いつき言葉にできる頭の回転の速さと器用さには素直に感心する。
「そ、そこまでこだわるところでもないから大丈夫だよテルくん!」
「ごめん、僕も言いすぎた」
僕が笑いながら謝るとゼェゼェと息を荒く数回繰り返した後、息を整えてから優輝は追加の説明を始めた。
「悔しいことに……コソークは卑怯だが腕が立つ。実力は鈴奈と同じぐらいと考えてくれていい。勝敗はルーレットを回して五以上なら勝利で四以下なら敗北な。勝利すると二千円獲得。敗北すると逆に二千円損失し一ターン休み」
「卑怯なコソークには絶対負けられない! 私も全力を使って戦う!」
緊張の一瞬。運命の歯車は鈴奈の手によりカラカラと回り始める。勝利の女神はどちらに微笑むか……と思った矢先に鈴奈がなにやら聞きなれない言葉を呟き出した。
「全記憶回路接続……完了。不要記憶回路の確認……切断。全心響回路接続……完了。心響率を百パーセントに固定……完了」
「あの……鈴奈? 本気すぎるんじゃ……?」
優輝の言葉も気にせず鈴奈は目をつぶりなにやら難しい言葉を発する。言葉遣いも普段とは全く変わっていた。そして何よりの変化は鈴奈の薄く開かれた青い瞳は、僅かだが確かに発光していたことだ。その瞳はまるで満天の夜空のようだった。
「……本当に《異世界》はあったんだ」
思わず恵美もそう呟いてしまっていた。恵美も僕らの言葉を疑ってはいなかっただろうがおそらく実感があったかと言われると、正直あまり無かったのだろう。初めて触れる《異世界》の光景に恵美は驚きを隠せないでいた。
「記憶情報の統合…………心響率にエラー確認。無視して続行。記憶情報を肉体へフィードバック……失敗」
「エラー? 失敗?」
「ルーレットを回します」
鈴奈はルーレットをそっと握ると自然な力加減で回す。カラカラカラカラと、ルーレットが回る音が空間を支配する。そして、ルーレットは止まり、音の支配は解かれた。だが、この結果を口にしていいのか誰もがためらった。こんな事が認められていいのか……この結果を見れば誰だってそう思ってしまうだろう。
「……ごめん鈴奈なんて言っていいのか分からないけど……その力はこのゲームでは使わないほうがいいよ」
沈黙を破ったのは優輝だった。優輝の言葉は恐る恐る、といった風に鈴奈を傷つけないように言葉を選ぶように話しているような印象を受けた。もちろんそれは昔、鈴奈が《世界の記憶》の所為でイジメを受けていたから─────
「だって、ここまでして一なんて……悲しすぎる」
─────ではない。ここまでの演出をし、もったいぶっておきながら失敗したからである。鈴奈の瞳から輝きが徐々に薄れ、みるうちに羞恥の表情へと変化していく。りんごも顔負けの赤さだ。
「……もう人生ゲームでこの力は絶対使わない」
(鈴奈の顔が)真っ赤な誓い。優輝は顔を真っ赤に染めて肩を震わせる鈴奈の肩に手をそっと触れながらもう片方の手を差し伸べた。
「ドンマイ。とりあえず慰謝料払おうな」
「うぅ……」
「情けもクソもありゃしない」
ひどい彼氏もいたもんだよ。進行役だから仕方がないけど。
そんなこんなで人生ゲームは続いた。ダンジョンに潜り、魔物を討伐し、悪党を捕まえ、悪党になり、魔法を極め、そしていよいよゴール付近となった。
「……僕はもう昔の、刑務所にいた頃の僕とは違う! もう誰も、僕の眼の前では悲劇を起こさせない!!」
「私も一緒よ……私の魔法はあなたの理想の為に使う」
「くくく、世界は俺の手に堕ちた。もう諦めろ!」
「諦めない!私達騎士は民の力になると誓った!」
わけのわからない状況だろう。僕も今思い返してもどうしてこんなテンションになってしまったのかわからない。とりあえずこれまでの経緯を話そうか。
僕は刑務所から出所した後、ダンジョンを巡っているうちに名声を得て、騎士にスカウトされそのまま騎士団長の座に就いた。
鈴奈は主人に使える騎士として充実した生活をおくっていたが突然の主人の病死に一度堕ちるところまで堕ちたが、騎士団長の僕と出会い再び騎士としての道を見出した。
恵美は魔法の勉強をしながら旅を続けていたが魔道の深淵を知りすぎたため魔法協会から追われる身となった。その後深淵の力が暴走を始めたが騎士団長の僕が恵美の力を抑え魔法協会も退けた。恵美はそのまま僕が使える国の魔法長に就任した。
そして優輝。最初はダンジョンで宝探しを満喫したり困った人を助けたりしていたのだが、とあるダンジョンの奥で太古に封印された闇の力に触れ罪値カンスト(無駄に最大罪値を多く設定していたらしく百まで溜まった)。そのまま覇王として覚醒し世界各国の支配を始めた。
そして、覇王と騎士団長の戦いが始った……と言う具合だ。
「攻撃力上昇の魔法を唱えるわ……ルーレットは六ね。判定成功」
「僕のターン。攻撃力上昇効果を上乗せしてアビリティ《シバルリー》発動。優輝に三十のダメージ」
「七以上で抵抗……よし、成功だ。半分の15ダメージを食らう」
「私のターンだね。アビリティ《かばう》を宣言するよ。目標は恵美ちゃんで」
「ありがと」
「私たちはチームだから貸借りなしだよ。テルくんにパンチ。ダメージは十二」
「抵抗……成功だ。六ダメージ受ける。俺のターン。アビリティ《闇の波動》発動。全体に十五ダメージ。抵抗は不可」
「ちっ! 僕のターン!」
さて、君の言いたいことはだいたい分かる。つまりはこういうことだろう?
人生ゲームしろ。
もっともな話だ。これ以上詳しく話しても仕方がないし取り敢えず人生ゲーム(?)の結果だけ言っておこうか。
一位は僕。騎士団長の給料すごい。
二位は鈴奈。主人の遺産がすごい。
三位は恵美。魔法長の給料すごい。
四位は優輝。貴族出身でダンジョンに行っていたので資金は1一持っていたが罪値が十を超えていたので強制敗北。
「覇王……お前を救えなかった。すまない……」
「いい、んだ。俺は罪を……背負いすぎた……ガハッ!!」
「覇王よ、安らかに眠りなさい」
「テルくん……さよなら」
ゴールには覇王の墓標が建てられた。無邪気だった冒険者が偶然闇を見つけてしまったばかりに起きてしまった悲劇。天に許されることなく地獄に堕ちた覇王はこれからどうなるのか……誰にもわからない。
覇王の扱いは騎士団長として思うところもあるが、それとは別に僕の中で何かが胸に引っかかっていた。
『……これ、誰のお別れ会だっけ?』
そう思ったが口にはしなかった。
無駄に長くなってしまった気がするけど、おそらく最後のギャグ回だから許してください……次回からシリアスで行きます!




