《7日目》お別れ会
優輝の家は二階建てでどこにでもある普通の家だ。
いつも遊ぶときと同じようにチャイムを鳴らすとすぐにドアが開いた。
「失礼します」
「二人ともいらっしゃい。どうぞ上がってちょうだい」
迎えてくれたのは優輝のお母さん、アリソンさんだった。金髪で赤い目をしていて初めて会った時は少し驚いた。落ち着いた雰囲気の優しい人だ。
アリソンさんは僕に視線を送ると、少し寂しい顔をして言った。
「今日はお別れ会なのよね?」
「はい」
アリソンさんはそう、と切なげにつぶやくと直ぐに優しく微笑んで言った。
「今日は存分に楽しんでちょうだい。悔いの残らないようにね」
「はい。でも、これで最後ってわけじゃなくてまた何時でも会えるので」
「そうね。会おうと思えばいつでも会えるものね」
アリソンさんは僕の頭にそっと手を乗せると太陽のような暖かな笑みと共に言った。
「《世界》は繋がっているのだから」
「……そうですね」
僕は行き先等の詳しい状況を聞かれなかったことを密かに安堵しつつも、アリソンさんのある言葉に引っかかっていた。
『さっきの《世界》って言葉は……いや、考えすぎか……』
「おう、待ってたぜ二人とも」
僕がいつものように悶々としていると優輝の声が聞こえ、我に帰った。
「鈴奈がまだ来てないから、鈴奈が来るまで俺の部屋で適当にくつろいでてくれ」
僕と恵美は二階の優輝の部屋で鈴奈の到着を待つことにした。
辺りを見渡すと、色紙で作られた輪っかを繋げた鎖のような飾りが沢山飾ってあった。
「凄いな……これたった一時間で準備したのか?」
優輝の部屋のインパクトは僕の考えていたことを忘れさせるには十分だった。
僕は持ってきたお菓子の入ったビニール袋を背の低い机に置いて座る。恵美も僕の向かいに座った。
「それはないんじゃない? 優輝ってそこまで器用じゃなかったし。学校でコツコツ作って……ってこともなかったわね。そんな事してたら誰だって気づくし」
恵美も優輝がいつ飾りを作ったのかを考えながら不思議そうに顎に手を当ててう〜んと唸った。
二人で唸っているとドアが開いた。入ってきたのは鈴奈だった。
「ごめん、待たせちゃったね」
「そんなことないよ。それに鈴奈ちゃんの家はこの中で一番遠いんだから時間かかるのは仕方がないよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
鈴奈は恵美にお礼を言うと恵美の隣に座った。
「そう言えば鈴奈は知ってるか?いつ優輝がこの飾りを作ったのか。たった一時間で優輝がこれだけの量を作れるとは思えないんだよな」
僕の言葉に鈴奈は少し困ったような表情をして言った。
「部屋の飾りなら三日前から準備し始めてたよ」
「三日前って遊園地の日じゃないか!」
僕は驚きでつい声を上げてしまった。
「鈴奈ちゃんの言葉を疑う訳じゃないけど、なんで優輝はそんなに早くから準備してたの? 優輝には全部わかってたってこと?」
恵美は言葉ではそう言っていたが、彼女の表情や口調には驚きや不信などは微塵もなかった。あったのは少しの呆れと納得。優輝と言う人物は僕らのことをそれほどまでに知っていたのだ。逆に僕らも優輝なら分かっていても不思議じゃないと思っていた。
鈴奈は少し腑に落ちない顔をしていたがすぐに元の笑顔を見せた。
恵美は何かに気がついたようで鈴奈に問いかけた。
「どうして鈴奈ちゃんは部屋の飾りのこと知ってるの?」
「遊園地で二人と別れた後、私はテルくんについて行ったでしょ? その後テルくんは自分の部屋に戻るとすぐにお別れ会の準備をし始めてたの」
「そうだったんだ」
僕はそう言いつつお菓子の袋を開ける。いつまでもこんな話をしていても仕方がないしつまらない。
「結構お菓子持ってきたんだ。好きなのを食べてくれ」
「じゃあ私焼きそばチップス食べよー」
「いつもそればっかりだよな」
「いいじゃない。焼きそばが大好きなんだから」
その時の恵美の顔には幸せと書いてあった。恵美の焼きそば好きにも呆れるが、それ以上に食べる量も実は結構すごい。ゆっくり食べるし満腹まで行かなくても満足できるようなので普段は目立たないがフードファイターの一歩手前だ。
しばらく適当にくつろいでいると優輝が部屋に戻ってきた。
「またして悪かったな。お、すでに机の上が賑やかだな。ほれ追加だ」
優輝は机の上にある大量のお菓子を押しのけて大きめのトレーを置いた。トレーには綺麗な皿に盛り付けされたピザにサラダ、フライドポテトや菓子パンにジュースなど様々な食べ物があった。豪華な料理を目の前に恵美と鈴奈は目を輝かせた。
「「おいしそ〜!」」
「全部母さんの手作りなんだ」
「流石だな」
『これ僕が市販のお菓子を持ってくる必要なかったな』
と思ったけど言わなかった。うん、仕方がない。
しばらく料理を堪能した後、優輝が立ち上がった。
「さて、そろそろ始めるか」
「何を?」
優輝は押入れから紙袋を取り出してからドヤ顔で言った。
「俺手作りの人生ゲーム」
その発言に僕は頭を抱えずにはいられなかった。
「……手作りしちゃったか」




