《7日目》少し似てる
「ちょっとお話したいんだけど、いいかな?」
昼休み、僕が屋上へ行こうとした所を鈴奈に呼び止められた。その表情は真剣味を帯びていた。
「ああ、もちろん大丈夫だよ」
僕がそう言うと鈴奈は深々と頭を下げてから言った。
「この前、私の家に来てくれたでしょ。あの時はその……言い過ぎてしまってごめんなさい」
鈴奈に言われた事を要約すれば『本当はどちらの《世界》を選ぶのか決めてるのに、わざと悩むことでどちらか一方の《世界》を選ばなかった罪悪感から逃げている。だけどそれは自分に対する甘えで、そんな考え方をしていたらいつまで経ってもなにも選べない』だったかな。
僕自身としては鈴奈の意見は至極真っ当な意見だったと思ったので、謝られる事をされた覚えはなかった。
「別に謝る必要はないよ。事実、僕は片方の《世界》を選ぶ事に……もう片方の《世界》を選ばない事に罪悪感を感じていたし、その迷いを吹っ切れさせてくれたのは鈴奈の言葉のおかげでもある。それに、僕の為にああ言ってくれたんだろ?」
だから顔を上げてくれ、と言うと鈴奈は拒むように首を振った。
「もちろん君の為にと思って言ったつもり……だけど半分、こうも思ってしまったの」
俯いていた鈴奈があの時どんな表情をしていたのか……僕は今も分からない。
「テル君を傷つけておいて、そんな甘えた事言わないで……って」
鈴奈はスカートをぎゅっと握りしめていた。それは僕に対する怒りからだと最初は思った。だけどすぐに違うと分かった。スカートを握りしめるこの手の震えは……
「自分を……責めてるのか?」
鈴奈はさらに強くスカートを握った。
「私は……」
鈴奈は何かを言いかけてそのまま黙ってしまった。
「そっか。まぁ気持ちは分からなくはないよ。……と言うより、よく理解できる」
だけど、なんとなくだが僕には鈴奈の考えていることが分かった。
「許せないんだな……僕に怒りをぶつけた事を」
《あの日》、優輝に怒りをぶつけた僕と同じように。
「でもさ……あの時、鈴奈が僕に怒りを感じたのは優輝の事が大切だったからじゃないか?」
僕が恵美が大切だったのと同じように。
「その感情は間違いじゃないよ。誰だって大切な人が傷つくのは嫌だ。怒りを感じて何が悪い。その感情を抑えられず出してしまうこともあるさ、人間なんだから。それに僕はあの鈴奈の言葉を悪い風には捉えてないし、むしろ感謝してるんだ……だから顔を上げてくれ」
僕の言葉を聞いて鈴奈はゆっくりと顔を上げて言った。
「……やっぱり、君はテルくんと少し似てるね」
「僕が?」
鈴奈はなんでもない、と首を振ると少し笑った。
「ありがと」
「気にしないでいいよ」
鈴奈は少し寂しげな顔をすると言った。
「……《元の世界》でも元気でね」
「なんだ、知ってたのか……って、あれ? ……なんで知ってるんだ?」
僕の問いに鈴奈はイタズラっぽい笑顔を浮かべた。
「ただの当てずっぽうだよ」
この言葉は本当か嘘か、よく分からなかった。僕が鈴奈の言葉に悶々としていると後ろから優輝が喋りかけてきた。
「よっす、相棒に鈴奈。今日の放課後に俺の家集合でよろしく」
「えらく突然だな。別にいいけど何するんだよ?」
僕がそう言うと優輝は一度ため息をつくと僕にデコピンをかました。
「いたっ……何すんだよ」
「あまりにも的外れな質問するからだ。んじゃ午後四時半に俺の家集合な」
それだけ言うと優輝はどこかに行ってしまった。
「なんなんだ、あいつ? 結局何するんだ?」
僕が首を傾げていると苦笑いしながら鈴奈は言った。
「今日はテルくんの家でパーティーを開くんだって。……理由は言わなくても分かるでしょ?」
「ん? ……ああ、そういうことか」
なるほど、と呟いてからまだ小さな痛みが残る額に手を当てて僕は言った。
「お別れ会……ってところかな」
額の痛みはなかなか引いてくれなかった。




