《6日目》さよなら
いつも目の前の光が私を導いてくれていた。
ずっと後ろをついて行ける。そう思っていたのにその光は突然消えてしまった。
暗闇で一人、ポツンと取り残された気がした。
でも違った。
私と同じ、光の後を追って歩くもう一つの影。光ばかり見ていたから気づかなかった。
あなたはいつも私の隣にいてくれてたんだね。
でも、少し気づくのが遅かったみたい。
光から自立した影は、新しい光となって私の元を離れていく────
◆
「……え?」
恵美の最初の反応は信じられないとでも言いたげな、そんな顔をしていた。
「好きって……」
「もちろん特別な好きだ」
恵美はビクッと体を震わせてから僕から目をそらした。
しばらく二人の間に沈黙が訪れた。長い長い沈黙。僕は恵美がどんな反応をしてくるのかと、緊張しながら見守る。
どれくらいたったのか、恵美はポツリと呟いた。
「ずるいよ……」
そう呟くとまた恵美はまた黙り込んでしまった。なぜ恵美は僕のことをずるい、と言ったのか僕には容易に予測できた。
「これから出て行く奴が言うことじゃなかったな」
「……違う」
しかし僕の予測は外れていたらしい。ベンチの上で縮こまって体操座りをした恵美は言った。
「なんて答えたらいいのか分からないじゃない……」
僕がいなくなるからどう答えても意味がないからだろうか……そう思った僕は言った。
「答えなんて求めてないよ。僕が恵美のことが好きだったことを知ってくれさえすれば、それでいいんだ」
僕がそう言うと足に押し当てていた顔をズラして片目だけで僕の方を見た。
「……そこがずるいのよ」
「?」
僕は首を傾げた。
「答えなんて求めてないなんて……だったら私の思いはどうすればいいのよ。この行き場のない思いはどこで吐き出せばいいの?」
おそらく恵美は自分の思いを言うのを戸惑っていたのかもしれない。僕が答えを求めていない事を知った上で自分の気持ちを本当に言っていいのか? そんなことを考えていたのだと思う。
「ごめん。少し自分勝手だった……返事を聞かせてくれないか?」
恵美はまた顔を隠した。
「私はね……まだ優輝の事が好き」
針のようなものが僕の中に深く突き刺さったような気がした。痛い。苦しい。でも、返事が聞けてよかったと素直に思えた。
きっとあの気持ちは本来僕が《元の世界》で持つべきものだったのだから。
「そっか」
残念だったな……そう続けようとしたが恵美の言葉が遮った。
「でもね、あなたの事も同じくらいに大切なの」
その一言に僕は言葉を失った。恵美は体操座りをやめて顔を上げてから真っ直ぐ僕を見据えた。
「だから────」
その続きを言おうと恵美は再び口を開く、がまたすぐに閉じた。目をつぶり、そこで一度黙るとわずかに微笑んで言った。
「ううん……だけどさよなら。あなたの事……一生忘れない」
もう一度、確かめるように恵美は言う。
「……さよ……な……ら………」
そう言うと恵美は俯いた。恵美の手は夏なのに冷えきったように真っ白になっていた。僕は震えるその手にそっと手を重ねた。自然と二人の手はどちらともなく絡まっていく。しばらくしてから恵美は声を出して泣き始めた。
「うわあぁぁぁぁあぁぁ……」
空に向かって泣き続ける恵美の手は少し暖かくなっていた。僕も恵美と同じ、星の無い夜空を見上げた。
「落ちないでくれよ」
星の無いはずの夜空なのにキラキラと光って見えた。ひとつ、まばたきをするとまた流れ星が落ちた。
「なんだ……落ちちゃったか」




