第9話 社長襲来
「分かった。配信は明日でいい。朝一で行くか」
「そうですね。出勤したら、みんなで向かいましょう」
「茜と葵も大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。私たちは基本的に裏方なので、一条さんと桃ちゃんに合わせます」
「お手伝いは任せて」
茜も葵も問題ないようだ。
「オッケー。じゃあ今日は、準備が終わってから新しい武器の設計だな。最低でも方向性は決めたい」
「え? 設計やるんですか?」
桃が目を丸くした。
「私、卒業してから一度も設計してないんですけど」
お前もか。
「武器を作る会社だよな?」
「作ってはいますよ。決まった物を」
「胸を張るところではない」
第一製作課には、まともに設計をしている人間がいないらしい。
よく今まで製作課を名乗っていたものだ。
「まあ、とにかく準備が終わってからだ。機材が届いたら、設定は任せた」
「分かりました。任せてください。いつも使っている物を広報に伝えたので、すぐに設定できると思います」
配信に関しては頼りになる。
これで準備はどうにかなりそうだ。
気になることを確認しておくか。
「そういえば、公式配信になるが、前回と同じやり方でいいのか?」
「素人ですねー」
大抵の人間は素人だ。
「会社の配信なんて、基本見ない」
葵は今日も遠慮がない。
「葵ちゃん、ストレートすぎます。私もたまに配信見ますけど、会社の公式配信は分かりやすくて、短い方が効果的だと思います。関係ないことは言えないので、雑談も難しいですし」
「配信する時間も大切」
「そうなんです。一条さん、せっかく配信するんですから、みんなが見やすい時間を狙うのが大切なんですよ」
茜も詳しいのか。
「理想は休日か夜なんですけど、さすがに無理なので、せめてお昼休みですね」
「それなら、朝から5階層まで進んで待つのか」
「そうです。朝から行けば、イレギュラーがあっても昼には間に合います」
イレギュラーが起きたら、中止ではないのか。
どうやら素人は俺だけらしい。
「ボスを倒したら、みんなでお祝いのお昼にしましょう!」
桃が楽しそうに言う。
「何を祝うんだ?」
「公式配信の初回と、ボス討伐です」
「まだ成功すると決まっていないだろ」
「成功させるんですよ」
「お昼、お肉?」
葵がすぐに食いついた。
「一条さん次第かなー」
「なんで俺次第なんだよ」
「私は肉より魚がいいですね。前に桃と行ったお店はいい感じでしたよ」
「寿司!」
「いや、話聞けよ」
……奢らないぞ。
コンコン。
ノックの音とともに扉が開いた。
「一条くんはいるかな?」
営業部の山田部長が顔を出す。
「山田部長、お久しぶりです。どうかしましたか?」
「社長が少し話をしたいそうで」
後ろから社長が入ってきた。
「一条くん!」
「社長」
出向初日に挨拶して以来だ。
「配信の件、聞いたよ。会社の再建のためなら何でもやると桃くんから聞いてね。まさか本来の業務以外にも積極的に関わってくれるなんて。本当にありがとう。さすがAMIでも期待されていた人材だ」
桃を見る。
目が合った瞬間、さっと視線を逸らした。
あいつ、何を言った。
あと、過去形にすな。
「一条くんのような若い人が、そこまで桜坂を考えてくれているなら、会社も安泰だ」
「社長、わざわざありがとうございます!」
桃が俺の前へ出る。
「でも明日は朝から配信なので、今日は準備が忙しいんですよー」
「桃、待て」
社長を追い返すな。
「機材の確認もしないといけませんし、新しい武器の設計も始める予定なんです」
「そうかそうか! 邪魔をしてはいけないね」
本当に帰るのか。
「期待しているよ!」
社長は満足そうに部屋を出ていった。
山田部長も苦笑しながら頭を下げる。
「よろしく頼むよ」
扉が閉まった。
部屋が静かになる。
「桃」
「はい?」
「社長に何を言った」
「短剣の宣伝に協力してくれるって説明しただけですよ」
「会社の再建のためなら、何でもやることになっていたぞ」
桃が目を逸らした。
「少しだけ、前向きに伝えました」
「少しでああはならないだろ」
「社長が話を大きくしたんじゃないですか?」
「最初に大きくしたのはお前だろ」
「証拠はありますか?」
開き直った。
「桃ちゃん、何て言ったの?」
茜が笑いをこらえながら聞く。
「一条さんが、新しい武器を作るためなら配信も頑張るって」
「会社の再建はどこから出てきた」
「意味はだいたい同じですよ」
「違う」
「いちじょー、会社を救う」
葵が楽しそうに言う。
「救わない」
「新しい武器は作る?」
「作る。それが仕事だからな」
「じゃあ、救う」
「なぜそうなる」
新しい武器を作るのは、俺の仕事だ。
宣伝は違う。
配信はもっと違う。
「まあいい。社長も帰ったし、準備を始めるぞ。桃は配信機材。茜と葵は新しい武器の案を考えてくれ」
「もう考えるんですか?」
「さっき言っただろ。最低でも方向性は決める」
「強くて売れる武器」
葵が自信満々に答える。
「それで武器ができるなら、苦労しない」
「難しい」
もう詰まった。
「一条さんは、何か案があるんですか?」
「今のところない。とりあえず、何の武器にするかからだな」
「需要としては剣が無難ですね」
まぁ基本だな。
「配信で聞く。欲しいものがすぐわかる」
「なるほど。一理あるな」
「えらい?」
「えらいえらい」
視聴者に聞けば、売れる武器が分かるかもしれない。
設計は配信のあとだな。




