第8話 売れました!
配信から3日。
あれから、短剣が売れたという話はない。
回収した旧型の短剣も、すべて溶かしてインゴットに戻した。
改良型の在庫は十分にある。
追加で作る必要もない。
つまり仕事がない。
もう短剣にこだわらず、売れる武器を作った方が早い気がする。
「いちじょー、仕事がなくなったー」
葵が机に突っ伏している。
「新しい武器を考えろ」
「新しい武器ですか?」
茜が困ったように笑った。
「予算がないので、ここ数年は新作を出してないですよ」
「武器を作る会社が、新しい武器を作っていないのか?」
「売れない物を作る余裕がないんです」
「だが、今ある物も売れていないだろ」
「だから予算がないんです」
どうしようもない。
見事な悪循環だった。
「まあいい。設計だけしておく。設計だけなら金はかからない」
「主任が作るんですか?」
「設計したことないのか?」
「学生時代にある」
葵が答える。
何年前だ。
「じゃあちょうどいい。どうせ暇なんだし、思い出しながら設計してみろ」
「私もですか?」
「どうせならみんなでやった方がいいだろ。アイディアは多い方がいい」
「売れる武器つくる!」
それで作れるなら初めからやれ。
デスク部屋の扉が勢いよく開いた。
「売れましたー!」
桃が端末を持ったまま駆け込んでくる。
「何がだ?」
「短剣です! 配信のあとに5本売れてます!」
「5本か。少ないな」
「去年は1年で10本ですよ! 3日で半分です!」
そう言われると多い気がする。
「ボーナス出る?」
葵がすぐに反応した。
「まだ無理じゃないかな」
茜が苦笑する。
「まだ半分」
「去年の売上を基準にするな」
目標が低すぎる。
「動画の再生数も増えてますよ。コメントもかなり来てます。2回目が見たいってコメントが多いですね」
桃が端末をこちらへ向ける。
「何の2回目だ?」
「配信ですよ。次は5階層のボスを倒しましょう!」
「なんでだよ」
「短剣でボスまで倒せるなら、いいPRになります!」
一理ある。
初心者向けの短剣で、初心者向けダンジョンのボスを倒す。
性能を見せるには分かりやすい。
「いちじょー、ボス戦」
「前回より、短剣の性能は伝わりそうですね」
葵も乗り気だ。
茜も否定しない。
「だが、やらん。俺は鍛冶師だ」
「鍛冶師だからですか?」
「会社の宣伝だろ。本来は営業か広報の仕事だ」
「でも、主任が戦わないと宣伝になりません」
「宣伝は営業か広報に任せる。専門家がやる方がいい」
「でも、戦えません。探索者じゃないので」
「そもそも戦う必要がないだろ。性能の紹介なんだから、データを見せて説明すればいい」
「そんな動画、誰も見ません! エンタメが重要なんです」
「前の配信も、説明している時より戦っている時の方がコメントは多かったですね」
「説明、長かった」
「必要な説明だ」
「視聴者、減った」
覚えていたのか。
「とにかくやらん。俺の業務は武器を作ることだ」
「…分かりました」
桃が端末を握り直した。
「会社を納得させます!」
「は?」
「一条さんの業務になればいいんですよね? 仕事内容に入れてもらいます。短剣が売れた実績がありますし、2回目を希望するコメントも多いです。続ければ、もっと売れると思います!」
「俺じゃなくてもいいだろ」
「一条さんじゃないとダメです!」
「なぜだ」
「短剣の性能を一番引き出せるのは一条さんです。それに、視聴者も一条さんが戦うところを見たがってます」
「それでは短剣の宣伝ではなく、俺の宣伝だろ」
「短剣も映します!」
「ついでみたいに言うな」
「いちじょー、人気者」
「嬉しくない」
「でも、一条さんが出ることで短剣を知ってもらえるなら、宣伝としては成功だと思います」
茜が穏やかに言う。
「短剣がもっと売れれば、次の商品を作る予算も出るかもしれませんし」
「新しい武器」
葵が顔を上げた。
「いちじょー、作れる」
桃が俺を見る。
「一条さんは、新しい武器を作りたくないんですか?」
……作りたい。
◇
翌日。
「会社の公式アカウントを作ることになりました!」
朝から桃が満面の笑みで報告してきた。
「本当に通したのか」
「短剣が売れたことと、配信の反応を説明したら、広報も営業も賛成してくれました。次からは会社の公式配信です」
「で、誰が出るんだ?」
「もちろん一条さんです。会社も納得したので、あとで説明があるそうですよ」
本人の意思確認がないのだが。
「それと、撮影は第一製作課で行っていいそうです」
「いちじょー、仕事できた」
「正式な業務なら安心ですね」
なんでだよ。
「他は参加しないのか?」
「営業部が撮影を提案してましたけど、断りました」
なんでだよ。
「みんなでやった方が絶対面白いじゃないですか!一条さんも一人よりみんながいたほうがいいですよね?」
「一人の方が好きに説明できるんだが」
「説明、長い。誰も見ない」
葵が現実を突き付けてくる。
見ないなら別の人がやればよくないか。
「とりあえず、もう一度配信しましょう。私のアカウントでも告知すれば、ある程度は見てくれると思います。明日でいいですか?」
「そんな簡単に決められないだろ。機材も買うんだろ?」
「大丈夫です!そこは広報がすぐに用意してくれるそうです。」
「……」
断る理由がなくなった。
「次は5階層のボスですね!」
桃が嬉しそうに予定を立て始める。
「また短剣の紹介だぞ」
「分かってますよ」
本当に分かっているだろうか。
だが、短剣が売れれば、新しい武器を作れる。
そのためなら付き合ってもいい。




