第10話 公式チャンネル
翌日。
俺たちは会社近くの桜坂ダンジョンに来ていた。
「いよいよですね」
桃は朝から元気だ。
「まずはボス部屋まで行かないといけないけどな」
「今さらですけど、一条さんは5階層のボスを倒したことあるんですか?」
「素材を取りに潜っていると言っただろ。30階層までは行っている」
「えっ!? 30階層!?」
桃が足を止めた。
「いちじょー、強い」
「一条さん、お一人でですか?」
茜まで驚いている。
「いちじょーには友達いない」
決めつけるな。
ソロだけど。
「必要な時しか潜らないからな。パーティーなんて組めないだろ」
「お一人で30階層は危険ですよ」
「必要な素材が30階層にしかなかったんだよ」
「答えになってませんよ」
事実を言っただけなんだが。
「なんでそんなに強いんですか?」
「なぜって、使う技術は鍛冶と変わらないからな」
「戦闘と鍛冶は全然違いますよ。何言ってるんですか」
「魔力を使うのは一緒だろ。魔力を扱う技術は鍛冶も戦闘も一緒だ。いかに早く正確に魔力を動かすか。それだけだ」
「えーそんな単純じゃないと思いますけど」
「複雑に考えすぎだ」
「私も強くなれる?」
「鍛冶ができるなら可能性はあるな」
知らんけど。
◇
5階層までは問題なく進んだ。
途中で出てきた魔物を倒しながら、三人に魔法のコツを教えた。
「言っている意味は分かりますけど、やるのは難しいです」
「うん、難しい」
「あとはイメージだな。魔力の流れをイメージできれば早くなる」
「見えないものはイメージできないですよ」
俺はすぐにできたが。
昼前にはボス部屋の前へ到着した。
桃が広報から届いた浮遊カメラと端末を確認する。
「映像よし。音声よし。配信ページも問題なし」
「まだ始めないのか?」
「告知した時間まで、あと5分です」
「5分くらい変わらないだろ」
「変わります」
「いちじょー、素人」
「お前まで言うな」
やがて桃が浮遊カメラの前へ立つ。
「始めますよ」
桃の表情が変わった。
「こんにちはー! ももちゃ……」
止まった。
「……こんにちは! 桜坂魔装製作所公式へようこそ! 桃です!」
間違えたな。
「いや、ごまかせないだろ」
「主任!」
桃がこちらを振り返る。
「そこでツッコんだら、編集点にならないじゃないですか!」
「編集点?」
「言い直したところから、アーカイブでは使う予定だったんですよ!」
「生配信では流れたんだろ?」
「それは仕方ないんです!」
「桃、始まってる」
「桃ちゃん、落ち着いて」
画面の外から葵と茜の声が入る。
桃が慌てて浮遊カメラへ向き直った。
「今のは聞かなかったことにしてください!」
無理だろ。
端末には、すでにコメントが流れている。
『ももちゃんって言った』
『いつもの癖出てる』
『公式初回から事故』
『主任のツッコミ早い』
「誰ですか、事故って書いたの!」
「視聴者に怒るな」
「主任のせいでもありますからね!」
「間違えたのは桃だろ」
「一条さん、配信中ですよ」
茜に止められた。
まだ短剣の説明すら始まっていない。
「仕切り直します!」
桃が大きく息を吸う。
「今日は、桜坂魔装製作所の改良型標準短剣を使って、5階層のボスに挑戦します!」
浮遊カメラが俺へ向いた。
「今回短剣を使うのは、第一製作課主任の一条翠さんです」
「一条だ。よろしく頼む」
「主任、説明お願いしますね」
「分かっている」
短剣の説明だ。
「今回使用する短剣は、鋳造型の魔力回路を改良したことで、旧型と比べて性能が約5割向上している。製作コストが変わらないため、販売価格も据え置くことに成功した作品だ。使用している鉄系魔力合金の魔力親和性を」
「はい。十分です!」
「まだ材質の説明が」
「十分です!」
止められた。
『今日も長い』
『止められていて草』
『公式配信ならもっとあってもいいと思う』
「説明を聞きたい人もいるぞ」
「1人だけです!」
マイノリティの意見は通らないらしい
「この扉の向こうがボス部屋になってます。桜坂ダンジョンのボスはホブゴブリンですね。ゴブリンに比べて硬いので、短剣がどれぐらい通じるか楽しみですね」
扉を押し開ける。
広い部屋の中央に、大きな影が立っていた。
通常のゴブリンより二回りほど大きい。
手には、刃こぼれした大剣。
5階層のボス、ホブゴブリンだ。
「来ました! ホブゴブリンです!」
さて、やるか。
身体強化。
ホブゴブリンに向かい突っ込む。
「いちじょー、消えた」
葵は見失ったらしいが、ホブゴブリンは反応している。
振り下ろされた大剣を短剣で受け流す。
流れた勢いのまま懐へ潜り込み、右腕を薙ぐ。
肘から先が宙を舞った。
「え!?」
桃が思わず声を上げる。
『腕飛んだ!?』
『短剣で!?』
『切れ味えぐ』
ホブゴブリンが苦痛の叫びを上げる。
だが戦意は失ってないようだ。
そのまま片腕で殴りかかってくる。
横へ避けながら、返す刃で右足を薙ぐ。
切り離された足が地面へ転がる。
巨体が前のめりに倒れた。
短剣を一閃。
首が宙を舞った。
「討伐成功です!」
桃が興奮気味に叫ぶ。
『終わったw』
『速い』
『え、もう終わり?』
『性能えぐい』
俺は煙になって消えていくホブゴブリンを確認し、カメラを見た。
「このように、ホブゴブリン程度なら刃こぼれせず切り落とすことができる。試したわけではないが、ミノタウロス程度までなら問題なく使えるだろう」
『ミノタウロスを程度扱いw』
『標準短剣で戦う相手じゃねえ』
『試してないのに言い切るな』
『じゃあ次はミノタウロスだな』
「主任、次の配信が決まりましたよ」
「やらん」
「でも、主任なら倒せますよね?」
「倒せるかどうかと、やるかどうかは別だ」
『倒せるのかよ』
『やっぱり鍛冶師じゃないだろ』
『5階層でイキるな』
『ミノタウロス倒せるなら5階層はイキっていいだろ』
「とにかく、今日は終わりでいいだろ」
「そうですね。予定より短いですけど、目標は達成したので終わりましょう」
桃が浮遊カメラへ手を振る。
「本日の配信はここまでです!ご視聴ありがとうございました! 改良型標準短剣は、桜坂魔装製作所の取扱店で販売中です。気になった方はぜひチェックしてください!」
配信が終了した。
「お疲れ様でした!」
桃が大きく息を吐く。
「一条さん、桃ちゃん、お疲れ様でした」
「おつかれ」
茜と葵も近寄ってくる。
桃はすぐに端末を確認した。
「コメント、すごいですね。販売店を聞いてる人も結構います」
「あとは実際に売れれば成功だな」
「主任の話も多いですけどね」
「それはどうでもいい」
「いちじょー、人気者」
そんな人気はいらない。
「さ、帰ってお昼にいきましょー」
「そうだったな」
「お肉」
「寿司じゃなかったのか」
「お肉と寿司」
「増やすな」
「葵ちゃん、お肉は次にしましょう」
「茜が言うならそうする」
なんで俺の話は聞かないんだよ。
転移陣に乗って地上に戻った。




