第64話 魔力の増やし方
「コラボ、楽しみですねー」
桃が完成した片手剣を眺めながら言った。
「まだ相手も決まってないぞ」
「でも、やるのは決まったじゃないですか!」
それはそうだけどな。
「ただ、コラボではこの武器使えないんですよね」
茜が二本のワンドを見る。
「お披露目までは配信に出せませんからね」
「そうなんですよー。せっかく完成したのに、しばらく実戦で使えないのはもったいないです」
「使いたい」
葵もモーニングスターを持ち上げる。
「じゃあ、週末にダンジョン行きます?」
桃がこっちを見る。
「俺は行かないぞ」
「えー! なんでですか?」
「週末は忙しい」
「一日ぐらいいいじゃないですかー」
「よくない」
休みの日まで仕事仲間とダンジョンに行く予定はない。
「じゃあ三人で行きます?」
「そうしろ。15までは三人で大丈夫だ」
茜が少し考える。
「でも、せっかくなら一条さんにも見てもらいたいですね。実戦で使って問題がないかも確認してもらえますし」
「私も」
「行きましょうよー」
「だから週末は無理だって」
「じゃあ仕事で行きましょう!」
「無理だろ」
「即答!」
諦めろ。
「新しい武器を使いたいからダンジョンに行きます、で仕事になると思うか?」
「……ならないですね。何か理由つけられません?」
「理由って……」
仕事としてダンジョンに行く理由か。
ダンジョンで出来ること――。
「あー」
「何かあります?」
「17階層に魔装金属が採れる場所がある」
「17階層で採れるんですか?」
桃が食いつく。
「ああ。次に向かうルートからは外れてるけどな」
「それです! 会社で使う分を取りに行きましょう!」
「勝手に決めるな。怒られる」
「でも、試作で使いますよね?」
「使うな」
「あって困るものでもないですよね?」
「まあ」
「じゃあ仕事です!」
嬉しそうだな。
「たしかに、試作で使う魔装金属の採取ってことで申請が通れば、仕事にはできる」
「出しましょう!」
「行く」
葵も乗り気だ。
「17階層なら、新しい武器を試すにはちょうどよさそうですね」
茜まで行く気満々か。
まあ、魔装金属はいずれ使う。
ついでに武器の確認ができるなら悪くない。
「分かった。申請出してみろ」
「やったー!」
「まだ通ってないぞ」
「通ります!」
お前が決めるな。
◇
翌日。
申請は普通に通った。
会社、桃に甘くないか?
出発前。
装備を確認している葵を見て、昨日の話を思い出す。
「そういえば葵」
「なに?」
「魔力増やしたいんだったな」
「うん」
二人にも教えとくか。
「桃と茜も聞いとけ」
「私たちもですか?」
二人がこっちを見る。
「魔力量が増える理由は知ってるか?」
「知ってますよ」
桃が即答する。
「学校でも習いますからね」
「モンスターを倒した時に、身体を構成していた魔力の素の一部が周囲に散って、それを吸収するからですよね」
茜が続ける。
「ああ」
さすがにそこは知ってるか。
「だからいっぱい倒す」
「じゃあ、効率よく増やす方法は?」
「効率?」
葵が首を傾げる。
「普通に倒す以外に何かあるんですか?」
桃も興味を持ったらしい。
「モンスターを倒した後に出る魔石……割ったことあるか?」
「いや、普通は割りませんよ」
桃が即答する。
「売れますからね」
「でも、割れたことはありますよ」
茜が少し考える。
「複数を相手にしている時に、最初に倒したモンスターの魔石が巻き込まれて割れたり」
「ある」
葵も頷く。
「その時、割れた魔石の破片はどうなった?」
「破片?」
「なくならなかったか?」
三人が黙る。
「……あ」
茜が先に反応した。
「そういえば、後で回収しようとした時に残ってなかったことがあります」
「私もあるかも。割れたと思ったのに、破片が見つからなかったこと」
「ある」
葵も思い出したらしい。
「なんでなくなるんです?」
「魔石が割れると、魔力の素に戻って散ってしまうからだ」
「だから破片がなくなるんですね」
桃が納得したように頷く。
「吸えば増える?」
葵が聞く。
「ああ」
「じゃあ、魔石を壊せばいいんですね」
桃が納得したように頷く。
「それなら、会社にある魔石を持ってくればもっと早くないですか? いっぱい壊せば一気に――」
「無理だぞ」
「なんでです?」
「時間が経つと魔力の素が完全に固定されるからだ」
「固定?」
「ああ。そうなると、ただ割れるだけ。破片も残る」
「……もったいないだけですね。じゃあ、倒した直後じゃないと意味がないのか」
「そういうこと」
「すぐ壊す」
葵が頷く。
「まだあるぞ」
「まだ?」
「魔石を壊す前に、自分の魔力を全身に回しておく」
「魔力循環ですね」
「ああ。散った魔力の素が、自分の魔力と混ざりやすくなる」
「その方が吸収しやすい?」
「そう」
桃が頷く。
「じゃあ、魔力を循環させた状態で倒して、その直後に魔石を壊す」
「それが一番効率いい」
「覚えた」
「私もやります!」
「私も試してみたいですね」
三人ともやる気になったか。
「でも一条さん」
桃が少し考える。
「これ、かなりすごい方法じゃないですか?」
「そうか?」
「そうですよ! なんで公表しないんです?」
「していいと思うか?」
「え?」
「魔石を壊せば効率よく魔力量を増やせるって広まったら、どうなる?」
桃が考える。
「みんな……壊す?」
「魔石の流通量が減る」
「あ」
茜も気づいた。
「エネルギーとして使われている量も多いですから、市場に影響が出ますね」
「値段も上がるだろうな」
「それは困りますね……」
「それだけじゃない」
「まだあるんですか?」
「大きいクランなら、一人に集中させられる」
「集中?」
「全員でモンスターを倒して、出た魔石を一人の近くで壊す」
桃の顔が変わる。
「あー……一人だけ一気に強くする?」
「ああ」
「魔石を売らなくても困らない大きなクランほど有利になりますね」
茜が言う。
「そういうことだ。それに、俺たちが知ってる方法をわざわざ広めて、自分たちの有利をなくす必要もない」
「そこもあるんですね」
それが一番だ。
「じゃあ秘密ですね」
「少なくとも俺から広める気はない」
「分かりました」
「私も言いません」
「秘密」
葵も頷く。
「じゃあ早く行く」
「今日は魔装金属を取りに行く仕事だからな」
「ついでに壊す」
「そのうち、ついでが本命になりそうだな」
「ならない」
本当か?
今日は素材採取だ。
……まあ、三人の魔力が増えるなら悪くないか。




